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おばあちゃんがもう少しおばあちゃんになったらやりたいことって?

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記事:Koito(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ワクチンも打ったし、緊急事態も明けたから、そろそろどっかいかない?」
「そうね、あの東北の温泉どう? 」
「あそこは一回は行っときたいけど、混浴だし、もう少しおばあちゃんになったらかなあ」
「そうね、まだなんだか抵抗あるよね。もうちょっと歳いってからにしよ」
母と、友達の順子さんの会話だ。
 
二人は中学時代の同級生。子育て中は少し離れてはいたものの、私たち子供の手が離れた20年くらい前からは毎年海外旅行などにも一緒に行く古い友達だ。
 
彼女らは毎週私が教えるヨガクラスに参加してくれている。
二人は同級生。当然、歳も同じ。今年で74歳。
 
来年には後期高齢者となる二人がともに、「もう少しおばあちゃんになったら……」と話す会話を聞きながら私は思った。 「もう少しおばあちゃんになったらって、いつ? 今でしょ」と。
口にこそ出さなかったが、なんだか、笑いが込み上げてきた。
 
なんだか小さな子供が、大人ぶってままごとをしているその会話を聞いているのに似た感覚がそこにあったのだ。まるで大人が子供(若い子)の真似をして会話しているような変な感覚だった。
 
そして彼女らの感じている(自分)というものと、客観的に年齢という数字で測られる客観的な見られ方には大きなギャップがあることに気づかされた。
 
そう、彼女たちは自分たち自身を若いとは思っていないのだろうが、高齢者という自覚はほとんどないのだろう。
 
二人とも、顔には生きてきた分だけのしわがあり、白髪もそれなりにある。しかし、ヨガクラスでの少しハードなポーズにも果敢にチャレンジする気持ちも体力もある。
 
ある休みの日に、二人と共に出かける機会があった。
私たちは用事を済ませた後、母が言う
「せっかく出かけてきたから、秋のブラウスでもみてかない」おしゃれ心も忘れてはいない。彼女たちの買い物に付き合いながら、デパートを歩いていると、2年ほど前に良くヨガクラスに参加してくれていた生徒の加藤さんにばったり会った。
 
加藤さんは、声を掛けられなければ彼女とわからないほど背中は丸くなり、表情は暗い。話をしてみると、コロナ騒動で外出を家族から止められ、ヨガもいけず、外出も約2年間かなり制限していたようだ。彼女も母たちと同じ74歳。
その言葉の端端に 「もう年だから 」 「もうできないから」という発言が目立つ。
この先に楽しみを見出しているとは思えない様子だった。
 
目の前にいる彼女は、私の隣にいた母たちより10歳ほども老けて見えた。
 
年齢は数字でしかないのかもしれない。どんな数字であっても、おばあちゃんと思ったら、その瞬間からおばあちゃんはやってくるのだ。
 
母も順子さんもいわゆる団塊の世代。結婚と同時に夫の親と同居の生活をスタートさせ、日本の高度成長の真っただ中を生きる夫を支えながら、子育てをした人たちだ。その結婚生活は我慢も多かったという。家では泣けないから、夜中に映画館に行って泣いていたというエピソードを母に聞いたことがある。
姑、小姑などの煩わしい関係にも耐えながらも明るく前向きに日々を送る母をずっと見てきた。85歳で祖母が亡くなった時の葬式で、口にこそ出さないが、ほっとしている母の背中を見たのを覚えている。母に新しい自由がやってきた瞬間だった。
 
兄が結婚をし、家を建てる時、2世帯住宅にしないかという彼の誘いも、「一緒に住むのは大変だから」と同居をすっぱりと断り、10年前に父をがんで亡くしてからも一人暮らしをエンジョイしている。姑を見送り、夫を亡くしてから第2の人生が訪れたのだ。それまで制限されていたいろいろな自由が広がったのだ。
 
それから母は、コーラス、書道、水泳、体操といった習い事を始めた。毎年海外旅行にも出かけている。まだまだ、やってみたいことが山積みのようだ。
2020年のオリンピックに向けて、海外の人と会話する機会があるかもしれないと2019年からは英会話も始め、オリンピックのその日に向けての趣味も増えた。コロナの影響で実際行くチャンスには恵まれなかったが、今も近い将来行けるであろう海外旅行に備えて英語の勉強も続けている。人生を決してあきらめないのだ。
仕事も、父が10年前に他界してからは、小さいながらも父が経営していた会社の代表となり、今もなお現役で働いている。
「お母さん、いつまで仕事続けるの」という私の問いかけに、
「必要とされている、できることがあるうちはやろうかと思ってるわ。もう少しおばあちゃんになって、車も乗れなくなったら考えようかしらね」
 
孫も3人いる立派なおばあちゃんだが、もう少しおばあちゃんになるときを思い描きながら、彼女は毎日を送っている。彼女にはまだ老後が来ていないのだ。75歳は老いた後、ではなく老いていく過程でしかないのだ。75年の人生を生きても、まだまだ未知の世界があり、もしかしたら、新しい何かを見られるかもしれないというきらきらした思いを描きながら歳を重ねていくのは、少女のころと変わりないのだろう。
 
人生100年時代。おばあちゃんになってからが長いはずだ。
「もう少しおばあちゃんになってからしたいこと」をたくさん持つことは、長い高齢生活を過ごすために大切な感覚なのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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