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うずらの雛がクッキーになった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ザキタロー(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「おーい、にわとり飼ってもいいか」
私は、散歩から帰ると嫁に言った。
たった一言「ばか」。それだけである。
 
以前、畑で野菜を育てていた時に、長野県で自給自足の生活をしながら野菜作りをしている人の本を読んだ。
 
畑、田んぼ、味噌作り、漬物、種の採取、こんにゃく作り、養鶏、鶏卵なんでもやっている。
その生活に憧れた。
 
ある時、近所の畑のあたりを散歩していると、鶏小屋を見つけた。
 
全然、気がつかなかったが、こんな所で鶏を飼っていたとは。
しばらく眺めていると、自給自足の憧れ、あの本の影響で、無性に鶏を飼いたくなった。
 
そして、自分で育てた卵で卵かけご飯を食べれば美味しいだろうなと思いながら、家路についた。夢の自給自足へ一歩近づくぞと、ワクワクしてきた。
 
家に帰って、早速、嫁に相談をした。
冒頭の返答である。
 
我が家のある町は、住宅街と畑が混在しているような町で、そんな簡単に鶏を飼えるような場所ではないのである。
 
冷静に考えるまでもなく、住宅街で鶏を飼うのは難しそうだ。
 
なんとかならないかと思い、ネットでもいろいろ調べたが、いい案はなさそうである。
 
でもグーグルは、私にある提案をしてくれた。
ならば、「うずら」は、どうだ。しかも有精卵だぞと。
 
そうか、小型だし、なんとか庭で飼えそうである。
卵3つくらい足せば卵かけご飯は食べれそうだ。
 
調べていくと、愛知県の豊橋が、うずらで有名なようだ。そして、ネットで有精卵の販売を行っている業者を見つけ注文した。
 
確か「有精卵のうずら卵24個入り、980円」だったように思う。
 
どうせやるなら息子と娘も巻き込んでしまえと思い、うずら卵を孵化させるから、
付き合って欲しいとお願いをした。
嫌がると思ったが、意外と乗ってきた。
だが、嫁は、相変わらず冷たい視線である。
 
そして、待望の卵が到着した。
問題は、どうやって温めるかである。
 
孵化機なるものが売っているが、高い。自給自足をイメージして、なんとか手作りで仕上げたい。いい材料はないかと子供たちとホームセンターに行った。
 
発泡スチロールの箱があり、そこに綿を敷き詰め、下に暖房器具を敷けばどうだろうと息子が発案した。
なかなか、いいではないか。その計画を実行に移すことにした。
 
そして、箱にできるだけ卵をおいた。
12個くらいが限界であった。もちろん、残り12個は、家族で美味しくいただいた。
 
常に38度近くを保たなければいけない。温度計を入れながら温度の調節を頑張った。
 
ネットによると3週間くらいで孵化するらしい。2週間くらいしても、その気配が一向にない。
もう、だめかな、やっぱり、こんなことでうまくいくわけがないと諦めかけていた。
 
ある夜、ゴソゴソと何か音が聞こえてくる。なんだと思い、蓋を開けると1羽がかえっているではないか。
 
子供たちも大喜びである。何を隠そう馬鹿にしていた嫁が一番喜んでいる。
生命の神秘、逞しさを実感することができた。
 
そして、次の日も1羽、次の日も1羽と3羽になった。
 
毎晩、箱の中を確認するのが楽しくなってきた。
だが、孵化寸前で息絶えてしまうヒナを目の当たりにしたこともある。
その光景も記憶にあったため、ある日、卵がひび割れてなかなか出てこないので、卵の殻を剥いて手伝ってやった。
親鳥が絶妙なタイミングで卵を突くという話を聞いたことがあるが、本当なのだ。
私が剥いてしまったせいで、そのヒナは自力でかえることができず死んでしまった。
自然に逆らってはいけないとともに、とてもひどいことをしてしまった。
 
そして、私は、自然の力を、まだまだ侮っていたようだ。
 
会社に娘からラインが届いた。
 
「お父さん、すごい、七羽になった」
 
私は、正直期待していなかったのである。2羽くらい生まれれば万々歳との程度だったのである。
 
最初は喜んでいた嫁も形相が変わってきた。
「どうすんの、あんた」「あんたと言われても」である。
「飼うぞ」「絶対、飼わない」「卵美味しいぞ」「絶対、だめ」の応酬が続いた。
 
ある晩、我が家で家族会議が開かれることになった。
議題は、「生まれたうずらの引き取り手を探す」である。
 
まずは、ネットで里親募集投稿をすることにした。
 
1件応募があった。
 
近くのホームセンターの駐車場に夜8時に待ち合わせすることになった。
 
マフィアと白い粉の受け渡しに行くような気分である。
 
約束通り、取引相手は、約束の場所に現れた。周りを警戒している様子はない。
 
だが、相手は何者かわからない、安易に近づきすぎてはいけない。
 
「先に渡してもらおうか」と相手がいってくるので、鳥籠から一羽のうずらを渡した。
 
取引成立だということで、クッキーの詰め合わせをいただいた。
 
家に帰り、文句を言っていた嫁は、喜んでクッキーをほうばったのである。
ネットで買ったうずら卵が、クッキーに変わった瞬間である。
いやいや、生き物に対して、こんなことを言ってはバチが当たる。
 
困ったのは、残りのうずらたちである。
里親募集もちらほらあったが、最終的には引き取ってもらえなかった。
駄目もとで、子供たちが通っていた幼稚園にお願いして見ることにした。
園長先生に掛け合い、なんとか6羽とも引き取ってくれることになった。
 
しばらくして、子供たちと幼稚園にうずらを見学に行った。園児たちに可愛がられ、元気に暮らしていた。
しょうがない、これでよかったのだ。
 
1羽くらい残しておけばよかったかもしれないが、さすがに、この騒動で疲れてしまった。
 
自給卵かけご飯の夢は、持ち越しになった。
 
だが、ふと思った。うずらを孵化させることは、消費者金融のキャッシングローンのようなものかもしれない。
 
何事も計画的でなければいけないのだ。
 
そして、生き物は大事にしないといけないと痛感させられた。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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