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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大河内二郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
年を取ると体力が衰える。これは避けることができない。だからスポーツにはしがみついていたい。
 
つい先日、奈良県五條市で開かれたシクロクロスという自転車のレースに行ってきた。40歳以上が出場できるマスターズのカテゴリーで、結果は14位。
ぱっとしない成績だ。
去年も同じレースに出て、やはり結果は14位。
この二つを並べると、大きな意味がある。
それは、この1年は体力を落とさずに過ごせたということだ。
 
私が自転車に乗り始めたのはもう17年前、38歳だった。妻にそろそろメタボになりそうだから、何か運動でも始めたら、と言われたのがきっかけである。当時の趣味といえば、映画や漫画や読書が中心で、運動らしいことはしなかった。
 
一方妻は自転車が趣味だったから最初は一緒に近くの山にマウンテンバイクで出かけた。そのうち家の近くにある自転車屋の店長に誘われて、ロードバイクの走行会に行くようになり、いつの間にか毎週日曜日に100キロぐらい走るようになった。自転車通勤も始めた。
 
そんな走行会に一緒に行く仲間に自転車歴30年以上の超ベテラン君がいた。一度癌になり、手術や抗がん剤治療を経て復帰。そんな彼から「シクロクロスやってみない?」と誘われた。「最初はマウンテンバイクでいいから」「しかもレースの時間が短いし、ロードレースより参加費が安いよ」
 
そこで、彼に連れられて行ってみた。
シクロクロスは冬の競技で、毎年10月から2月にかけて全国で開催される。レースは細かくカテゴリー分けされており、初心者の私でも比較的参加しやすかった。また砂や泥や川の土手などのオフロードの様々な路面が面白かった。雨に濡れた泥の斜面なんかあると、みんな揃って滑ってと転び落ちる。急に深くなる砂場に前輪を突っ込んでは大きく前転したりもする。まるでドリフターズのドタバタ喜劇だ。自分の出番で無い時は、それを眺めるのも楽しい。自分で派手に転んだときは、証拠写真に残してもらえると嬉しくなる。そんな風だからいつの間にかレース会場に通うようになった。
 
幸い私の自転車通勤路に、そんなオフロードを5キロメートルぐらい取り込めるルートが見つかった。そしてついにシクロクロスバイクも買った。形はロードバイクと似ているが、タイヤが少し太い。
 
レースは舗装路ではないからスピードが出にくい。従ってロードバイクのレースよりも安全で怪我は少ない。さらには1周2キロ程度の比較的狭い周回路を回るので、仲間や家族がどこを走っているかがすぐにわかる。コースサイドで応援できるから選手と応援する観客の距離がとても近い。レースの時間は約30分から長くて1時間でロードやマウンテンバイクのレースよりも短い。仕事、家族などであまり長いトレーニング時間をかけられない私には合っていた。
 
また、体力だけでなく、自転車のコントロール技術や経験が必要になるのも面白かった。例えば砂の上の轍を上手にトレースして乗っていけないと、自転車が止まり、自転車を担いで脚で走らなければならなくなる。そうなると大幅にタイムロスをする。そういう練習はロードバイクには全くなかった。そんなことが重なってシクロクロスに嵌っていった。いつの間にかロードバイクの練習会にはあまり行かなくなった。
 
通勤で毎日オフロードを走っているうちに少しずつと強くなって、関西の地方レースで、初めての表彰台を経験した。2.3年はそんな風で調子に乗ったこともある。それは40代最後の栄光だった。
 
50歳を過ぎてからは、表彰台に全く届かなくなった。今思えば50歳が境目で、私が体力を維持できる最後の年齢だったのだ。体力の衰えを毎日の通勤路ではっきりと感じた。ピークの時は10分で行けたルートが、今は12分かかっている。これからさらに落ちるだろう。
 
体力が落ちているのは分かっていてもトレーニングは続けている。いやむしろ、体力が落ちてからの方がトレーニング時間は増えたかもしれない。最近は外を走る実走だけでなく、家の中のインドアトレーナーで走る時間が加わった。
 
「練習のし過ぎじゃないか」と指摘するライバルもいる。彼の練習量は私よりずっと少ないが、私より強い。ただ、私がこれ以上にトレーニング量を減らすと、練習後の爽快感がなくなり、他のことも負のループに入って、今度は鬱状態になりそうで不安になる。
一方私より多く練習しているライバルもいる。私よりいつも速いが、それでも彼も体力が落ちていると嘆いている。トレーニング量は人それぞれだ。
 
トレーニング後は気持ちがいい。これは交感神経が活発になり、さらに快楽物質であるβ(ベータ)エンドルフィンの作用で気持ちが高まり、幸せな気分になるためだと言われている。私は単に体力維持だけではなく、快楽すらトレーニングから貰っているのだろう。だからレースと同様、トレーニングも楽しい。
 
また以前は怒りっぽかった私も、トレーニングに一定のリズムができると怒らなくなった。さらに運動の快楽はポジティブに働いて、仕事のストレスもほとんど感じることはない。トレーニングの効果は絶大だ。
 
例年10月の初レースに行くと、「あけましておめでとう」と挨拶する。みんなこの時期を待ちわびているのだ。そして10月から2月の間、関西だけでなく、色んなところに遠征もする。そこで日本中のライバルたちに会うのも楽しい。私が他の地域に遠征に行けば遊んでもらえるし、他の地域のライバルが関西のレースに来る時には、我が家に泊まっていくこともある。そしてさらに仲良くなる。
 
一緒にレースを走るライバルは一番の仲間だ。またトレーディングカードゲームのように、色んなキャラクターが集まるほどレースは面白くなる。
 
年を取るといつかそれも出来なくなる時がくるのは理解しているつもりでも、少しでも先延ばしにしたい。スポーツは、体の健康だけでなく、心の余裕、そして友人達も与えてくれる。だから可能なかぎりしがみついていたい。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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