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誰がゲームに依存しているのか?


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記事:吉田けい(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「マリオやっていい?」
 
ここ最近息子は事あるごとにそう尋ねるようになった。マリオとは言わずと知れた、赤い帽子、だんご鼻、ひげ面のアクションゲームの主人公だ。スマホで幼児向けのアプリで遊んでいた息子は、パパを真似てリングフィットをやるようになり、YouTubeキッズでゲーム実況動画を漁るようになった。たしかこの夏くらいからだったと記憶している。
 
ゲーム難度を考えると、ボタン操作が複雑なものや、文章を読んでストーリーを理解しなければ先に進めないRPGなどはまだ難しいだろう。そうすると、Nintendo Switchの有料会員になると遊ぶことができる、元祖ファミコンのマリオあたりが幼児のゲームデビューには相応しいのではないか。そう考えて、ファミコン版スーパーマリオブラザーズを息子にプレイさせてみたら、どっぷりとハマってしまった。最初は右手でABボタン、左手で十字キーを操作するのすら難しがり、片方を大人に押させてのんびりのんびりプレイしていたが、今や私より上手くなった。
 
「ねえ、マリオやりたい」
 
Nintendo Switchでファミコンソフトをプレイすると、失敗しても巻き戻せるし、ゲームシステムに関係なくいつでもセーブできる。かつてはヒイヒイ言いながら必死にセーブできる王城まで戻っていた世代としては、感無量のありがたい機能だ。息子は巻き戻しを駆使し、何度も再挑戦しながらメキメキ腕を上げていった。
 
「マリオやる」
 
上手くなればなるほど、さらなるチャレンジを求めるのは大人も子どもも同じだ。ちょっとでも暇だと思うと、息子はすぐにマリオやりたいというようになった。
 
「トイレでおしっこできたらね」
「うんちお漏らししなかったらね」
「朝ごはんとお支度終わったらね」
「手洗いうがいが終わったらね」
 
当初は子どもの頃の記憶に倣い1日30分までとしていたが、可愛らしく懇願する様子に負けてだんだんとプレイ時間が伸びていった。プレイに夢中になりすぎてお漏らしをするようになり、トイレが成功するまでゲームなし、としたら、トイレが出来ればゲームができるとポジティブ変換され、1日1回のきまりもなし崩し的になくなった。どんどん伸びるプレイ時間と、息子の懇願。ゲームばかりしないように気を付けなくてはと思いつつ、何か息子がわがままを言うと、ついゲームを引き合いにしてしまう。ジジババが子守をしてくれる時も、気が付けば彼のゲームプレイを応援しているのが多くなった。
 
「ゆーたん、ちょっとゲームやりすぎだよ」
「うーん」
 
息子にゲームを辞めるように促しても、上の空の返事が返ってくる。セーブポイントまで戻ったら。このエリアをクリアしたら。その場しのぎで怒られない言い訳をさっと用意して、いつまでもいつまでもマリオを操作したがる。業を煮やした私や夫がコントローラーをもぎ取るように奪ったり、テレビの主電源を切ってしまうと、手が付けられないほど泣いて怒る。
 
これはよろしくない。
幼稚園児にしてゲームに依存しているのではないか。
 
育児エッセイでも、小学校以上に進学した子供がゲームばかりやって宿題をやらずに苦労する親の体験談をいくつも見かける。どの人も苦労して子どもがゲームに触れあうルールを制限し、やっとの思いで宿題を、勉強を、そのほかのことをやらせているそうだ。エッセイの中の登場人物は、宿題や勉強などやるべき事があり、それらを終えることができないからという理由でゲームの時間を制限していた。息子が大きくなったら確実にこれらのエッセイと同じようになる。むしろこんな小さいうちからゲーム漬けになっていたら、小学校に入ったら手が付けられなくなる。是が非にもここで食い止めて、ちゃんとした習慣を身につけなくてはいけない。
 
「ゆーたん、ゲームは一日1回にしようね」
「わかった」
 
息子は口では良い返事こそすれ、それでもトイレに成功する度に、風邪薬を飲む度に、ゲームを要求することを止めなかった。私もほんの少しだけ、と応じていくうちになし崩し的に元に戻ってしまう。ゲームを辞めさせたいのに、ゲームをしていいかと尋ねられるとつい許可してしまう。頑張っているご褒美だからやってもいい? 逆に、ゲームという報酬がなくても手くらいさっと洗えなくてどうするのか。他に何か、息子にとっての楽しみを見出してやるのが親というものではないのか?
 
「ねえ、あそぼうよー」
「ちょっと待ってね、今洗濯してるからね」
「じゃあ、トイレいくから、マリオやっていい?」
 
いいよ、と無意識に応えかけていた口をつぐんだ。
 
ゲームをするなと息子に言いつつ、息子がゲームをしているととても家事が楽になるのだ。ちょっと洗濯、風呂掃除、夕飯の支度、まだハイハイもできない下の娘と違い、どこまでもちょろちょろとついてくる息子がいるとものすごく作業効率が悪くなる。そんな時にちょっとゲームをしていてくれると助かる。そんな気持ちから、息子がゲームをやりたいと言ったらついつい許可してしまっていたのではないか。
 
家事をしないで遊んでいる時間も、戦いごっこを延々とやるよりも、息子が操作するゲーム画面を見ながらあれやこれやと合いの手を入れる方が圧倒的に楽だし面白い。だから遊びの時間でも、ゲームがやりたいと言われれば、つい楽さを求めて許可してしまっていたのではないか。夫もジジババも同じように遊び時間にゲームばかりになってしまうのは、息子がせがむだけではなく、のんびりソファーに座りながらコメントしていればいいからなのではないか。
 
ゲームに依存しているのは息子ではない。
息子がゲームをすることで楽をしている、私たち大人だ。
 
「……洗濯終わるまで待っててくれる? そうしたらその後遊べるから」
「えー! ゲーム、ゲームう」
 
息子は不平の声を漏らしたが、私が頑として許可をしないと、ブツブツいいつつも私のそばをウロウロしてゲームをやらなかった。家事があっても仕事をしていても、息子がゲームばかりすることに依存して楽をしてはいけない。そのせいで息子が自分でゲーム時間をコントロールできない大人になってしまったら目も当てられない。
 
「一緒に戦いごっこしようね!」
「うん!」
 
まずは私がゲームから脱却しよう。
そんなことを誓いながら、足にまとわりつく息子の頭をぐりぐりと撫でたのだった。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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