驚きの新事実
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記事:井上 春花(ライティング・ライブ東京会場)
特にそれについて考えることもなかったため、誰もが知っているようなことなのに、ついぞいい歳になるまで知らなかった……なんてことはあるだろうか?
その自分にとっての「驚きの新事実」に出会うとき、また出会った人を目撃するとき、言いようもない感動を覚える。
どうして?
なんで?
どうやって?
その当たり前に出会いそうなことを避けてこられたのか?
今までで一番の、その奇跡の瞬間に出会った経験は、義母の「知らなかった~」事件である。
あれはまだ娘も生まれていなかったから、10年くらい前だろうか。
私たち家族(夫・私・息子)と義父母と5人での沖縄旅行でのことだ。車の中で、台風上陸のニュースに耳を傾けていた。
運転している義父。助手席に座った義母。後ろに座った私、夫、息子。
「この辺でしょ? いま、ここに来てるでしょ?」
沖縄の位置を、懸命に左手を上にあげて表現する義母。
「どこそれ? それってなんの位置なの? なんで沖縄が上の方にあるの?」
「だから、沖縄はここでしょ。」
……。
噛み合わない会話を何往復か繰り返し、もはや禅問答の様相を呈してきたとき、義母と幼い息子(当時1歳)以外の大人3人は、悟った。
義母は、テレビの天気予報などで使われる日本地図を思い描いている。遠すぎるために線で区切られ、日本の地形の都合上ちょうど空きがあったために、左上に配置されている沖縄諸島。あれを沖縄の位置だと思っている……。
義母は当時65歳。65年間、あれが本当の沖縄の位置ではないということに、気が付かなかった人がここにいる。開いた口が塞がらない。
束の間、絶句したあと、私と息子である夫は大笑いしたが、長年連れ添った義父は「またか」みたいな表情で、無言でハンドルを握っていた。
どうやって知らずにこられたのだろう。
日本地図はあれだけではないし、むしろあれは特殊なホンの一部の日本地図の表現だし。
誰かと沖縄について話すことがあれば、どこかで気が付いてしまいそうなものだし。
そして、飛行機を使って沖縄まで来たではないか。もちろん東京から南下して。
と、突っ込みどころ満載なのだが、同時に「よくぞ! よくぞ!! その思想を汚されることなく、今日までたどり着いたものだ!!」と感動すら覚えるのである。
しかも、このケースは65年ものだ。大切に脳内で65年間熟成されてきた。
その日、たまたま、ほんのはずみで、その秘密は白日の下にさらされたに過ぎない。
また、日々発見のあった幼い時の記憶の中にも、そうした感動の種は転がっている。「全く知らないことに対する人の反応」、その鮮烈さたるや、舌を巻くものがある。
汚い話だが、子供のころ私は鼻をかむ習慣がなかった。子供なので鼻水は出るのだが、どうしても吸ってしまうのだ。垂れそうだな……となると、反射的にずずっ。繰り返すうちに、喉の奥がゴロゴロしてきて、つまり痰が絡んできているのだが、当時の私は知らなかった。
そろばん塾の帰り道、子供の足で徒歩15分程度の道は、畑や田んぼを抜ける田舎道だった。その日も畑の脇を歩いているとき、ふと喉のゴロゴロが気持ち悪くて咳をした。すると、何かがピョンッと飛び出した。
自分の口から何かが飛び出すなんて、初めてのことだったので動揺した。
ありえない発想だが、
「内臓がとびだしちゃったのかも……。」
本当に真剣に、そう思った。放物線を描いて着地したであろうポイントに目をやる。畑の上に、泥まみれの黄緑色のトロっとしたものが落ちていた。
これは私の内臓なのだろうか??
しばらく私はその場で迷った。
もし後でお医者さんに行ったときに、取れちゃったパーツは、やっぱり持っていたほうがいいのかも……。
黄緑色のトロっとした物体「痰」を見つめて、持って帰ろうかどうか、深刻に悩んだ。
結局、ほとんど本能的に「これはきっといらないものだ」と判断し、その場を後にした。
今となれば、
「拾わなくてよかったよーーーー!!!!マジでーーーーーー!!!!!(涙)」
と思うのだが、その時は冷静に「いや、体はどこも痛くも痒くもないじゃないか」と思えるまで、しばらくグルグルと考え込んでしまった。確信を持つまでには至らず、もしかしたら内臓かもしれないそれを、思い切って捨て置いた。
すごくバカらしいのだが、このモノとコトバが結びつかないときの経験が、私にとってはとても大切な記憶だ。
「義母の沖縄の位置」と「幼い私の痰」。完全なる思い違いや無知は、情報溢れる毎日において、なんて貴重なものだろう。
それは、純度100%でその人だけの解釈で捉えた姿。本来、他人が見ることができないものだ。正解を知ってしまった後には、思いつくこともできない。
そんな、人間の思考の面白さについて思いを巡らせていたとき。これまた思いもよらない方向から「驚きの新事実」を知った。
いつものようにラジオを聴いていると、話題は「キノコ」のことに。
我々がキノコだと思っているものは、「子実体」というキノコの体の一部で、地中に張り巡らされた菌糸こそがキノコの「本体」だというのだ。
その得体の知れなさに薄ら寒い恐怖を感じつつも、私は俄然、キノコに興味が出てきた。
だって、人間の思考そのものではないか。
本体の思考は地中に埋まり外からは見えない。複雑に絡み合っている。
何かのはずみでポンッと子実体として外に出てくると、何やら個性的な面白い形をしている。長年の勘違いも、子供の無知ゆえの発想も、相当貴重で珍しくて美しい形をしているのではないかと夢想する。
キノコの美味しい季節。このキノコはどんな菌糸の結晶なのかな? なんて味わうのも、オツなものかもしれない。人の発想も、そんな風に美味しく味わいたいものだ。
***
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