メディアグランプリ

あなたへの愛の重さは醤油300ml


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:関根夏歩(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
幸せはこの世にいっぱいある。
 
私の数ある幸せのひとつは、休日の日が落ちる前から呑み始めることだ。
 
その日も揺るがない幸せな時間を彼と過ごしていた。
刺身とつまみを用意し、彼はハイボール、私は日本酒で乾杯をして宴が始まった。
酒の肴は今日のお出かけについて。
少し前に上映が始まった洋画がお互い気になっていたので一緒に行く約束をしていたのだ。
映画に行った時、私たちには約束事がある。それは寄り道をせずに家にまっすぐ帰ること。
映画好きな私たちは感想を言い合うと一向に終わらず2時間以上話してしまうし、興奮すると周りが見えずに大きな声を出してしまう。
それなら家に帰ってゆっくり過ごしながら話そうとなったのだ。
はやる気持ちを抑えながら、帰り道は何を食べたいかを話し合いながら買い物を済ませ、手間のかからない料理をすぐに用意する。
 
用意が終わり乾杯を済ませると、堰を切ったように感想を言い始める。
 
話は盛り上がり、ふと窓の外を見るとオレンジから藍色へ空が変わり始めている時だった。
日が短くなってきたことを感じながら、その様子を眺めていた。映画の感想も一通り話し終え、心地の良い沈黙の時間が流れていた。
その静かな時間を破ったのは彼のひとこと。
 
「なんだか俺ばかりが好きな気がする」
 
急に真面目な顔になってそう私に言った。
 
ん?
この人は急に何を言っているのだろうか。酔っているのか。記憶を再生して今日1日を振り返ってみても喧嘩なんかしていないし、不穏な空気も流れていなかった、はず……
全く思い当たる節がないから、
 
「急にどうしたの?」
 
と聞いてみると、少し赤い顔でぽつりぽつり話し始めた。
 
「君からご飯に行こうとか何かしようとか誘われることが少ない」
 
「好きって自分から言ってくれない。君がいうのは僕が言った時だけ。まるで条件反射で言ってるみたい」
 
 
好きなことだと饒舌に話すのだが普段はあまり口数が多い人ではないから驚いた。よっぽど溜まっていたのかその他にもいくつか言われた。
まあ要約すると、私たちは付き合っているのに私からの愛情表現が少ないので、彼は本当に私が彼のことを好きなのか、どう思っているのか不安に思っているらしい。
そんなこと思っていたとは知らなかった。
人を誘うことは昔から苦手で友達でさえも自分から誘うことはほぼしない。
日頃から感謝の気持ちや楽しいなどの感情を伝えることは常に意識している。
が、“好きだ” とか“愛してる”なんて好意を示す言葉は口にするとむず痒くなるのであまり積極的に伝えてはこなかった。
 
何より言葉なんていくらでも言えるからこそ、行動が全てだと思っていた。
 
好きじゃなかったらわざわざ一緒に映画なんて行かない。本当は私は家でゆっくり1人で映画を見るのが好きだから。
やりたいことが多いから、どうでもいい人と約束をするくらいなら1人でどこかへ行ったりすることを選ぶよ。
 
言わなくてもわかる、と思っていた私は傲慢だった。
だけども、悲しかった。私もちゃんと彼のことが好きなのに。
 
どちらかの気持ちが大きかったら、もう一方の気持ちは無かったことにされてしまうのか。
見えないものを比べることなんてできるのか。その質量は誰にも比べることなんてできないじゃないか。
人間関係なんて相手がどう思うかじゃなくて自分がどうありたいか、じゃないの?
 
頭の中に次々に出てくる言葉をそのまま伝えたら状況がこじれるなんて目に見えている。
そして私は咄嗟に、テーブルに置いてあった醤油を掴むと、
 
「私はあなたのことがこれくらい好きだよ 」
 
と言った。
 
彼は何を言っているのかわからない顔をしていた。
 
 
そうして彼が何かを言おうとしたその時ーー
 
 
アラームのけたたましい音が耳元で鳴った。
 
目を開くと見えたのはいつもの寝室の天井だった。
 
「なんだ、夢かあ」
 
あまりにもリアルな夢だったので安心してしまい、思わず声に出してしまった。
 
アラームを止めて、ぼうっと天井を眺めていると先程の出来事が再び頭の中を駆け巡る。
それにしても私が吐いた渾身の告白がダサすぎる。
 
醤油を持ちながら、「これくらい好き」
と言われても多くの人はわかるわけないだろう。なんだそれ。
 
実は醤油は多く摂取すると死に至る。
その致死量は、体重1kgあたり2.8~25mlといわれていて体重50kgの人であれば、140ml以上を摂取すると死んでしまうのだ。
つまり私は彼のためなら醤油を一気飲みするくらい、そのくらい彼が好きだということを伝えたかった。
 
気持ちがわからないって言われているのに、そんなまわりくどい言い方で伝わるわけないじゃん!
朝から自分の夢の中での発言に声を出して笑ってしまった。
 
と同時に、これは警鐘かもしれないと思った。
 
わかってくれるだろう、じゃなくて言葉でもちゃんと伝えること。
恥ずかしいからとか自分のことばかりじゃなくて相手の立場になって考えること。
 
夢なのに朝から考えさせられる出来事だった。
 
恥ずかしいけれど少しずつ、気持ちを伝える練習をしよう。
ぼんやりした頭でそう思うと、布団出て用意を始めた。
1日が始まった。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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