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40年ぶりのショパンコンクール

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記事:大河内二郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「これはひどい演奏です。ショパンの指示をまったく守っていない」
ショパンのソナタが終わった後、アナウンサーの質問に対して、解説者の女性ピアニスト先生がそう語った。
 
1980年当時中学生だった私はFMラジオを聴くのが好きだった。歌謡曲、ポップス、ジャズ、クラシック、あるいは民族音楽など何でも聞いた。これはNHKが数日に渡ってショパンコンクールの特集をしたのを聞いたのだと思う。
 
ラジオから流れていたのはショパンの葬送行進曲付きというピアノソナタだ。3楽章は人が死んだときにコメディー風に使われる有名なメロディー「ドードードドー、ミ♭ーレレードドーシド」がある曲だ。私が感動したのはこのソナタの冒頭、導入部が終わった後のスピード感、且つうねりがある第一主題だった。勉強していた手を止めて聞き入った。
 
これはロックだ。
 
女性ピアニスト先生は「ピアノとフォルテが逆、アクセントも違います」と続けた。
それから、他のコンクール出演者の演奏と、この演奏の冒頭部分がもう一度ラジオで繰り返されたが全く違って聞こえた。
 
私は楽譜のどこにピアニシモやフォルテやアクセントの記号があるかは知らない。何がミスタッチなのか、ほとんど分からない。ただこれはノリノリの演奏だ。当時の若者である私にはこちらが気持ちよかった。でもこの解説者の女性ピアニスト先生には、この演奏が正統ではなく、邪悪な別なもの、若者の悪戯、あるいは下手な若者の悪あがきに聞こえていたのだろう。
 
それから40年が経った。2021年のショパンコンクールは、コロナ禍の夜更かしにはとても良いエンターテイメントだ。帰宅後夜8時ぐらいから毎晩、若いピアニストの様々な演奏を聴いていると、ふと、あの40年前の演奏は誰だったのだろうと思い出した。当時「ひどい演奏」とレッテルを張られたから、かえって記憶に残っていた。
 
検索すると私の疑問はすぐに解けた。ピアニストの名前はイーヴォ・ポゴレリチ。今では大物のピアニストである。
1980年のショパンコンクールで、この青年は物議を醸した。というのはコンクールにジーンズで舞台に上がるし、正統的でない演奏だったため、本選まで残れなかったらしい。その時私は音だけしか聞かなかったが、当時の映像がYouTubeですぐに見つかった。しかも私が聞いたピアノソナタだ。
「あ、これだ、このノリノリの感じ!」
 
当時審査員だったマルタ・アルゲリッチ(アルゼンチン出身のショパンコンクール優勝経験者)は「彼は天才よ」とポゴレリチを本選に残さなかった審査委員会に抗議して、途中で帰ってしまい、その後20年間もショパンコンクールの審査をしなかった。これはポゴレリチ事件と言われている。そしてこの事件でポゴレリチはかえって有名になり、カーネギーホールでデビューして、日本にも何度も演奏しに来ていたのだ。
 
ショパンコンクールは3大ピアノコンクールの一つで、これまでも日本人の入賞が何度かあったことや、漫画「ピアノの森」の影響もあって人気が高い。私も漫画の影響で、ショパンコンクールを見るようになったが、いかんせん素人である。ある人の演奏が他の人の演奏より優れているとかはなかなか言えない。ただ、今はすべての演奏が動画として見ることが出来るので、どの演奏者が気に入ったか、あるいは感動したか、という視点で楽しむことが出来るのは便利だ。
 
2021年10月に開かれた本選では日本人5人が3次予選まで残った。そこからさらに2人が本選に選ばれ、二人とも入賞した。2位の反田恭平君と4位の小林愛実さんである。なんと二人は子供のころからの知り合いだそうだ。漫画「ピアノの森」に同じような話が出てくるのも奇妙な一致だ。
 
今回のショパンコンクールで、好きな演奏がいくつもあった。
特に3次予選で、例のピアノソナタ葬送行進曲付き、特にこの最後のフィナーレを素晴らしいと感じ、終わった後にトーンをがらりと変えてモーツアルトのドンジョバンニ(お手をどうぞ)の主題の変奏曲をノリノリ、かつ楽しく聞かせてくれた中国系カナダ人のBruce Liu君に心が奪われた。シリアスな音楽から、楽しいメロディーへの変化が最高のカタルシスだった。
 
そんなすてきな演奏を聞かせてくれたBruce Liu君は優勝した。彼の演奏も様々な批評家たちによると非主流派らしい。1980年ポゴレリチは優勝できなかった。でも2021年のコンクールでは一部の「主流派」専門家のお眼鏡にかなう演奏だけがいいという時代は終わり、主流派、非主流派という区分はもはや意味がないのではないか。
 
ショパンコンクールに出場するピアニストは、他に趣味もなく1日中ピアノに向かって練習しているだけ、と私も変な思い込みをしていた。
本選で2位の反田君は既に自分のオーケストラを持ち、演奏家のマネジメント会社までやっている。ショパンコンクールの際に、ライバルの演奏家を自分の会社に誘ったりしていたらしい。3次予選まで進んだ角野隼斗君は、Cateen(かてぃん)というユーチューバーで、クラシックだけではなく、ジャズや作曲、その他のアンサンブルにも挑戦していた。
 
いい演奏はクラシック音楽やロックなどジャンルの垣根を超えていく。今回の出場者たちにも、そんな活躍をしてほしい。
これからはどんなショパンが羽ばたいていくのだろうか?
 
 
 
 
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2021-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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