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料理で愛を伝えたい


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:林明澄(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「う~ん、美味しい!」
 
毎日11時半、昼休憩の時間になると、まず私は職場の冷蔵庫へ向かう。電子レンジで温めたお弁当箱を開けると、私は全神経を味覚に集中させ、一口一口、少しずつおかずを口に運ぶ。その度に毎回違った味がして心踊る。「明日も一日頑張って」前日夜の自分からのそんなメッセージが聞こえてくる気がする。つかの間の、仕事から離れられるその時間は、自分にほっと一息つかせてくれる休息の時間だ。
 
私にとって、お弁当作りはほんの1年ほど前まで未知の世界だった。忙しい夜や朝に、次の日のお昼のことまで考えていられないし、時間が経っても美味しく食べれるメニューを容易するのは難しそうと思っていたから、それまで一度も自分でお弁当を作ったことはなかった。お弁当を始めたきっかけは、コロナだった。
 
大学生の頃、私にとって友達とご飯に行くのは何よりの楽しみだった。ちょっとおしゃれなカフェでおいしいものを食べる予定があるだけで、大変なテストも乗り越えられたし、美味しいものを食べる時間を共有した友達とは普段できない話をたくさんできた。将来の話、夢の話、家族の話、恋愛の話…。私が大学生活6年間を過ごした宮城には、今でも時々たまらなく行きたくなるカフェやレストランがたくさんある。それらの場所は、大切な思い出に紐づけられている。
 
2020年3月31日、私は大学から突然、翌日からの自宅待機を告げられた。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令され、受講していた実習の授業が中止となった。新しい日々は貴重な休息になった一方で、私にとって平坦でメリハリがないものだった。もちろん友達と外食する事は許されず、予定はキャンセルとなった。友達と会えない日々は密度の薄いものだった。
 
なんとかして空虚な日々を充実させたい。自分の中でメリハリをつけた生活をしたい。そう思い悩み抜いた私は、料理に挑戦した。朝昼夜、しっかりご飯を自分で作って食べることを目標に、台所に立つようになった。毎日の生活に欠かせない“食事”から自宅で過ごす毎日のルーティーンを整え、充実させようと思った。
 
まず、冷蔵庫の中の食材を使ったレシピをGoogleで検索してみた。“白菜 挽肉 レシピ”と言った具合に。そして出てきたレシピの中で食べたいと思った物を作ってみる。
最初は、具材を使い切れなくてダメにしてしまったり、塩の分量を間違えて作った炒め物がとてもしょっぱくなってしまったり、逆に味が薄かったりと、うまくいかないことも多かった。サクサクに揚げたかった唐揚げが、ベチョベチョになってしまったときには心が折れそうになった。
 
けれど、そんなときには母親に相談する中でヒントを得ていった。
「揚げ物をするときは、油がしっかり温まってから具材を入れた方がいいよ。油が温まったかは、菜箸をつけてみて、箸先から泡が出てくるか見てごらん」
「生姜焼きや青椒肉絲では、お肉に味がしっかり絡むように、そして水分が抜けてパサパサにならないように予めお肉に片栗粉をまぶすといいよ」
子育てを終えた母親の持つ知識は分かりやすくて的確だった。実践に活かしやすく、“さすが”といえるものだった。“より美味しい”ご飯を作りたいと、その後も私はレシピを調べ、工夫を続けた。
 
その頃ちょうど、カフェ巡りが好きだった大学の友達たちも料理を始めた。オンライン勉強会の合間には、最近作ったレシピや美味しく作れたご飯の話で盛り上がった。直接会ってご飯に行くことは出来なくても、同じレシピを作って感想を共有することで心が通じ合えた。
 
次第に安定して思い描いた通りの味を作り出せるようになってきた頃、私は出来た美味しい料理を他の人と共有したい、と思うようになった。誰かのために美味しいご飯を作りたい、とも。
 
コロナが少し落ち着いた長期休みのある日、私は久しぶりに地元に帰省することにした。コロナで久しぶりの帰省。懐かしの実家はほっとする場所だった。家族に会えたことがうれしくて、家族の顔が見たくて夕ご飯を作ろうと決めた。日中働く母と自宅でオンライン就活に悪戦苦闘する弟、大黒柱で支えてくれるお父さんのために。
 
メニューは、野菜たっぷりドライカレー。野菜が好きな自分好みにアレンジを重ねた結果、挽肉より野菜が多くなってしまったレシピだ。キャベツ、ニンジン、ジャガイモ、ピーマン、レーズンといろいろな野菜を小さく切り、挽肉と炒め合わせる。いつも、食材の味が混ざり合って濃厚な味がする。その時々の野菜のバランスで味が変化するのも楽しい。
 
料理をしながら、私は思っていた。“いつもありがとう”と。
感謝の気持ちと楽しい思い出を頭に浮かべて作る料理は楽しかった。心がほっこりした。
「うん、美味しい!」最初の一口を食べた母は笑顔で言った。その言葉を聞いたとき、私もとても幸せな気持ちになった。
 
それから、友人との持ち寄りパーティーや家族が1人暮らしの家に遊びに来てくれたときの夕ご飯など、人のためにご飯を作る機会に何度も恵まれた。食べてくれた人に「美味しかった」と言ってもらえると嬉しかった。
 
美味しい料理は、良いにおいが鼻をかすめ、心を満たしてくれる。赤黄緑と色とりどりの食材は、視覚からも心を満たしてくれる。そんな“幸せを感じて欲しい”と言う思いを言葉介さずとも共有出来るのが料理の魅力ではないかと思う。
 
高級食材を使っていなくって、お母さんの作ってくれる愛情たっぷりのミートソーススパゲッティは高級レストランより美味しかったりする。美味しく食べて欲しい、そんな気持ちこそが愛なのかもしれない。
 
新型コロナウイルスは、社会に影響を及ぼしたが、私には新しい形で家族に感謝を伝える手段を教えてくれた。今や、大切な人に思いを伝える大事な手段の一つとして料理がある。
 
社会人になりなかなか帰省出来ないけど、今度また帰省したら、また家族にご飯を作ってあげたいな。ありがとうという気持ちを込めて。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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