メディアグランプリ

キュレーターに聞いた絵画の楽しみ方


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記事:多紀理 めい子(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
数年前、オルセー美術館展に出かけた時のこと。一つの絵の前で、私は生まれて初めて絵に心を奪われるという経験をした。
それは思っていたよりもずっと小さな絵で、これが原画か……という何か圧力みたいなものを持っていた。ところが見続けているとその圧力とは裏腹に、そこに描かれた景色や人物が、繊細さや優しさを訴えかけてくる。
気が付くと、私はうまく言葉にできない感動でボロボロと涙を流していた。
フィンセント・ファン・ゴッホ「星降る夜」
私はこの時、ゴッホに恋をした。
 
秋の東京上野美術館は素敵だ。紅葉した銀杏並木に、抜けるような青空。行きかう人々のファッションが文字通り絵になる。
 
あの日、私もお気に入りのウールのコートを着て、ウキウキとお目当ての絵に会いに行った。
数時間入り浸り、お土産に大好きな「星降る夜」の絵葉書を買おうとしたらもう売り切れていた。そうか……人気なんだな。
少しがっかりしながらも、ゴッホの絵はどれも心惹かれるものばかりだったので、私はその日の空と同じく抜けるような青空の「花咲くアーモンドの枝」という絵ハガキを買い、部屋に飾ることにした。
 
コロナ禍に入ると、行きたいときに好きなアートを生で鑑賞するという当たり前の日常は遮断されてしまった。思っていた以上にアートに触れない生活は体に悪いんだなと私は感じ、日常に、アートはさりげなく、そして思っていたよりもたくさん存在していたことに気が付いた。
一瞬でも、誰かが心を込めて描いたものを目にすることに、こんなにも影響を受けていたんだな……。
 
そんなある日、キュレーターをしている幼馴染とオンラインでお茶会をすることになった。
 
「嗚呼……美術館に行きたくてたまらない。画集とか動画じゃだめだ。生で原画を見たい。なんでだろう。やっぱり手描きの絵にはパワーが宿っているのかな?」
そうだよねと、幼馴染はしみじみ言った。
 
キュレーターとは美術館や博物館の展示を手掛ける仕事で、相当な知識を持つ専門家のようだ。私は幼馴染がそのような仕事をしていることは何となく知っていたものの、具体的な内容についてはほとんど知らなかったので、どんなことをしているの? と聞いてみた。すると、彼女は逆に私に向かってインタビューを始めた。
「絵を見る時って、絵だけ見てる? ほかに観ているものはある?」
 
初めてのタイプの質問に、慎重に思い返しながら答えてみる。
私が絵を見る時は、絵が飾られている壁の色や、違うブースに踏み入れた時に感じる床の素材の変化などにも意識が行く。意味があるのかな? それを考えることも含めて楽しいと伝えると、彼女は声を弾ませこう言った。
「それ聞いたら、キュレーターが泣いて喜ぶよ!」
 
あれは意識的にやっているのかとたずねると、彼女は勿論だと言った。
「例えば太陽や蝋燭や、明かりが描かれている作品は、その絵の中の光の方向と同じ向きに室内の照明が当たるように調整したり、明度なんかも意識したりするんだよ。ふふふ。レンブラント、観たくなったでしょ?」
驚いた。そんな風にさらに絵を楽しませる工夫がされていたのか。レンブラント! もちろん観たいに決まっている。
「会場によっては空調や湿度もブースごとに変えてるよ。四季をテーマにした展示ならば、春から冬まで少しずつ室温の設定を変えてみたり」
すごい!! そんな工夫がされていたのは驚きだ。彼女の話からは、楽しませる工夫とサービスの気持ちが感じられた。
 
彼女との会話の最中、ふとあの絵葉書が目に入る。部屋に飾っているものの、どうもうまく飾れていない気がしていたのだ。「花咲くアーモンドの枝」
 
「ゴッホの絵ハガキを部屋に飾っているんだけど、なんだかうまく飾れていない気がするんだよね。うまく飾る方法って何かある?」
彼女はいい質問! と言って、絵の飾り方のコツを教えてくれた。
 
部屋に飾るとしたら壁とフレームの色をやんわりと揃えること。そして、目線が行きやすい高さに飾るのがお勧めだという。意外にも、床から120センチから140センチくらいが落ち着くのだそうだ。
思っていたより低いんだねと言うと、彼女は画面からいなくなり、自分の部屋を見せてくれた。そこに飾られていたのは、奇しくも「星降る夜」だった。
 
ゴッホを思わせるような濃い黄色の壁に、きっちりと高さを揃え、絵葉書サイズからA4サイズ、大きなポスターサイズへとクレッシェンドしていくように「星降る夜」が飾られている。
 
それを見て思わずうなる。
「さすがだね……もう音楽が聴こえてきそうだもん」
 
「策にはまったね。キュレーターからすると、とてもうれしいことだけど」
私はそれを聞いて、ただ何度もうなずいた。
 
彼女のアドバイスをもとに、私の部屋の「花咲くアーモンドの枝」も、とても素敵な居場所を見つけた。
今もそこにいて、長く続く混沌としたコロナ禍に、抜けるような青空で私を励まし続けてくれている。
 
また秋がやってきた。上野の銀杏はもう色づいているかな。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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