メディアグランプリ

目から血が出るくらいの上司

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田智彦(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
「今自分が考えている限界は、俺から見たら全然限界ではない。この壁を自力でブレイクスルーしなければ成長はそこまでだと思ったほうが良い。目から血が出るくらい頭を使って欲しい。」
 
何気なく過去のメールを見ていたら、出てきた文章だ。
 
プライベートで使っているYahoo!メール。ふと、今まで全く整理をしていないことに気づいた。一体いつから使っているのだろうか。日時の項目をクリックして古い順に並べてみた。
2009年10月からだった。12年前からである。スクロールしながら、過去メールのタイトルをみるだけでも、その当時の懐かしい記憶がよみがえってきた。
 
そんなノスタルジーに浸っていると、ドキッとする差出人の名前が目に入った。私が当時勤めていた会社の上司Kさんからである。組織上はラインが違っていたので正確には上司ではない。勤務地も私が福岡、Kさんは東京だった。
 
しかし、Kさんと関わる案件が多く、私にとっては上司のような人だった。しかもめちゃくちゃ厳しい、鬼上司だった。
 
会うと必ず叱られていた。会わなくても、電話やメールで叱られた。Kさんは電話嫌いな人だった。ある時、どうしても電話をしないといけない込み入った用件があり、私はKさんに電話した。
 
「そんなことで人の時間を奪うな。メールしろと前にもいっただろうが!」と怒鳴られた。私は言い返した。「いや、メールだけでは説明しにくい内容なので、電話でお話したいんです」
 
しかしKさんは、「メールで説明できない内容なんてあるか。君の文章力がないだけだろう。ふざけるな!」と言いい、ブチっと電話を切った。
 
その後、仕方なくメールした。しばらくして返信が届いた。内容は、次から次へとダメ出しのオンパレードだった。
 
今回、見つけたメールには、次のようなことが書かれていた。
 
「相変わらず、何が言いたいのかわからんな。こんな仕事の仕方をしていたら誰からも相手にされなくなるぞ。(中略)こんなことを聞いてくるのは全くの努力不足だとした言いようがない。もっと勉強しないと営業活動に行って会社の恥をばら撒いてくることになるぞ」
 
このメールには、他にも様々なことが書かれていた。そして最後にあったのが、冒頭の言葉である。
 
「今自分が考えている限界は、俺から見たら全然限界ではない。この壁を自力でブレイクスルーしなければ成長はそこまでだと思ったほうが良い。目から血が出るくらい頭を使って欲しい。」
 
当時、私はこの言葉をどのように受けて止めていたのか、実はよく覚えていない。とは言え、とても落ち込んだに違いない。決して、よし頑張ろう、という気持ちにはなっていなかったはずだ。
 
しかし、いま改めて読み返してみると、Kさんの言葉一つ一つが身体の中に染みわたり、熱いものが込み上げてくるのを感じた。自分でも驚いた。まさか、10年以上の時を経て、Kさんの言葉に励まされ、力を与えてもらうことになるとは。
 
実は、このメールをもらう少し前、私は転職をしようとしていた。営業成績が上がらず、更に同僚との人間関係も上手いかず、苦しんでいた。
 
そんな時、友人からある会社で人を探しており、私を推薦したいと言われたのだ。
彼の熱心な勧めもあり、その会社の採用面接を受け、内定をいただいた。
 
そして、会社には退職の意志を伝えた。来月には退職という時に、なんと電話が大嫌いなKさんから電話がかかってきたのだ。
 
「君は、これまで会社に何か貢献したのか。俺には全くそうは思えない。辞めるのは勝手だが、次に行ってもまた同じ繰り返しをするぞ。辞めるなら会社に貢献した、と自信を持って言えるようになってから辞めた方が俺はいいと思う。」
 
私は驚いた。もう退職も決まっており、転職先も決まっている状態で、引き留めてくれる人がいるとは思わなかった。
 
実は、電話先にはもう一人、私が所属していた営業所に翌月から新しく所長になる人が一緒にいた。その人からも「Kさんがあなたの面倒をみてやると言ってくれている。私もそのつもりでいるから頑張らないか」と言われた
 
実は、2人は出張先で飲んでいた。そして私の話になり、電話しようとなったそうだ。最後に、Kさんはこう言った。「勘違いするな。会社のために必要な人材だから残れと言っているのではない。君自身のこれからの人生を考えて話している」
 
電話のあと一晩考えた。辞めることを会社にも伝え、転職先も決まっている。そんな人間に、声をかけてくれる人はそういない。
 
この人に出会うためにこの会社に来たのかもしれない。もう少し頑張ってみよう。私は会社に残る決意をした。
 
その後、Kさんは、私に本気で関わってくれた。何とかこいつを一人前にしてやろうと思い、常に厳しく接してくれたのだろう。先のメールは、その1つだった。Kさんの厳しくも愛がある指導のおかげで、私は少しずつ成長していった。
 
そんなある日、Kさんが亡くなったとの連絡が入った。突然死だった。Kさんはお酒が大好きで、よく一緒に飲みにいった。食事はほとんど取らず、飲んでばかりだった。健康には無頓着で、いつ死んでも後悔はない、みたいな生き方をしている人だった。
 
亡くなったことは、とても悲しかった。しかし、Kさんらしくもあり、きっと悔いのない人生だっただろうとも思った。
 
月日は流れ、今の職場でKさんのような鬼上司はおらず、年齢を重ねたこともあり、叱られる機会もそうそうない。
 
Kさんの教えは、いま仕事で大いに生かせていると思う。しかし、「できない、やれない、難しい、無理だ」など言って自分で限界をつくり壁にぶつかることがある。
 
でも、大丈夫だ。
 
「君は相変わらずだな。そんなの俺からしたら全然限界じゃない。目から血が出るくらい頭使えよ!」Kさんからそう怒鳴られているのを想像するだけで、やる気が出てくる。限界突破できるような気がしてくるから不思議だ。
 
今でもあの世から、私を?咤激励してくれている。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2021-11-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事