メディアグランプリ

40歳主婦、秘密の楽しみ


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記事:井上 春花(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
木曜日。
私には内緒の楽しみがある。
 
毎朝、近所のファミリマート前まで子供たち二人を送るのだが、木曜日だけはその足で入店。雑誌の陳列棚にまっすぐ向かい、お目当てのものを手にレジへ。今週も再掲載企画の和田誠さんによる表紙が素敵だ。
 
今、私は週刊誌のある生活を送っている。
まさか、mc Sisterを愛読していた自分が、ティーン時代以来に定期購読するものが「週刊文春」だとは思いもよらなかった。
 
きっかけは、ゴシップネタ見たさだった。
コロナ禍に伴って、私の通う美容院の雑誌は、iPadの読み放題アプリに変わった。
その日も手渡され、適当にザッピングしていた。
何せ最近は、ファッション誌も美容雑誌もトンと興味がわかない。情報誌系もなんだか疲れるし、フード系はお昼前だと、ただただ飯テロだ。
 
ふと、週刊誌のラインナップに目が留まった。
そういえば、今朝LINEニュースで気になる芸能記事が掲載されていると見かけた。読めるかな?
しかし、ここにきて自意識が邪魔をした。美容師さんが後ろにいるときは開けず、ヘアカラーで放置される時を見計らって、コソコソと開いた。
 
「そんなコソコソとしてまで開いたのに」である。
うまいな~と思ったが、一番興味があった特ダネはアプリでは読めなかった。その代わり、そのおかげと言ってもいいが、なんとまあ、面白いコラムがたくさん連載されていることを知った。
 
「私は週刊文春について誤解していたようだ」
そんな気持ちも購入への動機づけに一役かった。本心、どうしてもその特ダネ記事は読みたくて、新しいヘアスタイルで一番最初に向かったところは最寄りのコンビニだった。
 
初めて買う週刊文春440円。
週刊誌だけを手にレジに向かうなんて……。
なんだか一気にオトナになったみたい。
いや、オトナと言っていいのか?
何と表現していいのか分からない。
少なくとも、週刊ジャンプだけをレジに持っていく大人は見たことがあったけど、週刊文春だけをレジに持っていく大人は見たことがなかったので(意識して見てないからかも)、ちょっと胸はざわついたが平静を装って購入した。
 
美容院帰りはお気に入りのイタリアンのお店でランチと決めているので、その日も美味しいパスタをいただいた。でも、文春は鞄の中で眠ったままだった。ここでも自意識が顔を出し、外では読めない。帰宅後、鞄から取り出しじっくりと読んだ。それから、毎週読むようになった。
 
池上彰さんには毎週一ネタずつ政治を学び、林真理子さんの自由な書きぶりにニヤリとする。伊集院静さんの、時には相談者を崖から突き落とすような人生相談。(タイトル「悩むが花」こそが真の回答だからと思う)
宮藤官九郎さんとみうらじゅんさんのコラムは、隣同士でいつも期待を裏切らない面白さ。町山智浩さんからはアメリカの今を教えてもらえるし、能町みね子さんの独特な視点からの「今週の報告」を受ける喜び。
何週かして気が付いたが、エッチな記事も、さりげなく1ページある。週刊誌のテンプレなのだろうか。思春期に父親のスポーツ新聞で発見した小さい記事を思いだし、うちの子供もこれ発見するんだろうか……。などと考える。(主にトイレに置いてあるので)
 
だんだんと読む順番も決まってきた。
まずは漫画を読む。
東海林さだおさんの「タンマ君」と、益田ミリさんの「沢村さん家のこんな毎日」。木曜日の慌ただしい朝の後に、ほわっとほぐれる。
続いて目次を見て、気になった大きめの記事を読んで、お気に入りのコラムを回る。
 
一番のお気に入りは平松洋子さんの「この味」。
 
これはイチゴショートケーキで言うなら、私にとっては「イチゴ」だ。
時事ネタでもないフードを軸とした連載なので、はやる気持ちはないのだが、だからこそ、読む順番に悩む。先に読むか、後に取っておくか。
平松さんの優しいユーモアにじむ文章のファンになってしまったのだ。
とっておきのパティシエが作ったお菓子のように、贅沢な気持ちになる。こんなにおいしいのに、どこでも食べたことのない味だ。
 
一通り読んだ後は、トイレに置いている。
入るたびに読んでないところを読む。それでちょうど一週間が終わる。そのころ次号が発売される。たまってきたら捨てる。「この味」のページだけを切り取って。
 
決まった雑誌を読むことをしばらくお休みしていた。
というか、雑誌を購読することなど、もうないと思っていた。
欲しい情報は自分で取りに行けるようになった。SNSのタイムラインは、さながら自分で編集した雑誌だ。
しかし、便利さの反面、「編集者 自分」のものだけを見ることに停滞も感じていた。
 
そしてSNSの見えない圧力に、私は息苦しくなる時がある。
発信者も地続きの土俵で裸一貫では、言いたいことも全部は言えない空気だ。公の場では、どこでも空気を読まなきゃならない。
誰の立場も蔑ろにしない優しい世界。
実現に向けた衝突は、思わぬ角度から出てくることを目の当たりにすると、思わず口をつぐんでしまう。学んでいきたいけど、攻撃されたくない。よもや「許すまじ」が暴走する様子は胸が痛くなる。
 
そんななか、雑誌という媒体で、一枚守られた場所から発信されるものは違って見えた。
お金を払って買う雑誌には、そんな小世界が広がっていたんだなと思う。
 
そして何より!
週刊誌は週に1回発売される。週1、お楽しみがやってくるのだ。
今週あんまり読めなかったな……で捨ててしまうこともあるが、そこも躊躇なくいけるのも素晴らしいところ。読めなかったら仕方ない。次読もう。
 
誰かと共有する趣味でもないが、「秘密の楽しみ」というのも、40代で出会った嗜みとして、私は実は気に入っている。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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