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メディアグランプリ

危機的状況を救うのは赤でも青でもなくピンクのコードと決まっている


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:渡辺 諒(ライティング・ライブ)
 
 
プロ野球中継。
これほど危険なテレビ番組は存在しないといっても過言ではない。
 
黒ひげ危機一髪のような、いや、そんな生ぬるいものではない。一歩間違えれば取り返しがつかなくなる、試合終了まで動き続ける時限爆弾というのが正しいだろう。そして、この時限爆弾は99%の確率で爆発する。
 
 
しかし、1%の確率で親子の絆を深めることになる……
 
 
昔と比べるとかなり減ったが、プロ野球シーズンの3月末~10月中旬の夕方19時頃からはテレビで野球中継がよく放送される。
 
ちょうど仕事から帰宅した親父たちがネクタイを緩めながらテレビのリモコンをいじり始める時間帯である。
 
「お、やってるやってる~!」
プシュ!
 
キンッキンに冷えた缶ビールの栓が開くのが爆弾のタイマーの起動音だ。
大学生の僕はやれやれ今日も始まったか、と思いながらいつものようにテレビにかぶりつく親父を眺める。
 
僕は小学3年生から高校生まで約10年以上も野球を続けていた。
当然、プロ野球も好きだ。球場に何度も試合を見に行っているし、プロ野球チップスというプロ野球選手のカード付きのポテチだってカードホルダーがパンパンになるほど買っている
 
でも唯一、これだけは隠さずに言おう。
親父と野球中継を見るのが好きではないのだ。
 
もちろん、親父のことが嫌いなわけじゃない。
もちろん、野球中継を見るのも嫌いなわけじゃない。
ただ、親父と野球中継が組み合わさってしまうと最悪なのだ。
親父と一緒に野球中継を見ることがこの上なく嫌いなのだ。
 
「あ~あ、また打たれてるよ、このピッチャー。なんでそんな球投げるかね」
 
理由はこれだ。
まるで日曜のワイドショー出演者にでもなったかのように選手のプレーを無責任に批評しまくるのだ。
 
不思議なもので、おそらく世の中の野球好きな親父たちの大半に共通することなのだろうが、彼らにとって野球とビールと愚痴は切っても切り離せない関係にあるようだ。
 
「今のプレーはもっとこうするべきだろ」プシュ。
「なんでピッチャー変えたの?監督は何考えてるんや?」プシュ。
「はいはい、いつもと同じパターンね、負けだな」プシュ。
 
試合が進むにつれて飲み終わった缶がテーブルに整列し、まるでそれを選手にみたてるように愚痴を浴びせる。
その様子を見るたびに、あんた何様なんだよ彼らはプロの選手だぞ、と僕は心の中で叫ぶ。。
でもまあそんなこと口に出すことはできるわけもなく、画面の中の試合はどんどん進む。ビールも愚痴も同じペースでどんどん進む。もうこうなってしまったら止まらない。
 
もはや自分が野球の試合を見ているのか、それとも爆弾の解体ショーを見ているのかわからなくなる。
 
親父という巨大な爆弾につながるコードを画面の中の選手たちが間違えないように1本ずつ切っていくかのように見えるのだ。
そして僕は、どうか親父の逆鱗に触れる間違った導線を選手たちが切らないようにと願いながら指をくわえて眺めていることしかできない。
 
そんなことを話しているうちに画面の中の選手がちょっとまずいプレーをした。
テレビの中の本物の解説担当者でさえ、これは自分の出番だと張り切って説明し始めている。当然我が家のコメンテーターもそのプレーを見ていた。
 
あ、これは当たりの導線を引いたな。引火だ。
あまりも唐突で、僕は自室という名の最強の防護シェルターへの避難が間に合わなかった。
なんとか爆発を遅らせようと僕は頭をフル回転させる。
 
 
「……最近、仕事どうなの?」
 
こんな言葉しか出てこなかった自分を一瞬で恨んだ。
なんだその質問は。それこそ思春期反抗期真っただ中の我が子との絶妙な距離感に悩んでいる世の中の親父たちがひねり出して尋ねる、「おい、最近学校はどうなんだ?」と全く同じではないか。
 
今日のところはおとなしく愚痴に付き合うか、と諦めて腰を下ろしスマホを開いて愚痴を聞き流す準備を始める。
 
しかし、なかなか愚痴が始まらないことに気づいて、そっと親父の方を向く。目が合う。
 
「今さ、仕事でこういうことやっているんだけど、俺はこういう風に進めたいんだよな。そうすると、もっとお客さんに喜んでもらえると思うんだよなあ。それでさ……」
 
ん?なにか思っていた展開と違う。
 
というよりむしろ、自分の仕事を熱心に語るカッコいい親父がそこにいた。
よく見るといつもより目もキラキラしているし、なんだか希望に満ち溢れている。
 
呆然となりながら、ようやく自分が思いがけず攻略法を見つけてしまったことに気がつく。
99%爆発するはずの爆弾の中にもちゃんとピンク色のコードが隠れていたのだ……!
 
思い返してみると、僕が悪だと思っていた親父の愚痴は、野球を心から好きだからこそ、好きな球団の好きな選手たちだからこそ、勝つことを本気で信じているからこそ言わずにいられないものだったである。
 
つまり、愚痴は負ではなく、希望のエネルギーから生まれる言葉だったのだ!
 
その後は久しぶりに親父とゆっくり時間をかけて会話ができた気がする。
横目でテレビ中継をチラ見すると、我が家が応援する球団が負けていたのでどさくさに紛れてそっとチャンネルを変えた。親父もきっと気づいていたが、寝室に向かう赤らんだ顔がなんだか満足そうでこっちまで嬉しくなる。
 
たまには一緒に野球を見るのも悪くないなと思えたいい夜であった。
来年はドーム球場のチケットを買って観に行こうかと誘ってみようかな。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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