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アフリカの片田舎で襲われたお話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:長塚正一郎(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「金をよこせ!!!」
刃物を突きつけられ、迫られる。
 
 
私は、南アフリカの南西部の街、クランウィリアムの郊外にいた。
ここは知る人ぞ知る、世界で唯一ルイボスを栽培できる土地である。ルイボスという植物はどうもわがままなようで、他の地域では育ってくれないらしい。そんな街での一場面。
 
山は大きく開かれ、ルイボスの畑が一面に広がる。
街には、ルイボスの葉を加工し世界中に出荷するための工場や小売店が並ぶ。世界中のルイボスティーはこの街の出身だ。
 
私は、町外れのダムのほとりに一人テントを張って野宿をしていた。
 
私は、バックパッカーである。
 
ナミビアとの国境を徒歩で渡り、ヒッチハイクしてたまたま辿り着いたのがクランウィリアムである。
何も考えずに旅をしているので、南アフリカのお金を持っていない。
当然、宿に泊まるお金もない。
 
唯一持っているのは、現地で購入したゴミのようなテントである。
マットも布団も持っていない。
 
いくらアフリカといっても夜は寒い。
パンツやら靴下やら、ありったけの衣服をテントの下に敷いて眠る。それでも、大地は容赦なく体温を奪ってくる。
 
しかし、寒い思いをしているのはどうやら私だけではないらしい。テントと地面の間のわずかな隙間にネズミがやってきたりする。
彼らの生温かいぬくもりを感じながら、寄り添って眠るのが、私の日課であった。
 
クランウィリアムの河原で、いつものようにテントを張る。
 
街灯なんてひとつもない。
日の入りと共に寝支度を完了させる。
 
その日は、満月だった。
 
テントの中に横になると、木々が揺れている、その影がテントに影を投げかけ眠気を誘う。
サワサワとした心地よさを感じながら眠りにつく。
南アフリカの片田舎の河原に一人きり。幸せな夜である。
 
ふと何かの気配を感じて目を開ける。
テントの外で何やら草を踏み締める音がする。重みがある。音からして、ネズミじゃない。
 
これは犬だ。野良犬が寄ってきたに違いない。とりあえず、テントをバサバサとゆする。ドスドスドスッという音が遠ざかっていく。
 
ふう、なんとか狂犬病は免れた。
再び眠りにつく。
 
また気配を感じる。再び、目を開ける。
 
人の手が、月明かりに照らされて、今にも私のテントのチャックへ届こうとしている……。
 
私はガバッと体を起こして、テントをゆらしながら叫ぶ。
「何してんねん!!!」
 
また音が遠ざかる。
テントから顔を出すと、影が猛スピードで遠ざかっていく。
 
こいつは生命の危機である。
私は全ての荷物を捨てて、逃げる準備をする。
スマホ、パスポート、財布、
などと、荷物もまとめていると、影が遠ざかった方向から、石が飛んでくる。拳の2倍はあるようなごっついやつである。
しかも、一箇所からじゃない。複数方向から飛んでくる。
 
私は目が悪い。「彼ら」は目がいい。
私には彼らは見えなくても、彼らに私はくっきりと見えている。
満月に照らされてキョロキョロする私はさぞ滑稽に見えることだろう。
必死でメガネをかける。
 
奇跡的に、石ころがヒットすることなく荷物がまとまる。
顔を上げる。
 
10メートルくらい先に、二つの影が伸びている。片方がもう一方に指示を出して二手に別れて迫ってくる。じわじわっと。
 
私は覚悟した。もはや逃げることはできない。
 
「何が欲しいんだ?!」
 
「金、金、金」
 
声は思ったより高く、あどけなさが残る。
そうこうしてるうちに、彼らは数メートル先に迫っている。
 
18歳と15歳くらいの黒人少年二人。
手には刃渡り30センチはあろうかと思われるナイフと、1メートル余りの金属棒。
 
こちらの眠気も一気に吹き飛ぶ。
 
「金をよこせ!!!」
 
すごい気迫だ……。
丸腰の私に勝てる術はない。
そして、あいにく金を持っていない。
 
「なんで金が必要なんだ?!」
 
「オヤジが刑務所に入ってるんだ!!」
 
兄弟は、両の手を差し出して、手錠のジェスチャーをする。
 
「お母さんは働いてないのか?」
 
「オヤジが母親を殺して捕まったんだ! つべこべ言わずに金を出せ!!」
 
私はあまりの事実に思考停止した。
自分と数歳しか変わらない「彼ら」が直面している現実。彼らに、私は何かしてあげられないのか……?
 
「この街では誰も俺らを雇ってなんかくれない。毎日生きるのに必死なんだ。闘いだ。俺たちには2歳の妹もいる。食べ物が必要なんだ」
 
たたみかける兄貴。
ルイボスで栄える街の裏側。
 
自分の寝込みを襲ってきた彼らに対する怒りや恐怖など、私の中に微塵も残っていない。
 
「明日になればATMでお金を下ろせるから、それで食べ物を買ったらどうだ?」
 
私は気づけば、彼らに何かしてあげられないか考えている。
 
「昼間に俺らとアジア人が歩いていたら、警察に捕まる。今じゃないとだめなんだ」
 
……。
 
結局、私にできたことと言えば、非常用の缶詰やパンをあげるくらいのことだった。
彼らはパンを頬張る。妹用にいくらか取り置いている。
 
 
彼らの身のうちを聞いて、同情した私。
無意識のうちに、助けないといけないという感情、同情にも似た感情が生まれていた。
 
と同時に、持つ私と、持たざる彼ら、という構造を持ち込んでいた。
同じ人間なのに、その間に、知らず知らずのうちに線を引いている。
 
決して彼らは貧しくなんてない。その手に、自らの、家族の、生を確かに握りしめている。
毎日、闘っている。
貧しいのは、私だ。
 
フラフラと旅する自分。闘ってなんていない。
 
 
満月が、私たちを照らしている。
私たちは、同じ満月を見ながら、肩を並べて、パンをかじる。
 
 
果たして、私は彼らと同じ満月を見ていたのだろうか?
同じ満月を見ることは、叶うことだったのだろうか?
 
いつかまた答えが出れば、クランウィリアムに行こう。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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