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ばあちゃんが未来製造工場で作っているもの


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記事:鏡味義明(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「よしくん、これ食べりん」
 
ばあちゃんの家に遊びに行くと、いつも畑から野菜をもぎって食べさせてくれる。
愛知県豊田市の片田舎。クルマの街だけど実は山も多く、中心地から離れれば田んぼも畑もたくさんある。自然あふれるその街に、ばあちゃんは住んでいる。
 
僕の母方の祖母は93歳だ。今ではなかなか会う機会も減ったけど、ずっと見た目が変わらない気がする。僕から見れば物心ついた時から、ずっとばあちゃんだからかもしれない。ばあちゃんはとても働き者だ。農家で田んぼの管理はもちろん、畑で野菜作りも上手だ。
 
ばあちゃんは、じいちゃんがとても大好きだった。ばあちゃんの時代には珍しく、恋愛結婚だった。じいちゃんは昔気質の頑固者で、僕から見たらとても怖い人だったけれど、ばあちゃんは愚痴ひとつ言わず、いつもじいちゃんを支えていた。
 
お盆や年末年始には、ばあちゃんとじいちゃんの家に親戚が集まって宴会をするのが決まりだった。ばあちゃんはいつもたくさんの料理でもてなしてくれて、じいちゃんはずっとお酒を飲んでいた。そしてみんなが帰ったあとは必ず二次会。ばあちゃんとじいちゃんは仲良く乾杯をして、残った山盛りの料理をペロッと平らげていた。ばあちゃんは、本当によく食べた。
 
じいちゃんが亡くなったのは、27年前。田舎なのでお葬式は家で行われた。この時にもばあちゃんは、集まってくれた大勢の方のために働いていた。でも最後、じいちゃんが車に乗せられるときは、かわいそうで見ていられないほど泣いていた。
 
じいちゃんが居なくなってからしばらく元気がなかったけれど、ばあちゃんは「じいちゃんの分まで生きないとね」と言って、より元気に行動するようになった。今までの農作業に加え、地域の老人クラブに参加するようになり、大正琴を習い始め、日本舞踊を始めた。旅行なんて、月の半分以上どこかに行っていることさえある。今まで以上に元気に活き活きとしているばあちゃんは、誰よりも人生を楽しんでいるように見える。
 
そのころから、ばあちゃんが始めたことがある。それは、翌年の干支をつけた飾り物を作ってみんなに配ることだ。いろんな色のフェルト布を使って切り貼りした、手作り感満載の素朴な飾り物。年末に遊びに行くと、ばあちゃんは「よしくん、これどうぞ」といってそれを渡してくれた。若かった僕は、来年の干支はこれか、なんて思いながら、さして格好よくも可愛くもない(と当時は思っていた)その飾り物を、受け取った後すぐに無くしてしまっていた。
 
月日が流れ、僕も家族を持つようないい年になると、あの頃ばあちゃんの家に集まっていた親戚のみんなはもっといい年で、亡くなる方も増えていった。でもばあちゃんは相変わらず元気で、自分より年下の親戚を見送ることは寂しいだろうに、そんな素振りは一切見せず、お葬式では誰よりもみんなのために働いていた。
 
そしてばあちゃんは、変わらずずっと干支の飾り物を作り続けている。渡したい人がどんどん増えて、毎年300個くらい作っているらしい。ばあちゃんの部屋はいつも飾り物の材料で溢れており、まるで飾り物の製造工場みたいだ。
 
ばあちゃんは年が明けるとすぐに、来年の干支の飾り物を作り始める。年の頭から、来年の事を考えているわけだ。いうなれば、未来製造工場だ。ばあちゃんは自分が93歳になった今も、自分にも当たり前のように来年がやってきて、当たり前のように飾り物を配り、また当たり前のように次の干支の飾り物を作り続けている。自分が1年後そこに存在していることを一片の曇りもなく信じている。それを見て、ばあちゃんが長生きの理由が分かった気がした。未来製造工場で、今の自分が未来の自分を全力で作り出しているからなのだ。
 
先日僕の父親の13回忌があり、ばあちゃんも来てくれた。久しぶりに会うばあちゃんは耳が聞こえなくなってはいたが、もりもり弁当を食べ、ビールまで飲んでまだまだ元気でいてくれそうだ。
 
「よしくん、これどうぞ」
 
耳が遠いため、びっくりするほど大きな声で手渡してくれたのは、来年の干支の寅の飾り物だった。久しぶりにもらった飾り物は、昔よりもシンプルになっていた。でもそれは、来年も元気でいてね、来年も元気でいるね、という気持ちが込められているように思えた。
 
「よしくん、元気でやりんよ」
 
元気でやりなよ、ってこちらのセリフなのに。自分よりも人のことを気遣う気持ちに、なんだか泣けてきそうな気持ちを隠しつつ、笑顔で「ばあちゃん、またね」と別れた。
 
まだ年は明けてないけれど、部屋の飾り棚の一番いい場所に、ばあちゃんの寅を飾った。可愛くもちょっと力の抜けたような表情をしているその寅は、来年いっぱい、僕を癒してくれそうだ。未来製造工場で作られた寅を眺めながら、僕も未来の自分を信じて頑張ろう、という気持ちになった。
 
来年も一緒にビールを飲みながら、ばあちゃんに次の干支を教えてもらおう。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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