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左足の小指をぶつけた痛みは、人生トップ3にランクインする嬉しさだった


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記事:アキ・ミヤジ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「いったーい!」
 
椅子の角に左足の小指をぶつけた私は悶絶した。
 
ええい、何で椅子の脚がこんなところにあるんだ!
足の小指、おまえもおまえだ!
どうしてこうも無造作にぶつかるんだ!
もう足の小指なんかいらないんじゃないか!?
 
そうやって、痛さをまぎらすために椅子や足に八つ当たりするのがこれまでの常だった。
けれども、その日は違った。
 
痛みを感じた瞬間から、じんわりと嬉しさがこみあげてきた。
じんじんと続く足の痛みをこらえながら、私は笑っていた。
 
そんな不思議な感情は、病院から退院し、ようやく日常の生活に戻りつつあったときのことだった。
 
 
今年のはじめに私は、脊髄の腫瘍によって下半身不随になった。
脚が動かないだけでなく、感覚もほとんど失われてしまっていた。
 
背中から腹部の痛みがひどかったため、感覚がないことをほとんど自覚できなかった。
診断のため、医師が針のような尖った器具で私の脚をつついてみて、ようやく気がつくことができた。
みぞおちから下の感覚がほとんどないことを。
そして、痛みも、どこを刺されているのかも、わからなくなっていることを。
 
幸い、腫瘍を摘出するための手術は無事に成功した。
手術の二日後には、脚の親指を少し動かすことができた。
三日後からはリハビリが始まった。
 
リハビリを行えば、必ず脚の機能は回復する。
そう自信をもって、理学療法士や作業療法士の方々は私を励まし、リハビリを指導してくださった。
実際、リハビリによって脚の動きは日に日に良くなっていった。
最新のリハビリ技術はすごい! と驚きの毎日だった。
 
ただ、感覚の回復について聞いてみると、彼らの言葉から自信が消えた。
 
そもそも「理学療法」は運動機能を改善・回復させることを目的としている。
そのため、さまざまな運動プラグラムを行う。
必要に応じて、補助器、電気、熱といった器具を利用することもある。
それら治療の一つ一つの効果は、身体の機能改善を数値として測り、評価することで科学的に立証されている。
 
ところが、感覚の回復については運動機能ほど簡単ではないという。
なぜなら、人間の感覚を数値として測定することが難しいからだ。
また、感覚とその強度を言葉として言い表すことも難しい。
そんな難しさがあるため、感覚の回復についてはなかなかリハビリの手段が確立できないのだ、と理学療法士のひとりが話してくれたことがある。
 
だからといって、感覚が回復しないというわけではないようだった。
身体の動きと感覚は互いに関わり合っているため、身体の動きの回復にともなって感覚も回復してくることはあるのだそうだ。
だから、感覚も回復すればラッキーだな、ぐらいの気持ちでリハビリに集中することにした。
 
実際、私はラッキーだったようだ。
リハビリを続けていくと、身体の感覚が変わりはじめた。
ところどころ、触られる感覚や痛みの感覚がもどり始める部位がでてきた。
 
面白いことに、脚の感覚は上から順に良くなっていった。
実際には違うのかもしれないが、植物の根が地中深くに伸びていくように、背骨の中の脊髄から足の先に向けて、毎日少しずつ神経が伸びていく。
そんな感覚だった。
 
そうして3ヶ月ほどのリハビリを病院で続けているうちに、見た目ではわからないほど普通に歩けるようになってきた。
足指でグーチョキパーをつくってじゃんけんができるほど、細かな動きもできるようになった。
 
感覚もかなり回復してきた。
ただ元通りではなく、身体の感覚はちぐはぐだ。
特に、左足から左腹部にかけての感覚はまだ明らかに違っている。
あちらこちらに麻痺や違和感は残っているし、痛みを感じにくい部分がある。
それでも、リハビリを始めた頃と比べると格段に良くなっていた。
 
退院した後も、自宅でもリハビリを続け、身体の動きも感覚もさらに回復していった。
仕事に復帰することもできた。
なんとか日常の生活を取り戻しつつあった。
 
その時だった。
左足の小指をぶつけたのは。
 
「いったーい!」
 
ぶつけたのは、感覚の違和感がまだ強い左足。
なのに、痛みは以前と変わらなかった。
痛みはちゃんと回復している!
それは、人生でトップ3に入るほど嬉しかった。
痛くて痛くてしかたがないのに、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
 
普通、痛ければ「辛い」「悲しい」といった感情がこみ上げてくるのではないだろうか。
思い返してみても、「痛い」という感覚が「嬉しい」という感情を引き起こした経験は、これまでの人生で一度もなかった。
 
私にとって、「痛い」という感覚と「嬉しい」という感情が初めて出会った瞬間だったのだ。
 
感覚が引き起こす感情。
それを一語で言えば「気持ち」だ。
一度失ったものを取り戻したとき、痛みすらも嬉しいと感じることがある。
そんな気持ちを、私は初めて実感することができたのだった。
 
そのことに気づいたとき、リハビリでお世話になったベテラン理学療法士のKさんに言われたことを思い出した。
 
「これからは、優しくなれますよ」
 
人は、理解できる気持ちが多ければ多いほど、優しくなれる。
足の小指をぶつけて、感覚と感情の新たな出会いを体験し、これまで知らずにいた人の気持ちを理解できた私は、少しだけ優しくなれたのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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