メディアグランプリ

登ってみたら、やっぱ笑ってしまった


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記事:山田THX将治(天狼院書塾)
 
 
私は、ジョージ・ワシントンに登ったことがある。
正確には、乗ったことがある。
 
私が登ったのは、横須賀のアメリカ海軍基地に寄港していた太平洋艦隊の旗艦・原子力航空母艦のジョージ・ワシントンだ。その飛行甲板は、“乗る”という動詞ではなく、“登る”という動詞表現の方が、私の感動を的確に伝えていると思う。
 
 
2009年12月5日、その日は、年に数回ある基地の開放日だった。前年に就任した空母ジョージ・ワシントンは、横須賀基地に配備された初の原子力空母だ。原子力船で巨大艦なので、滅多に寄港することが無い。動力燃料を補給する必要が無い(原子力船なので)し、第一、あれだけ大きな船を接岸させること自体が一苦労だからだ。何しろ、前任の空母キティホークが、満載排水量83,000トンなのに対し、ジョージ・ワシントンは何と104,000トンなのだ。
ただ、彼女(船は女性として扱われる)が寄港しなければ、一般人が空母に乗る機会等有る訳がない。しかも、寄港が基地の開放日と重なることだって滅多に無いことなのだ。その上その日は特別に、海上自衛隊の空母型護衛艦『ひゅうが』(こちらも巨大艦)も同時公開されることと為った。
私はこの貴重な機会を逃すまいと、わざわざ横須賀迄出掛けて行ったのだ。
 
空母ジョージ・ワシントンは、全長333メートル、最大全幅が76メートルもある。例えるなら、高層ビルを横倒しにした大きさだ。艦橋の一番上は、ほぼ20階建てのビルの高さと同じだ。
横須賀基地のゲートをくぐると、直ぐ近くに停泊している様な錯覚さえ覚える。何しろ、彼女の姿はどこからでも観ることが出来るのだ。
 
彼女に近付くと、少し違和感があった。何故なら、艦橋側が接岸していたからだ。航空母艦の艦橋は、船体の右舷と決まっている。彼女は、右舷側が接岸していたのだ。
船は通常、左舷側を接岸させるものだ。これは、旅客機の出入りが、必ず左側のゲートで行われることでもお解かり頂けるだろう。飛行機が離発着するのも、“空港”という港だ。左舷接岸は、国際的な港の共通ルールだ。
この日の、空母ジョージ・ワシントンは、特例として右舷接岸をしていたのだ。彼女に乗船させてもらって解かったことに、これは、観客の安全を期してのものだった。
 
地上5階に匹敵するボーディングブリッジを、私は息を切らしながら登った。そして艦内に入るともう、笑ってしまう程、空母ジョージ・ワシントンの艦内は広かった。85機もの艦載機を載せるのだから、当然の広さだ。
艦内の格納庫には、通常艦載している攻撃機や爆撃機、そして輸送用のヘリコプターが一機ずつ駐機されていた。そこで、副艦長の海軍大佐が、歓迎の挨拶と艦内の説明をしてくれた。当然、英語だったので通訳が付いた。
 
次に、艦載機を上下させるエレベーターに載ることに為った。飛行甲板に上がる為だ。その際、案内役からエレベーターの真ん中に詰める様に注意を受けた。誤って落ちない為にだ。
このエレベーターは、船体の右舷に在った。彼女を右舷接岸させたのは、もし間違って、観客がエレベーターから振り落とされた場合でも、海に転落しない為だったのだ。
 
エレベーターで一気に飛行甲板迄上がると、私は再び笑いが止まらなくなった。飛行甲板の広さに、再び驚いたからだ。
よく、アメリカ映画で航空母艦のシーンに為ると、サッカーに興じる水兵や航空兵が出て来る。
「そこ迄アメリカ兵は馬鹿じゃないだろう」
と、私は考えていた。
何せ、船は海の上を動いているのだから。海の上なら、波でローリングするしピッチングだってするからだ。
でも、バカバカしい位に広いジョージ・ワシントンの飛行甲板に上がってみると、
「これはいっちょう、サッカーでもしてみようか」
と、考えても不思議はないと思えた。
 
飛行甲板には、最新鋭の戦闘爆撃機が一機だけ駐機されていた。観覧に来た子供達は、一人ずつコクピットに乗り込ませてもらっていた。皆、笑顔だった。私は無性に、子供達が羨ましかった。
オジサンだって、コクピットに座ってみたいのだ。
 
 
余りの飛行甲板の広さに驚き、独りで不気味に笑い転げる私に向かって、案内役の海軍士官(階級章は大尉だった)が、
「何かおかしいことがあるのですか?」
と、尋ねて来た。私は、
「いや、余りに広過ぎてね」
と、片言の英語で答えた。
「広い西太平洋を守るには、多くの飛行機が必要です。多くの艦載機を円滑に離着艦させるには、これ位の飛行甲板に為ってしまいます」
と、海軍大尉は丁寧に答えて下さった。
 
私は興に乗り、前々から疑問に思っていたことを海軍大尉に尋ねた。
「キャプテン(大尉のこと)、何故、アメリカ海軍の航空母艦には、歴代大統領の名が付いているのですか?」
と、これまたたどたどしい英語で尋ねると、大尉は一生懸命解読して下さり、
「以前のキャリアー(航空母艦のこと)は、伝統的に地名等が付けられていましたが、ミニッツ(第二次大戦中の提督の名)級とフォード(38代大統領の名)級が就航する様に為ってから、大統領の名がつけられる様に為りました」
と、丁寧に答えて下さった。私は、
「でも、共和党の大統領が多いのは何故だ?」
と、ツッコみを入れたかったが、止めることにした。“リパブリック・パーティー(共和党)”の単語が咄嗟に出てこなかったからだ。
仕方なく私は、キャプテンに丁寧な礼を言った。
 
 
巨大な航空母艦ジョージ・ワシントンは、その1年3か月後の東日本大震災の折には、米軍の『トモダチ作戦』の旗艦として、多くの被災者に救援物資を届けた。護衛艦『ひゅうが』と協力して。
 
日本の安全保障を守り、未曾有の災害にも救援してくれた空母ジョージ・ワシントンは、2015年に横須賀駐在の任を、後任の空母ロナルド・レーガンに譲り、サンディエゴの海軍基地に戻った。
 
 
私は13年も経った現在でも、空母ジョージ・ワシントンに登ったことを忘れないでいる。
 
それ程までに彼女の大きさは、圧倒的だったのだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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