1438年間続く呪いの蓋を開けてしまった。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:日下 秀之(ライティング・ライブ大阪会場)
「……ん?」
何かが、変だ。
深夜0時。
近くの公園で日課のランニングをしていた私は、違和感を覚えて立ち止まった。
普段は朝に走っているが、今日は寝坊してしまった。
夜家に帰ってダラダラしていたら、こんな時間になってしまった。
朝は沢山のランナーとすれ違うが、今日は人影が無い。
普段なら爽やかな風が、寒々しく体温を奪う。
この公園は川沿いに位置し、南北に長く伸びている。
南北の中間地点には川を東西に渡る橋が設置されており、途中で橋をくぐる必要がある。
向こうに行くには、長さ1m程度のトンネルか、数10mある迂回路を通る必要がある。
違和感を覚えたのはそのトンネルの前を通ったときだ。
トンネルの前に「立入禁止」の札が貼られたフェンスが置かれている。
理由は書いていないが、トンネルの中に水溜りができているのが見える。
そういえば昨日は大雨が降っていた。
トンネルが地表から低い位置に掘られているため、雨が降ると冠水してしまうのだろう。
地面や空気もじめじめとしている。
何かが気になったが、よくわからない。
すぐに走り出したが、どうも気になりまた戻ってきてしまった。
フェンスの前からトンネルを眺める。
短いトンネルだ。大股で10歩も歩けば通り抜けられる。
トンネルの向こうもよく見える。
反対側にも立入禁止と書かれたフェンスが置いてあるのが見える。
ん? 立入禁止と書かれたフェンス……?
ここで、違和感の正体に気がつく。
なぜ、トンネルの向こう側を見たときに「立入禁止」が見える?
このままトンネルの中に進むと「トンネルから出るな」という意味になってしまう。
改めて目の前のフェンスを見ると、両側に「立入禁止」の札が貼ってあるのに気がついた。
つまりこのトンネルは、外からの進入を禁止されているだけでなく、トンネルの中から外に出ることも禁止されている。
普通に考えればトンネルの外にだけ掲示をすればいいはずだ。
双方から出入りが禁止される場面はそうあるだろうか。
これではまるで、トンネルの中にいる何かに「こっちの世界に来てはいけない」と訴えているようではないか。
トンネルの中をよく見ると、水溜まりも大した大きさではない。
通行を禁止するほどの水溜りには見えなかった。
単に、水はけが良かっただけか。
それとも、何か違う理由があるのか。
見れば見るほど想像が巡ってしまう。
怖くなってきた反面、好奇心も湧いてきた。
街灯の光が水溜りにキラキラと反射している。
なぜか目が離せない。トンネルが、呼んでいる気がした。
3分ほど迷って、トンネルに入ってみることにした。
フェンスを横切り、一歩ずつ入口に近づく。
公園とトンネルの境目を跨ごうとした時。
誰かの視線を感じた気がした。
後ろ? いや、違う。中からだ。
トンネルの中、天井、壁。
四方八方からネバネバした視線を感じる……。
キラキラした光が、私を呼び寄せるように手招きした……ような気がした。
気のせいだったのかもしれない。
けれど、それ以上は、無理だった。
ゆっくりと、後退りしながら思う。
早く帰って、シャワーを浴びて、布団に潜って、朝の日差しに恐怖をリセットしてもらおう。
もう今日は十分だ。
家への近道は迂回路を通る必要がある。
迂回路を通るとトンネルの反対側が目に入ってしまうが、早く家に帰ることを優先した。
できるだけ遠くを見ながら、一気に走り抜ける。
トンネルを見ないように走っていると、また気になるものを見つけてしまった。
白くて四角い大きな石。
……石碑だ。
こんなところにあっただろうか。
どこか取り憑かれたように石碑に近づく。
ライトを照らすと人名、と思われる文字が刻んである。
石碑の脇にある小さな石版に詳細が書かれているようだが、字が掠れて読めない。
石碑には真新しい赤紫の花が供えてある。
花? こんな公園にポツンと置かれた石碑に、誰が花を供えるのだ。
そして、ふと疑問に思う。
こんなにこの公園は人が少なかったか?
いつもはもう少し通行人がいた気がするが……。
そのとき、トンネルの方向から小さく、ガサリと音がした。
そこからは脇目もふらず家に向かって走った。
公園から家への最速記録を更新した。
帰宅後調べてみれば、少ないながらも資料が見つかった。
あの石碑に祀られていたのは、6世紀半ばの武将だった。
日本史の教科書の最初、新羅とか百済の時代に外交官をしていたらしい。
自国に有利な外交を結ぼうとしていたところ、刺客に暗殺されてしまった。
583年の12月のことだった。今日は2021年の、12月だ。
……なんてこった。いよいよ怖い話になってきてしまった。
ただの記念碑であれ、と思っていたがちゃんとお墓だった。
しかもしっかり不幸な死を迎えていた。
水場には良くないものが住み着く、と怪談ではよくきく。
そして、一体誰が花を供えたのだ。どんな思いで捧げたのだ。
21世紀の人物に、6世紀の人間が?
失礼ながら誰もが知る歴史上の人物ではなかった。
場所も目立つ場所に祀ってあるとは言い難い。
子孫の方が甲斐甲斐しく定期的に供えているのか。
あるいは道半ばで暗殺された男の魂を、誰かが鎮めようとしているのか。
あのフェンスは、せめて現世の苦しみをもう感じないようにと、トンネルの中に何かを鎮めているのか。
あるいは、トンネルに近づいた人を引き込む害をなす存在から、我々を守ってくれているのか。
嫌な想像が止まらない。ああ、今夜は眠れない。
次の日の朝、供えられていた花が気になり再度公園に向かってしまった。
花の種類や花言葉を調べれば、また何かがつながる気がしたのだ。
公園に着いた時、トンネル前のフェンスは姿を消していた。
石碑には、萎れた花が残っていた。
花を写真に撮り、よく似た花と花言葉を探す。
……あった。見つけた花言葉にはこう書いてあった。
「復讐」
……今夜も眠れそうもない。
***
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