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「理解すること」と「受け入れること」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:那須 信寛(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「特別支援学級に入って本当に良かったです。お友達もできたみたいで、ユウマもすごく楽しそうで。家に帰ってからお友達の話もしてくれるんですよ。先生方にも感謝しています。ありがとうございます」
 
そう笑顔で語るお母さんを見て、僕は何も言えなかった。胸が張り裂けそうになった。自分の知らない世界がある。僕はこの世界をもっと知らなくちゃいけない。それだけはわかった。
 
しばらく、沈黙が続いた後、ようやくお母さんはハンカチを取り出し、涙をふいた。
 
すると隣の部屋にいた、ユウマがリビングに入って来た。お母さんの様子が気になったのだろうか。リビングの周りを元気に飛び跳ねている。
「ほら、ユウマ、先生たちに挨拶しなさい!」
 
ユウマはピタッと止まって、こちらを向き頭を下げた。
「こんにちは」
 
ユウマはニコニコしながら挨拶してくれた。それでもまだ、お母さんの目は赤いままだった。
 
僕が教師になって最初に配属されたのは特別支援学級だった。以前は養護学級と言われた、知的障害を持った生徒が通う学級である。僕はそこで中学1年生の担任になった。そのときの1年生は4人いて、その中の一人がユウマだった。
そこの特別支援学級は通常の中学校の中にある学級で、3学年合わせて、14人の生徒が在籍していた。
 
それまで、特別支援というものをほとんど知らずに生きてきたので、毎日が驚きの連続だった。生徒たちの個性がとても強く毎日がトラブルの連続だった。そんな様々な個性を持った生徒たちがいる中で、ユウマは明るく穏やかで、みんなを癒してくれる存在だった。
 
ユウマは小学校6年生までは、特別支援ではない通常の学級に所属していた。そのときのクラスメイト達と一緒に卒業して、特別支援と通常で別れたものの同じ中学校に進学した。そのため、ユウマは通常学級の生徒に知り合いが多く、特に女の子に人気があった。休み時間になると、女の子が5,6人ユウマを訪ねくることがあった。女の子たちはアイドルにあったように「きゃ~! ユウマ~!」とはしゃいでいたが、ユウマは特に興味が無さそうに「こんにちは」と答えるだけだった。ただ、周りの男の子たちは羨ましいと思ったのか「ユウマは良いよな~」と少し拗ねてしまう子もいた。
 
ユウマ達と出会ってから1ヶ月ほどたったある日、1年生の家庭訪問に行くことになった。家庭訪問は通常学級の中学校ではほとんどなくなってしまったが、特別支援学級の生徒は家が遠い生徒がいて、登校中のことなどを心配する保護者の方が多く、今でも行われている。
 
家庭訪問に行くまでは、保護者の方とどんな話をすれば良いのだろうかと不安だったが、実際に行ってみるとベテランの女性の先生も一緒に行ってくださったので、安心して楽しく過ごすことができた。
 
ユウマの家に行ったのは1年生の中で最後だった。
リビングに案内されて、和やかな雰囲気で話をしていた。ゆうまは自分の部屋にいるらしい。お母さんの話が小学校の頃の話になった。
 
「小学校では担任の先生も、お友達もホントに良くしてくれて。すごくありがたかったです。本当は小学6年生に上がるときに、特別支援学級に移ろうかって考えてたんです。でも先生もお友達も一緒に過ごそうって言ってくれて、そのまま通常学級にいることにしたんです。卒業が近くなって、中学校ではどっちにしようか迷っていて、お友達には一緒に過ごそうってそのときも誘ってくれたんだけど、やっぱりユウマに合ってるのは特別支援学級かなって」
 
僕はお母さんの見ながら、しっかりと話を聞いていた。だから本当に何が起こったのか分からなかった。見間違えかと思った。でも、どんなに目を凝らしても、目の前の光景は変わらなかった。笑顔のお母さんの両目から涙があふれ頬を伝って下に落ちて、ズボンが濡れていた。僕には泣いている理由が全く分からなかった。
 
でも、その理由をきちんと理解したい、いや、しなくちゃいけないと思った。この世界のことをもっと勉強したいと思った。
 
ユウマが挨拶をしてくれた後、お母さんがリビングにあったピアノを指さして
「ピアノ、少し弾けるんですよ。ユウマ!先生たちに弾いてあげて!」するとユウマは「猫ふんじゃった」を演奏してくれた。
 
演奏が終わると、ユウマは大きなスケッチブックを開いて絵を描きだした。
「絵も好きで、よく描いているんですよ」
 
スケッチブックを見せてもらうと、可愛らしい動物の絵がたくさん描いてあった。
 
ユウマとお母さんに挨拶をして、家を出た帰り道、何も言葉が出て来ない僕に、ベテランの先生が話しかけてくれた。
「お母さん、泣いてたね。本当は特別支援に行った方が良いって、頭では理解してたんだと思うよ。でも、心の奥ではなかなか受け入れられなかったんじゃないかな。そんな葛藤を抱えた親御さんの大切な子供を預かっている。そのことを忘れないでいないとね」
 
頭で理解することと、心で受け入れること。そこには大きな違いがあるのだということをその日の家庭訪問で僕は学んだ。
 
それからの日々も様々な出来事があったが、ユウマも他の生徒達も、すくすくと成長していった。ユウマが3年生になって、僕の誕生日に絵をプレゼントしてくれた。大きなキャンバスに描かれた動物たちの絵だ。家庭訪問のときに見せてくれた絵がスケールアップしていた。また、ピアノが上達したというので弾いてもらった。3年前は猫ふんじゃったしか弾けなかったのに、ユウマが弾いてくれた曲は「アイネクライネナハトムジーク」だった。その上達ぶりに驚いた。
 
ユウマ達は無事に卒業していき、僕も他の学校に転勤になった。さらに数年たったある日、ユウマのお母さんから、個展をやるから見に来て欲しいと連絡があった。
 
個展会場では、僕にプレゼントしてくれた絵の何倍もスケールアップした絵が所狭しと飾られていた。そんな絵に囲まれながら、またピアノを弾いてくれた。曲は「Summer」だった。そんな素晴らしい空間を味わいながら、僕はユウマの成長を支え続けてきた。お母さんのことを思い浮かべていた。あの涙を流した日から、ユウマの一番の応援者だったのだろう。そんな二人が作り上げたユウマの個性がこれからも花開いて欲しいと願っている。
 
 
 
 
***
 
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