メディアグランプリ

45歳おじさんがライティング・ゼミでとらえた林檎の実が落ちる瞬間


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:アキ・ミヤジ(ライティング・ゼミ日曜コース)

「あ、しまった」

地下鉄の車内で、私は思わず声をあげてしまった。
と同時に、目の前に林檎の実がポトリと落ちてきたように感じた。

その瞬間はちょうど、電車の扉が閉まったところだった。
駅のプラットフォームが車両の後方へと流れはじめ、車窓からの景色は地下鉄の暗闇に変わった。
仕事からの帰り道、私はうっかり、電車を乗り過ごしてしまった。

中学生から電車通学をはじめて、30年以上。
これまで数え切れないほど「乗り過ごし」を経験してきた。
10代、20代の頃は、眠気に負けて寝入ってしまい、乗り過ごすことが多かった。
30代にはいると、眠気で乗り過ごすことは少なくなった。
その代わり、本を読んだり仕事の書類に目を通すことに夢中になり、乗り過ごすことが増えた。
ところが40代になってからは、乗り過ごした記憶がない。
以前よりも眠りは浅くなったし、本や資料を読む集中力も低下してきたからだろうか。
だから、久しぶりに乗り過ごして、懐かしさと驚きが入り交じった。

だが、それ以上に驚いたことがあった。
大きな変化が自分におきていたことを、乗り過ごした瞬間に気がついたのだ。

その気づきは、アイザック・ニュートンが「万有引力の法則」を着想したときのようだった。
ニュートンは、庭の木から林檎の実が落ちるのを見た瞬間に、「万有引力の法則」を導くヒントを得たと言われる。
林檎が落ちるとき、林檎には地球から引っ張られる力が作用している。
同じ引っ張る力が、月や惑星にも作用しているのではないか、とニュートンは考えたのだった。
実はこの話、後世の創作だという話もある。
それでも長年、人々からこの逸話が受け容れられてきた。
一見、無関係なことから、思考を助けるヒント、気づきを得る経験をした人が、世の中にはたくさんいるということなのだと思う。

私もまた、乗り過ごして、駅のプラットフォームの明かりが消え去っていく光景を目にした途端に気がついたのだ。

私の思考が「読者」に向けられるようになったことを。

今年8月から天狼院書店ライティング・ゼミの受講を始めた。
それから4カ月。
Web 天狼院への掲載をめざして、毎週毎週、欠かさずに記事を書き続けてきた。

掲載されなかったときは、記事が的確なフィードバックを編集部からいただいた。
おかげで、次の週に提出する記事を書くときの重点課題として意識することができた。
掲載されたときは、悩んだ。
はたして自分の書いた記事の何が良かったのだろうか?
自分の書いた記事を読み返して、考えた。
思い悩みながら、毎週毎週、2000字前後の原稿を書き続けてきた。
だが正直、自分のライティング能力に変化を感じられず、手応えもなかった。

乗り過ごしたとき私は、電車に揺られながら記事を考えていた
以前ならば、自分の思うままにネタを膨らませ、iPhoneのメモアプリで文章を書いただろう。
だが、乗り過ごしたときの私は違っていた。
思い浮かんだ記事ネタについて、読者に面白く読んでもらえるだろうか、面白く読んでもらうためにどんな文章構成で書こうか、などとあれこれ頭の中で試行錯誤していた。
記事を読者にむけたかたちにすることに夢中になって、乗り過ごしたのだった。

ああ、ライティング・ゼミで成長したのはそこだったのか。
いままでにない「乗り過ごし」の体験によって私は、「自分の考えを主張する思考」から「読者に読んでもらうための思考」へと変わっている自分の変化に、初めて気がついた。

「万有引力の法則」のような偉大な宇宙の真理に気がつくことと比べれば、私の気づきはちっぽけなものかもしれない。
でも、45歳の私にとってはとても大きく、大切な気づきだった。
鳥肌が立つほど嬉しかった。

博報堂生活総合研究所の調査では、「おじさん」と呼ばれはじめる年齢の平均は43.24歳だそうだ。
私はもう立派なおじさんだ。

おじさんになるまで、社会人として仕事や子育てを通して、多くの経験を積んできた。
しかし、人生100年と言われるのが今の時代。
おじさんとはいえ、またまだ知識や技能をバージョンアップして、成長していかなければいけないと思っている。

だが一方で、おじさんらしく、加齢による身体的な衰えも感じる。
以前と比べて体力は落ちてきたように思うし、太りやすくもなった。

さらに今年、病気と手術を経験したことが、不安を助長した。
元の身体と生活をできるだけ取り戻すことだけで手一杯。
果たしてこれから先、成長したり、バージョンアップしたりできるのだろうか、と。

だから嬉しかった。
おじさんでも、病気をしても、成長できると実感できたことが。

一日一日生きていくなかで、人は周囲から有形無形の何かしらを得ているに違いない。
何かを得ることで、自分はどこかしら、何かしら変わっているはずだ。
けれどもその変化、成長は、とても小さく、またゆっくりだ。
だから、自分で納得できる変化のかたちを感じられる瞬間はとても大切だと思う。

しかし、その瞬間を意図的にとらえるのは、林檎の実が落ちるのを今か今かと待っているのと同じで、相当の辛抱がいるのではないだろうか。

ならば、気がつけずとも自分の変化、成長を信じる。
そして、不意に訪れる林檎の実が落ちる瞬間を楽しみにする。
そうして生きることが、いつまでも成長し続けられる術かもしれない。

***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2021-12-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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