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昇進したい

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山口ななかまど(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「マネージメント経験はありますか?」
38歳で転職活動をした時に、転職エージェントや応募先から散々言われた言葉だ。アラフォーの転職とは、少なからずそう問われるお年頃であることを痛感した。管理職経験が無いわけではなかったが、実態としては同じ出向先メンバーの勤怠表をまとめる「なんちゃって課長」だった私は、当時マネージャーとしての成果を定量的にアピールすることはできなかった。
その後は「マネージメント経験を積む」、これを第一目標として、どうにか現職へ潜り込むことに成功した。
内定先はサービス業なので大半の社員はシフト制で働いており、自分にとっては休暇日であっても現場が稼働している。経験上、そのような会社は休みであろうと現場からの連絡が途絶えず、結局休みであって休みでないようなものであると知っていた。それゆえに、入社をかなりためらってしまった。
しばらくの間、もう一つの内定先であった完全週休2日制の会社と天秤にかける日々が続いていたが、サービス内容と職務内容には惹かれていたので、結果的に現職の選択に至った。
 
転職活動とは非常にエネルギーを必要とするもので、できることならもう経験したくないな、と心の底から感じていた。応募企業の選定、応募先に合わせた書類作成、面接のスケジュール組み、面接のために仕事を抜ける言い訳を考えること。
しかし、この転職でマネージメント経験を積めなければ、次なる他社へ売れる経歴を持つことができない。となると、夢の完全週休2日制への道も途絶えてしまう。「私はマネージャー経験を買うのだ」と言い聞かせて現在の職場へ入れていただき、それから2年以上の時が流れた。
 
新しい職場の業務内容は面白かった。私はそれまで、ほぼ3年周期でしょうもない離職と転職を繰り返してきたが、その拙い経験のピース同士が繋がっていくような感覚があった。油断すると延々仕事のことを考えてしまい、家事・育児といった現実との境がなくなってしまうほどだった。
 
年に1回、評価の機会があり、自己評価内容をもとに会社から査定される。2年目の私には書くべき定量的・定性的な成果があったので、意気揚々と成し遂げたこととその結果について綴っていった。何度も推敲し、「これなら誰がどう見たって昇進させざるを得ないでしょう」と思えるところまで仕上げていった。それから気付いた。
 
自分が「成し遂げた」と感じていたことのどれ一つとして、多くの人の協力なしには成立し得なかったこと。自分一人だけで完結していたことなんて何一つなかったこと。たまたま発言したことを掬い取ってくれて具現化してくれた人がいたこと。何より、自分が自由にのびのびと成果を発揮できるよう、「思うようにやればいいよ」といつも上司がお膳立てしてくれていたこと。
 
私はそれまで、管理職にはリーダーシップが必要なのだと思っていた。だから、一般社員の時分から、リーダーシップを発揮できる場面を探し、それを意識した行動をとり、自己評価シートへ書けるネタとして落とし込んでいった。そういう機会があるたびに、上司は穏やかに「よかったね」「面白いね」、うまくいかなかった時は「1回うまくいかなかったくらいで諦めることないよ、もっとやってみよう」とコメントしてくれた。それでいて、トラブルに発展しそうな時にはさらっとフォローしてくれていたのであった。
 
他の、ともすれば強引にも見えるマネージャー達に比べ、直属の上司はどこか物足りなさを感じないでもなかった。しかし、今振り返ってみると、何もかもをご自身でコントロールしようとせず、年齢だけ重ねた新人だった私をここまで自由に行動させてくれていたという、その大らかさと器の大きさに感服する。私だったら部下を信頼し、これほどまでに任せることができるだろうか、と。
 
書籍『自分の頭で考えて動く部下の育て方』(篠原信・文響社)に、「上司の仕事は、部下が仕事をしやすいようにお膳立てする雑用係だ、と言ってもよい。」とあった。私の直属の上司は、一見すると何も上司然とした行動を取っていないようでいながら、ただ静かに、穏やかに、私が活躍できるようにお膳立てをしてくださっていたのである。
 
「分かりやすい成果を上げること」、それだけに一点集中していた一般社員の私は、それでそれで間違っていない努力をしていたと思う。しかし、昇進したいのであれば、後続の人たちが自分と同じように活躍できるように見守ることのできる度量が必要ということなのだろう。
 
そのことに気付けるまで、私の「昇進したい」願望は、より働きやすい環境を求めるためのステップアップでしかなかった。「ステップアップ」というと聞こえはよいが、平たくいうと、現職を踏み台にしようとさえしていたのだと思う。
本当にそうしてしまう前に、誤ってしまう前に、気付くことができてよかった。一つの成果の裏にはたくさんの直接的な協力者がいたことと、誰に称賛されることもないけれど自由に仕事をさせてくれた上司のありがたみに、気付くことができてよかった。
そして私もまた、今の職場の周りの人たちが大活躍できるように、静かに穏やかに支援する上司になりたいな、と今は考えている。
 
 
 
 
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2021-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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