メディアグランプリ

隣の中学生は鍋料理のようだった

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:後藤 修(ライティング・ゼミ 集中コース)
 
 
真冬が来た。気温は氷点下にある日が増えた。
会社へ出勤する時に、ピューピュー風が吹いている。
退勤する時も、冷たい風が体に当たる。
そんな時はどうするか?
(そうだ。今夜は鍋料理だ)
こんな風に思う人は多いだろう。
 
鍋料理を食べると、体が温まる……。心も温まる……。自然に笑顔になる。
こんな風に最近思えたことがあった。
その場所は会社へ行く通勤電車の中。
 
一体どういうこと?
誰もがそんな風に思われるだろう。
鍋料理で味わうようなぬくもり。これを味わえた。
僕にとって、諦めた思いを呼び起こすことにつながったのだ。
 
 
2週間前の朝だった。
僕はいつもの時間に家を出て、車でいつもの最寄り駅に向かった。
時々、赤信号に多少のイライラを味わいながらもそんなことは愛嬌。
ゆとりをもって駅に到着した。
車を駐車させて足早にプラットホームめがけて走った。
長い階段もトントンと駆け抜けた。
‘指定席’である長椅子の端に腰に座って、スマホをいじりだした。
 
間もなく、電車が動き出した。
やがて次の駅に着いた。すると、学生服を着た中学生が入ってきて、僕の隣に座った。
彼はおもむろに英語の単語帳を出して読み始めていた。
(熱心に勉強してるな)
 
横目で彼を見て、僕はスマホをしまって目を閉じた。
電車に揺られながら、リラックス時間を楽しむスタンバイが整い始めていた。
 
(さあ、ゆっくりしよう)
 
と思った途端、ズシリと重みを感じた。
なんと、中学生が僕の腕に寄りかかってきた。
爆睡している……。なんという早業。さっきまで勉強していたのに。のび太が居眠りをするより
も早かった。重い……。彼が僕をハチのように、‘突き刺し’ていた
(う……。これどうしよう)
僕は迷った。これを払いのけるべきか、このままもたれかかれるか?
この時、ふと思い浮かべた。
それは僕の今の境遇だった。
 
僕はアラフィフ。しかも独身の中年だ。
 
社会人になって24年。その間、不健康に悩まされた。症状は体が固まるもの。
治療の仕方は全く分からない。病院に行っても、症状はないと言われる始末だった。
なんとか体を治癒してくれる整体院を見つけだし、通い始める
それ以来、通い続ける生活を18年間続けている。
 
そんな僕でも家族を持つ夢を持っていた。
 
友人が結婚する、子供が出来る、幸せに見える。
(いいな……)
 
飲み会では決まって、みんなで集まっていた。
とても楽しそうに家族で笑いながら過ごしていた。
そんな様子を僕はうらやましく見ていた。
 
(僕も家庭をもてたらな……。もつようにしたい……。頑張りたい……)
 
そんな不健康な僕でも行動することを心に決めた。
お見合い相談所で相手を探し始めた。
最初は希望をもっていた。相談所の人から「きっとあなたなら大丈夫」
そんな明るい言葉もかけていただいていた。
 
けど、うまくいかなかった。
僕を気に入ってくれる人もいた。だけど、すぐ縁が切れた。
仲良くなっても、体の事を言わなければならなかった。一緒にでかけることは少なくなるかもしれないと。そうすると、大抵の人は僕と付き合うことをやめた。
そんなかんだで、数年間頑張ったが相手は見つからず終わった。
自分が虚無感に包まれた。
なんで……。
悲しい……。
淋しい……。
現実を受け止めるしかなかった。
 
その感覚は時折やってくる。
もし、奥さんや子供を持てたらどんな風に今、過ごしていただろうか……。
笑いながら毎日を過ごしていただろうか……。
 
しかし、心の奥でグっと何かが動いた。
 
けど、待てよ。今、寄りかかってくる子はどうだ? 僕が家族を持っていたら
同年齢ぐらいかもしれない。こんなふうに寄りかかってくれたかもしれない。
そう思うとなんだかほかほかしてきた。
 
とても温かくなってきた。これはまだ、諦めるなということか?
家族を持つことを諦めるなということか?
まるで、鍋料理を食べて感じる温かみのように感じ始めた。
 
(しばらくこれでいよう)
 
僕は重さを感じながら彼を支えた。
 
僕が降りる駅に近づいた。
電車が止まった。彼はその時、目を覚ました。僕は彼から離れた。
 
(重かった。けど、嬉しかった)
こう思った僕は明るくなっていた。
 
1度は諦めていた。けど、目覚めた。僕の家族を持つ思いが。
彼のおかげで思い出した。彼のぬくもりが心をともしてくれた。
 
もう一度がんばろう。きっと頑張れる。これからも諦めずに家庭を持つことを。
 
僕は力強く足を踏みながら、職場へ向かった。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2021-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事