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チキンな高校生がクリスマスの夜に知った大人への第1歩


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:あおいようこ。(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「休憩が済んだら、外売りね。よろしく」
鬼は言った。その目線は真っ直ぐに休憩しているバイト仲間と私に注がれていた。
あの年のクリスマスは特に寒かった。予定のないバイト達は、15分でも良いからと店長に懇願されて、少しでも多くの時間をシフトに組み込まれていた。私は特に時間の希望を入れていなかった。だからってクリスマスの日に朝からラストまでという過酷なシフトを体験するとは、予想もしていなかった。普段は優しい店長が朝礼でゲキを飛ばした時に、嫌な予感がした。私にとって、何かが変わる1日になるのかも知れない……。
そう、朝の段階では思考が働いていたはずなのに……。
 
私はかなりのチキンだったが、どうしても行きたいライブのためにお金が必要だった。
公園の木々が紅葉を始めた頃に、学校には内緒で私もバイトを始めていた。見つかったら停学か? 親には部活と嘘をついていた。全てに怯えて店頭に立つストレスで、あっという間に3キロは痩せた。ドライブスルーで注文を受けた時、選択教科の書道の先生と目があって「終わった」と思ったが、たまに会う生徒の顔など先生は覚えていない様子だった。念のため、商品をお渡しするときは友達に変わってもらった。そんなチキンな私が業界を代表するフライドチキンのお店で過ごすクリスマスの1日が始まった。
 
オープンの直後から、予約のチキンバーレルを受け取りに来たお客様、少しでも多くのチキンを下さいというお客様のラッシュの波が押し寄せた。始めて経験するその光景に圧倒される暇もなく、スマイル(ここではスマイル0円の強制はなかったが)を添えながらチキンを手渡す。とにかくペラペラのペーパーで作られた帽子が頭からいつ落ちるのか、というバランスと正気を保つことが私の課題だった。15分だけの休憩を取った後、戦場に戻った。
午後からはドライブスルーの担当になった。寒い……。窓を開けるたびに駐車場からの風がペラペラの帽子に襲い掛かった。頭の中は帽子のことだけでいっぱいだった。店内(お客様の圧ということは気づいていない)の熱気と外気の冷気&ドライバーの冷たい視線のアップダウンの激しさに世間知らずな高校生の自律神経が耐えられるはずもなくスマイルは凍っていった。
 
「ガッシャーン」突然、厨房から店内に響き渡るほどの大きな音がした。その音はバーレルに入れるチキンの組み合わせ、並んでいるお客様を少しでも待たせないように、綿密にチキンの組み合わせを計算してフライヤーに入れている苦労が一瞬で失われたことを意味していた。店長の顔色は、そのまま倒れるのではないかと心配になるほど真っ赤だった。赤鬼になった店長が一瞬で青鬼になったのを私は見逃さなかった。人間が鬼になる瞬間を生まれて初めて目撃したチキンな私はひきつったスマイルと共に、「申し訳ありません」がコダマする店内からドライブスルーのお客様にさらにお待たせしてしまうことを詫びた。そんなこんなでスマイルを貼り付けた顔で足を棒にして、どうにか私は夕方まで何時間も立ち続けた。「申し訳ありません」のコダマは耳鳴りのように続いている。楽しげなB G Mのリピートで脳内が麻痺されつつあるのに気がつかないようにする店の作戦は完璧だった。壊れゆく私の頭の上のペラペラの帽子は脱帽寸前だった。
 
その日の夕陽は全く記憶に無く、群青の夜に星が出てくる時間になっていた。
私は30分の休憩をとるように店長から申し伝えられた。店長はもはや、疲労感の滲み出たただのオジさんだった。高校生の私は食べているコールスローの味がわからなくなっていた。
 
「休憩が済んだら、外売りね。よろしく」くたびれたオジさんは鬼になった。
スカートの下にタイツを履くなどの準備もなく、私たちはペッラペラの上着だけをありがたく受け取った。お客様が暖かいお家で召し上がっていただけるよう、湯煎して食べることのできる冷たいスモークチキンを販売しますって言っていたかな、朝礼で鬼が叫んでいたような……。思い出そうとしてもB G Mが邪魔をするのは気のせいだろうか。
店内からはお客様の頭の山々で見えなかったのだけれど、眼鏡をかけたオジさまの人形の横で外売りの主役が並べられていたのだ。私たちは主役に目を向けず真顔でドアを開ける。足元から寒さが全身を駆け上がった……。
大丈夫! 帽子は頭の上に、しっかり乗っている。ペラペラの帽子が相棒に格上げされた瞬間だった。バイト仲間と力のないスマイルを浮かべながら「スモークチキンはいかがですか〜」「並ばずにお買い上げ頂けま〜す」声のかぎりに道ゆく人に白い息を吐きながら声かけをする。家路を急ぐ人々からの反応は薄く、店内は相変わらずの熱気で窓ガラスは曇り始めている。人々が吸い込まれていく交差点の信号が青ばかり、目についてしまう。
寒さで震える歯のカチカチ音がリピートされるB G Mに加わった。
公園の木々の緑色は、すでに群青に飲み込まれていた。サンタの服を着た眼鏡をかけたオジさまが隣で優しく微笑んでくる。何も言わないが優しく寄り添いつつ、「チキンを売りさばけばいいんだよ」と語りかけてきているようだ。もはやサンタの服が何色なのかも、わからなくなってきていた。私の網膜は、赤?赤ってどんな色だっけ? あか……。あか、あか、あか、あか……あお!
目に映る世の中の信号が全て青だった不思議な交差点の近くのお店でフライドチキンを売っているのが可笑しくなってくる。私の隣には眼鏡をかけた青いサンタさんがいる。
ゲシュタルト崩壊を起こした知覚が戻らないまま、スモークチキンを売り続けたクリスマスの夜。真っ青な顔でチキンを売り続けラストを迎えた時には笑いが止まらなかったあの夜。チキンな高校生は「人間って疲労が限界を越えると笑うのだ」という事を初めて知った。

ペラペラの帽子を守りきった自分がやけに誇らしかった!
 
赤・緑・白・キラキラしたイルミネーションはクリスマスのイメージそのものだった。
時にゴールドやシルバーの華やかさが入り混じり、B G Mはラストクリスマス。
雪が降ろうものなら恋人たちのクリスマスの世界が街では繰り広げられる真っ白な世界。
あのクリスマスの夜までは、確かにそう思っていた。
大人になった今、フライドチキンを食べながらアルバムにはさまれた相棒を確認する。
「今年のクリスマスは何色に見えるのだろうか」を楽しみながら。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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