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アラサー女は「読むプロテイン」で筋トレ教の信者になった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤本摩理(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
筋トレは一種の宗教である。
 
日々の日課として、祈りの代わりにトレーニングがある。教会の代わりにジムへ行き、聖書を開く代わりに、限界ギリギリの重さのバーベルを握る。
礼拝の後にはパンとブドウ酒だが、筋トレ教の場合はプロテインとBCAA。食事制限を厳しく行う人もいる。
そして神は裏切らないし、筋肉も裏切らない。
 
キリスト教には神の子イエスがいるが、筋トレ教の信者たる私には、Teststeron氏という名の教祖がいる。
Teststeron氏は私を筋トレ界にいざなったインフルエンサーだ。2021年12月現在140万人のフォロワーを抱えており、それらをまとめた内容の本も何冊も出版している。
「人間関係に悩んだら筋トレ」「仕事で悩んだら筋トレ」とひたすら筋肉教を布教する内容で、第一作の「筋トレは最高のソリューションである」はファンの間で「読むプロテイン」と称されている。
 
私が女ながらに筋トレ教に入信したのは4年ほど前のこと。当時から影響力があったTeststeron氏のTweetが誰かのRTで流れてきたのがきっかけだった。
 
自信がない→筋トレ
病んでる→筋トレ
モテたい→筋トレ
強くなりたい→筋トレ
変わりたい→筋トレ
ストレス解消→筋トレ
肩こり解消→筋トレ
孤独→筋トレ
メンタルが弱い→筋トレ
覇気がない→筋トレ
頼り甲斐がない→筋トレ
 
筋トレすると人生の悩みがほぼ消えます
(Teststeron)
 
こんな感じの内容だった。グラサンとスーツがトレードマークのゴリゴリマッチョが大真面目に筋トレ愛を語り倒す。「テルマエ・ロマエ」や「ドラゴン桜」の阿部寛のような、真顔で大真面目なのになんだか面白いタイプの人が大好きな私は、すっかり彼の世界観にはまってしまった。
 
ただし、この時点では自分が筋トレに励む気はさらさらなかった。
なにせ私は「運動音痴」だ。50m走は9秒台後半の鈍足だし、チームスポーツは基本的にポンコツで、学生時代の部活も全て文化系。体力勝負の仕事についていたから同年代の女性よりは多少力はあったけど、体を動かすのは全く好きではなかった。
 
ただ、変身願望があった。
 
社会人2年目。大学を卒業して憧れの仕事についたはいいけれど、自分が思っていたより「仕事ができない」人間だということに気がついて打ちのめされていた。どうにかして変わりたい、変わらなくてはならない……。
そんな心の隙間に、ポンと入り込んできたのが筋トレ教の教祖の言葉だった。
 
「死にてえって思ってるそこの君! 自殺する前に筋トレで筋肉を殺そう! 筋トレは筋肉を殺す気で追い込み『今のままでは死ぬ』と思わせることで筋肉を成長させる行為です! 筋トレは自殺未遂に近いです! しかも筋肉は3日後には強くなって蘇ります! 性格も強気になり『死にてえ』から『殺すぞ』に変わります!」(Teststeron)
 
まぁ見事にぶっ飛んでいる。でも、漫画でもなんでもマッチョキャラは白い歯をきらりと光らせ、ガハハと笑っているものだ。「ネガティブなマッチョ」がいないのはそういうわけかと、私は妙に納得した。
 
「筋トレは習慣自体を変える。習慣が変わればメンタルも変わる」
「バーベルに押しつぶされる寸前の状態でゴチャゴチャ考えられる人間はいない」
「ジムはいいぞ!」
 
そんな調子で「読むプロテイン」を摂取するうち、ふとダンベルとやらを持ってみたくなって、私は筋肉教の信者になった。そこまで敬虔な信者ではないけれど、週に3〜5日くらいは教会(ジム)に通って汗を流すのが日課になった。
体はどっと疲れたけれど、心はすっきりさっぱりして、いつしかトレーニングできない日が続くとイライラするようになっていった。
 
そんな中で気づいたのが、「筋トレ教」の懐の深さだった。
私は筋トレといえばスポーツ万能な人がするイメージを持っていたけれど、筋トレは「スポーツ」ではない。誰と競うこともないし、目的も人それぞれな「トレーニング」だ。若者はもちろんのこと、還暦越えのおじいさんおばあさんもたくさんいる。
年齢どころか、職業も千差万別だ。ラーメン屋のおじさん、カメラマン、看護師のおばさま、グラフィックデザイナーのお姉さん、作業機械ドライバーのおじさん、世界中を飛び回って中古車を買い付けてくる外国人……。
職場と家を往復しているだけでは絶対に出会わなかった、異世界の住人。そんな人たちにたくさん出会った。
 
筋トレを教えてもらい、同じスタジオでエアロビを楽しみ、マラソン大会へ一緒に行って、プロテインで乾杯する。特に私はランニングが好きだから、50代のおじさんの友人がたくさんできた。ランニング人口は50代がボリュームゾーンなのだ。
「女性でハーフマラソン2時間切った?! それはすごいな」
「次はフルマラソン4時間切りだね。ん、4時間半? いやいや、弱気はいかんよ」
おじさんたちは褒め上手の煽り上手で、相手がいる「スポーツ」は苦手だけれど「トレーニング」は得意な気質もあって、私はタイムをぐんぐん伸ばしていった。
 
ベテランランナーのおじさんたちに食らいついて走るうち、ふとした拍子に気づいてしまった。
職場ではなぜ、私は「できないやつ」なのだろう。自分で言うのもなんだが、「女性でハーフマラソン2時間切り」は自慢できる数字だ。ジムでは実績を出しているのに、職場では全部空回る。褒めるでも煽るでもなく、ただ「あいつはできないやつだから」。向いている場所が別にあるのではないか。
 
――気づいた瞬間、私は職場に辞表を出していた。
 
「筋トレ教」は別に、脳筋になるためのものではない。本当にそれこそ宗教で、より良く生きるための方法を教えてくれるのだ。
家と職場以外の居場所を作り、まったく新しい人たちと引き合わせてくれる。
正しい努力をすれば体が変わり、食事をおろそかにしたり無茶をすれば体を壊す。
トレーニングをすれば、雪だるましきにどんどん膨れ上がった恐怖や不安はバーベルに押しつぶされてなくなり、小さな核の部分だけが残る。
 
「藤本は筋トレを始めてから、冷静で前向きになった。前はしょっちゅうパニックになっていたのに」と筋トレをする前の私を知っている人は口をそろえる。
「未経験なのにやたらと行動力がある」のを買われて、転職先もすぐ決まった。
 
筋トレしたら人生変わるぞ!と言われて「筋トレで人生が変わる訳ねーだろ」と試そうともしない人と「そうなのか!ようわからんけど筋トレしてみよう!」と試してみる人、幸せな人生を掴むのは後者です。世間が良いと言ってるものはとりあえず試してみる前向きな姿勢が大切。筋トレしたら人生変わるぞ!(Teststeron)
 
久しぶりに読み返して戦慄した。筋トレを始めた当初は全部ギャグだと思って笑っていたけれど、「読むプロテイン」こと「筋トレは最高のソリューションである」に書いてある部分は、全部見事に真実だった。
 
恋人がいなくてもダンベルがいる(Teststeron)
 
……この部分まで真実だったのには、ちょっと泣いているけれど。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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