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私の中の『三本の柱』


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記事:Seiko(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
新婚3カ月目くらいの頃、夫のある癖に気づいた私。
癖と言うか、習性というか、とにかくそれは私にとって
「これだけは止めて欲しい」と思うもので、
私自身も、そのことがこれほどまでにストレスになるのかと、
その時初めて知った。
 
夫は「使ったものを片付けない」人だった。
 
最初のうちは「片付け忘れたのかな」と思いながら、
気づいた私が元の場所に戻していた。
でも、それがあまりにも度々で、
次第に私は、夫が使った物を片付けないことを
「嫌だなあ」と思うようになり、
夫の片付けなかった物の後始末を毎回私がするという、
そのことにも嫌気がさしていた。
あまりに頻繁すぎる! というか、使いっぱなし、毎回じゃないの。
 
どうして片付けないのだろう?
 
大抵それはハサミで、ある時は、本人に〝置きっぱなし〟に気づいてもらおうとそのまま放置。
しかし全く効き目が無い。
夫は、テーブルの上に置いたままのハサミを使い、またそこに置いて去る。
何かを感じている様子はない。
一方、それを観察している私は、「まただよ~」とイライラしてくる。
 
そんなことをひと月ほど続けただろうか。
 
早いところ本人に伝えれば良かったのに、私は完全にそのタイミングを逃してしまった。
 
最初の段階ならば、
「使ったら元の場所に戻してくれる?」
とシンプル言えたのかもしれない。
 
でも、時間をおきすぎて、繰り返し過ぎて、
そのことが原因で私の中に不満も生まれていて、
ついでにイライラの感情もあり、もうニュートラルな気持ちで
「使った物、元の場所に戻してくれる?」とは言えそうもなかった。
 
私は、心の中で夫のことを責め始めていた。
人を責めている時、その気持ちは相手に伝えにくいものだ。
 
「どうして片付けないの? 使ったら戻してよ」
口にしたら言葉が棘を持ちそうだった。
 
そして、その日もまた同じことが起こった。
「また出しっぱなし。いい加減にして欲しい」
ストレスMAX。ついに怒りも沸いてきた。
 
「これはまずいわね」
そう思った。
 
夫のこの習性は変化しそうもない。
でもこの状態がずっとずっと続くとしたら、
きっと私は、夫の〝行為〟ではなく、
〝夫本人〟を嫌悪し、嫌いになりそうだ。
 
まずい。それはまずいです。
まだ新婚3カ月。
この先ずっと、嫌いな人と暮らしていけない。先は長い。
 
そう思った時、私達の結婚式で、上司からいただいた祝辞の言葉が
頭の中に蘇って来た。
 
「長い話も野暮なので、私からお二人に一つ話を贈ります」
上司はそう言って話しはじめた。
 
結婚したてのある若いご夫婦がいた。
二人は毎日一緒に朝食をとる。
そして食卓には、夫の好きなシジミのお味噌汁が度々のる。
夫は、いつもシジミの身を全部キレイに食べて、
妻は、シジミの身は残す。
妻は夫のことを「身まで全部食べるなんて、なんて卑しいのかしら」と思い、
夫は妻のことを「身を残して、なんて食べ物を無駄にする人なんだろう」と、
お互いに不満を感じていた。
何年も、何十年も、二人は相手に対してそう思い続け、不快感を持ちながら、
でも、どちらもそのことを口にすることはなかった。
そして、夫婦はだいぶ年をとり、ある朝、ついに妻が夫に言った。
「あなたがシジミの身まで食べるのが本当に嫌なの」
言われた夫は驚いた。そして言った。
「僕は、君がシジミの身を食べずに残すことに、ずっと違和感があったよ」
二人は相手が自分とは真逆の考えを持っていたことと、
そのことで、お互いに不満を感じ続けていたことを、その時初めて知った。
 
そういう話だった。
 
「不満があったら自分の中で抱え込まず、なるべく早く相手に伝え、解決した方がいい」
ということと、
「自分にとって当たり前のことが、相手にとってもそうだとは限らない」
「コミュニケーションを大切にして、末永く良い人生を二人で歩んでください」
 
上司はそう締めくくった。
 
その上司の言葉が突然蘇って来たのだ。
 
そうだ。まさに今がその時だ。
夫は私を困らせる為に、わざとハサミを置いたままにしているわけではない。
本当に悪気も何もないのだ。
それは見ていてわかる。
そして私は一人でモヤモヤ、イライラしている。
このことで、私達は状況を一切共有出来ていない。
夫は何も知らずに、いつも通り、平和に生きている。
 
私は夫に何か酷いことを言われたわけでもなく、ケンカもしていない。
問題は私の頭の中だけで展開し、大きくなってきている。
そして、「やばい、このままだと嫌いになる」とまで、話は進んでいるのだ。
 
〝問題〟はコミュニケーションのないところに育つのだ。
 
その時はもう、夫に対する不満も、イライラも静まり、
私は冷静になっていた。
 
そうだ。ちゃんと伝えよう。
聞いて欲しいのは、怒りでも不満でもない。
私は夫にお願いをしたいだけなのだ。
 
「ねえ、お願いがあるのだけれど、聞いてくれる?
ハサミとか、何か使ったら、元の場所に戻してもらえると助かるな」
 
突然私にそう言われた夫は、少し驚いた風だったけれど、
「わかった。やってみます」そう答えてくれた。
 
はあ~。一件落着。
ホッとした。
 
私がお願いをしたあと、夫の〝片付けなかった〟習慣は変わった。
初めて、使ったあとのハサミを片付けている夫を見た時は感動した。
 
「片付けてくれてありがとう」
 
そう伝えたら、「なんとかやってます笑」と返ってきた。
 
でもまだこれで終わりではない。
シジミのお味噌汁なので、私も夫に聞いてみたのだ。
 
「ところで、あなたは私に何かリクエストはある?
して欲しいこととか。やめて欲しいこととか」
 
これがありました。夫が不便に感じていたことが。
見事にシジミが返ってきた。
夫から言われて、思わずおでこを叩いてしまいそうになった。
「あちゃー。ごめんなさい。それ、身に覚えがあります」
 
私も、気を付けなければと思いながら、いつも忘れてしまっていたことだった。
 
聞いてみて良かった。心からそう思った。
 
この出来事は、結婚をしたばかりの私にとって、大切な学びになった。
これがきっかけで、私の中に、
夫と暮らしていく上での『三本の柱』が立ったように思う。
 
一つめは、相手へのお願いや、聞いて欲しいことは、一人で考えていないで、早めに伝える。
『問題』は、コミュニケーションが不在のところに育っていく。気を付けよう。
 
二つめは、自分の中に相手への不満がある時は、相手の中にも同じように不満があると思え。
 
三つめは、『10あるうちの9個、相手のことが大好きで、1つだけ許せない』というよりも、
『相手の9個を許せて、1つ大好き』の方が、きっと長く幸せでいられる。
譲れるところは譲り、巻かれるところは巻かれ、これだけはどうしても、ということは話し合おう。
 
あれから約20年が経つけれど、私の中の『三本の柱』は、私がブレる度に
「大丈夫?」と声をかけてくる。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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