欲しい結果が手に入るかどうかの分かれ目とは
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:深谷百合子(ライティング・ライブ名古屋会場)
「甘えるなー!」
スキーの直滑降の練習でスタート地点に立った私に、斜面の下から先生のゲキが飛んできた。
高校1年の修学旅行で行ったスキー合宿。私にとってスキーは初めての経験だった。合宿2日目の最後は、緩い斜面で直滑降の練習だった。
私は自分の番が来て、スタート地点に立ち、先生からのスタートの合図を待っていた。ところが、ズルズルっとスキー板が滑っていく。歯を食いしばりながら、前に滑っていこうとするスキー板を何とか止めようと、私は全力でストックをついて自分の体を支えていた。ところが、腰が引けると更にスキー板は滑っていく。エッジを立てるという意味が分かっていなかった私は、持ちこたえられなくなって尻餅をついた。
そのまま起きようとするが、どんどん滑って起き上がれない。板が谷側に向いたままだからだ。順番待ちをしていた同級生が、「体をこっち側にした方がいいよ」と教えてくれる。
体勢を立て直して起き上がる。ところが起き上がった向きが悪かった。
もう一度スタート地点に立つためには180度向きを変えないといけない。習ったばかりの「キックターン」で方向転換を試みる。片足のスキー板を持ち上げると、テールの部分が雪にささった。焦って抜こうとしてまた転ぶ。
「なんてどんくさいんだろう、私」
順番を待っている同級生たちを待たせているのも気が引けたし、同級生たちの前でかっこ悪い姿を見せていることも嫌だった。自分の思うように動けないのが悔しかった。
「もう嫌だ。なんでこんな所に来ちゃったんだろう」
そう思って立ち上がる。滑りおりてしまった分、斜面を上らなければならない。横歩きで斜面を上り、もう一度スタート地点に立った。
するとまた、さっきと同じように板が滑っていこうとする。バランスを崩して転びそうになった時、斜面の下から先生が叫んできたのだ。
「甘えるなー!」
「甘えてなんかいないもん」
心の中でそう思った。転んでも誰かに起こしてもらったわけじゃない。甘えてなんかいない。それなのに「甘えるな」ってどういうことなんだ? 私は悔しかった。
「今度は絶対転ぶもんか」
私はストックに力を込めて体を支え、内股に少し力を入れた。何とか滑り落ちるのをこらえ、先生の「スタート」の合図とともに、緩い斜面を滑り降りた。
何とか転ばずに滑り終えると、下で待っていた先生は
「よくこらえたな」
と声をかけてくれた。嬉しいような、ホッとしたような気持ちがした。
合宿の最終日には、私は緩い斜面なら何とか滑れるようになった。滑れると楽しい気持ちは感じたけれど、私にとって自分のスキーデビューはほろ苦い思い出になった。そして、先生の「甘えるな」の一言は、チクっとささったトゲのように、心にずっと残っていた。
それから何度か苦しい場面がくると、なぜかスキー合宿で先生から言われた「甘えるな」の言葉がよみがえってくるようになった。例えばテスト前、「もうこんな問題解けないや」と投げ出したくなった時、大学生になって二輪免許を取るために教習所で400ccの倒れたバイクを起こす練習で、なかなか起こせなかった時、仕事で訳の分からない課題に取り組まなければならなくなった時……。
自分の思うようにできなくて、「どうせ自分は無理なんだ」と諦めそうになると、必ずよみがえってくるのだ。「甘えるな」という声とともに、あの時滑り落ちそうになるのを歯を食いしばって何とかこらえていた自分の姿が。すると、あの時できたんだから、今度もできると勇気が湧いてくる。もうちょっと踏ん張ってみよう、あともう少しだけこらえてみよう、そうしている内に、何とか目の前の苦しい場面を乗り越えていた。
スキー合宿のあの時、自分は甘えていたとは思っていなかった。「もうやめたい」と弱音を吐いたわけでもないし、誰かに助けてもらったわけでもない。だけど、心のどこかで「だって私は運動神経がないから仕方がない」とか「どうせ私にはできないよ」と思っていた。ひょっとしたら、それを先生は「甘えている」と表現したのかもしれない。自分に甘えるな、全力を出してみろという意味だったのかもしれない。大人になってから、「もういいか」と諦めそうになる時に先生の言葉がよみがえってくるのも、自分がまだ全力を出し切っていないということを、心のどこかで分かっているからだろう。そして、そこを乗り越えたら欲しい結果を手にできることも私は知っている。
だから私は、あの時の先生の言葉に感謝している。最初から上手くできることなんてない。センスの違いはあるかもしれないけれど、練習すれば、続けていけば必ず上手くできるようになる。欲しい結果を手にできるかどうかの本当の分かれ目は、「私なんて」とできない理由を並べて諦めるかそうでないかの違いなのだ。
***
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