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記事:牧 奈穂 (ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
私は、25年結婚していた。
夫はしっかりしていて、体力のない私にかわり、こまめに家事もしてくれた。私にはない考え方をし、育児にも協力的で、私を自由にもしてくれた。
 
条件から見たら、何も問題はない。だが、私が望んだ結婚生活とは、少し違っていた。心が繋がるような、心が満たされるような、「温かさ」が欲しかったからだ。論理的で、正しいことを言い、いつも冷静な、ロボットのような夫に、少し寂しさを感じていた。口喧嘩して、私が泣いていても、夫はそのまま私を一人で泣かせておくような人だった。何も言わず、ただ抱きしめてくれたら、それだけで満足だったのに、理屈で反論してくる。心がいつも繋がらないようで、少し寂しかった。
 
本当は、結婚して1年くらいで分かったはずなのに、私には、失敗を認める強さがなかった。だから、「どこの家だって、完璧じゃないから……」と自分自身に言い訳をしては、ずっと我慢をしてきた。男女の考えの違いもあるはずだ。離婚をするより、我慢をするほうが、私にははるかに楽だ。離婚した知人からも、「我慢したほうがいいよ。離婚するのは、想像以上に大変よ」と言われていた。何より、「失敗した人」と見られたくなかったのかもしれない。
 
我慢の波動は、我慢を呼ぶ。次第に、夫が私に嘘をつくようになった。夫を信じていたが、ある日、とんでもないことが起きた。女性問題だ。私たちは、結婚して12年後に息子を授かったが、息子が1歳になった頃、夫が浮気していることが分かった。天と地がひっくり返るような衝撃だった。怒りと悲しみが次々にやってきては、自分自身を責めたり、夫を責めたり、苦しくてたまらなかった。次第に、私は眠れなくなり、心のバランスを保てなくなった。
 
うちの前に公園がある。苦しくて眠れない日は、公園のブランコに座って、いつも月を眺めていた。「これから、どう生きていったらいいのだろう」そう自分に問いかけた。身体が弱い私は、1歳の息子を抱えながら、一人で働く自信もない。
 
なぜ、ロボットのような夫が、間違ったことをしてしまったのだろう。私に魅力がないからだろうか。もし、あの時、夫が取り乱し、「悪かった。許して……」と、私に詫びたら、私は許せたかもしれない。夫は、自分がしたことなのに、まるで他人がしたことのように、冷静なままだった。もし、私に、「ごめん……」そう言ってくれたら、私の心は救われたかもしれない。
 
私は、息子のために、「普通の家庭のお母さん」を演じ続ける決意をした。その道は、葛藤ばかりで、何度となく夫の浮気もやってきたけれど、それでも、私はずっと息子のために、我慢をしてきた。我慢をすることが、息子への愛情だと思っていたからだ。
 
だが、それは、間違っていたのかもしれない。
ある日、私は、ある男性に出会った。私が求めていた、心が繋がるような人だった。一緒にいるだけで、心が満たされる。鎧のようなものをまとって、心が傷つかないようにと、構えずにいられる。彼と歩む道を選びたかったが、息子のために家庭を壊したくない。その勇気は私にはなかった。そして、彼は、私といることではなく、家庭を持ってくれる人を選んだ。私には、彼を止める権利もない。好きでたまらず、行かないでと引き留めたいのに、私は、我慢するしかなかった。私の一部がなくなってしまったような、大きな喪失感だった。父が亡くなった時よりも、泣いた。人は、こんなにも涙が出ることを、初めて知った。「もう我慢をするのはやめよう」そう私は決意した。
 
夫には、全てを正直に話した。何があっても、私は離婚を切り出さないと思っていた夫は、驚いて、なかなか同意してくれなかったが、それでも私は、自分の心に正直に生きる道を選んだ。
 
シングルマザーになってからは、見える世界が全く違う。20年以上自分に嘘をついてきたから、世界が明るいのだ。私は、自分に正直に生きられる今のほうが、幸せだ。
 
人は、私を見て、「失敗した人」「かわいそうな人」と思うかもしれない。確かに、一人だと大変なこともある。でも、自分自身に嘘をつかない、自分の心に正直に生きる今が一番幸せだと、25年の結婚生活を振り返って思う。
 
離婚を決意し、自分に正直に生きるようになったら、人に頼れるようになった。素直になったし、心が開ける。変に肩に力が入らなくなり、自然体でいられる。周りの気遣いが、ありがたくも感じる。
 
息子と一緒に過ごす間に、「やり直すこと」「失敗を認めること」を、自らが行動し、息子に見せることができて、よかったと思う。人は、いつからでもやり直せるのだ。我慢だけが解決ではない。我慢して誰かのために生きるのではなく、自分自身のために生きることが大切なのだ。それが、きっと周りを幸せにすることにも繋がると私は信じている。
 
だから息子のために、そして、私自身のために、いつも正直に生きていきたい。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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