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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山口ななかまど(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
『おナスにのって』(岩田ユキ)というマンガ作品を最近読んだ。賽の河原を舞台にした読み切りだが、これがもう、どうしても込み上げるものを抑えることができず、わあわあと声をあげて泣きながら読了した。近年こんなにも泣いたことがあっただろうか。
以降、盛大なネタバレと共に記事をお届けするため、未読の方は、どうかどうか「webアクション」にて、先に本作をお読みいただきたいと思う。
 
というわけで、これほどまでに感情移入してしまった『おナスにのって』だが、その理由は、やはり私自身が堕胎を考えたことがあったからだと思う。本作の主人公は、母の堕胎によりこの世に生を受けられず、賽の河原で石を積む子どもなのだ。
 
私は自分の妊娠が分かった時、まったく喜ぶことができなかった。ただただ不安と恐怖で、妊娠検査薬の結果を眺めながら泣き崩れた。
34歳。もう十分すぎるほど大人で、そのうえ結婚5年目だった。私は職業が安定せず、経済的に安心して生活できるイメージを持てずにいた。
 
子どもは欲しかったが、どうしたら安心して子どもを育てることができるのか、まったく想像がつかなかった。今よりも収入を増やすことができなければ、既に自分で返しきれないほどの借金を抱えていた。夫は自営業で忙しく、一緒に食事をとることがほとんど無くなっていた。もし安心して暮らせるのであれば子どもは欲しかったけれど、当時の生活には安心できる要素が一つもないと、毎日感じていた。
 
少子化、そして国の借金。厳しい時代だというのに、さらにこんなに不安定な家庭に生まれた子どもは間違いなく不幸になる。それだけは避けなくてはならない。そう信じて疑わなかった私は、夫に妊娠を告げることなく、日帰り入院で堕胎できる病院へ迷わず向かった。
 
「大きな子宮筋腫があります。当院でも堕胎手術はできますが、入院が必要です」
 
医師の言葉を聞いて、さらにショックを受けた。夫に妊娠がばれることなく「なかったことにしたい」と考えていたのに入院しなくてはいけないなんて。
 
その晩、深夜に帰宅した夫をなんとか捕まえ、「妊娠したみたい。でも、お金が無くて、本当に育てていけるのか全然分からない。不安で仕方がない」と打ち明けた。
どうして悲しい気持ちでこんな話をしているのだろう。普通なら、喜びでいっぱいになりながら、未来への期待を膨らませながら、こんな報告をするのではないだろうか。「普通」なら。どうして私は「普通」じゃないんだろう。そう考えたら涙が溢れ出て止まらなくなってしまった。
 
夫は力強く「お金は絶対になんとかするから産んでよ」と言った。
「貯金は? 私は無いよ。むしろ働けなくなるのに返してないカードローンがある……」
「大丈夫、500万円あるから」
500万円。突如夫からリアルな数字を持ち出されてたことに驚きつつ、私は泣きながら「そっかぁ、500万円あれば安心して生活できるのかな……もしここで赤ちゃんを諦めたら、年齢も年齢だし、もう二度と出産できないかもしれないなぁ。それも悲しいなぁ……」と考えを改めるに至り、そして出産を決意したのだった。
 
ちなみに我が家は夫婦間で何の金融資産も共有せず、この時に通帳の確認さえ行わなかったのだが、のちのち夫は貯金どころかほぼ同額の借金を負っていたことが判明する。夫はギャンブルによる借金をギャンブルで取り返そうとする、まさしくギャンブル依存症の状態であったのだが、結果的にはそれが明るみになったことで、しかるべき相談機関や自助グループに繋がることができ、筆者一家はどうにか経済状況を立て直すことができたのであった。
 
かくして子どもは無事この世に誕生し、あっという間に5歳半になった。早いものだ。愛しくて仕方がない。毎日元気で過ごしてくれることが嬉しい。
 
最近でも、いくつもの「もしも」が頭をよぎることがある。
あの時、もし大きな子宮筋腫がなかったら。
あの時、もしこっそりと堕胎することができていたら。
あの時、夫が堕胎に賛成だったら。
あの時、夫がギャンブル依存症であると分からないままでいたら。
私は今、あの時欲しかったものと引き換えに、今手にしているかけがえのない時間を失っていたのだろうか。
 
最近の子どもは、夫とスマホ版のドラクエ3で遊んでいるようだ。子どもは「ベホマ!」「ザオリク!」とニコニコしている。かなりレベルアップしたようだ。
ある日、子どもがじっっ…‥と私を見つめていたので「どうしたの?」と尋ねてみた。子どもが答える。
「まさくんが、仲間になりたそうにこちらをみている!」
 
出産前には「子どもって何なんだろうか」とよく考えていた。両親の血を分けてはいるが、別の人間だ。
しかし、この子どものセリフを聞いた時、ふっと肚落ちしたのだった。私たちはたまたま同じ時間を共有し、旅をすることになった「仲間」なんだな、と。
 
私は出産前には想像もできなかったような心からの笑顔で、子どもを抱き締めながら伝えることができたのだった。
「仲間になってくれてありがとう!」
 
 
 
 
***
 
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2022-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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