メディアグランプリ

一歩踏み出す勇気


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:秋野ゆみこ(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
新年が始まりました。
あちらこちらから「今年の目標」という言葉が聞こえて来ます。
さて、今後の私はどうしようか。
もうすぐ60歳になる私にとっては、どう生きるかというより自分の人生をどんな形で終わらせていくのか。人生の終い方を考えなければなりません。
 
家で色々考えすぎて煮詰まった時は、ふらふらと散歩に出掛けます。
あれやこれやと思索を巡らせながら冬枯れの町を歩いていると、人々の日常が思わぬ形で目に飛び込んできてとても面白いものです。公園で自転車の練習をする親子や、校庭で野球をしている高校生など、特にどうという事もない光景ですがその溢れ出る活力に眩しさすら感じます。
 
手芸屋さんの前を通った時、古い記憶が思い起こされました。
昨年亡くなった母の記憶です。
 
ある日、母はリビングの椅子に座って1枚のチラシを眺めていました。
「編み物を習いたいのよ」
それは手芸屋さんで開かれている編み物教室のチラシでした。
「習いたいなら行ってくれば良いじゃない」
時間もお金も問題ないはずです。ところが母は、
「そうなんだけどね」
と、言っただけでした。その後も何度かチラシを眺めている姿を見かけましたが、結局習いには行きませんでした。
 
「●●さんと●●さんがランチに行ってすごく美味しかったんだって」
「●●さん、北海道に旅行に行って来たんだって」
母はよくそんな話をしていました。
「それならお母さんも一緒に行って来れば良いじゃない」
私がそう言うと母の返事はいつも決まって、
「私はいいよ」
でした。
よその人と出かけるのは躊躇しても、娘である私となら出かけられるだろうと思って誘ってみても良い返事はなかなか返ってきませんでした。「私はいいよ」が母の口癖でした。
母はいつも家にいました。同じように家事をやり、決まった時間にテレビを見るという生活を何十年も繰り返してそのまま亡くなりました。その生活の外に出る事はありませんでした。
「お母さんはいつが一番幸せだった?」
と聞いた事があります。
「子供達が小さかった時」
その気持ちにはとても感謝しています。ただ、子供である私達はあっという間に大きくなりました。
「いつも家にばかりいてつまらなくないの?」
と聞いた事もあります。
「お母さんはね、それが幸せなの」
幸せか不幸せかを考えれば間違いなく幸せな人生でした。
 
でも、母は自分の人生に満足していたのだろうか? 私にはこれが大きな疑問なのです。
 
本当は母もお洒落をして友達とランチをしたり、旅行に行ったりしたかったのではないだろうか。私はそう思っています。
けれど、母はじっとチラシを眺めているだけでした。何も行動できない自分を歯痒く思っていた部分もあったのではいか。そんな気がするのです。
 
そんな事を思い出しながら30分も散歩をしていると、だんだんくだびれて来てどこかにカフェでもあれば良いのになどと思ってしまいます。でも、古い下町ですのでそんなものがあるはずもないのです。
 
ところが、先日あるはずのないお洒落なカフェがオープンしているのを見つけました。「古民家カフェ」と書いてあります。築40年くらいの古い一軒家を改築してカフェにしたようです。嬉しくなってさっそく入ってみました。
 
おんぼろな外観とは違って中はとてもお洒落な雰囲気でした。テーブルは6つほどで、お互いを邪魔しない程度に空間もあり、とても居心地の良い場所になっています。天井の梁や柱の傷はそのままにしてあって、それが良い味を出しています。店主の人柄が感じられるようなとても素敵なカフェでした。私と同年代くらいのママさんが一人で切り盛りしているようでした。
私はチーズケーキと紅茶を頼みました。とても綺麗な食器に盛られたケーキは素朴な味わいで、また食べに来ようを思いました。
「どうしてカフェをやろうと思ったんですか?」
私はママさんに質問しました。すると彼女は嬉しそうにこう答えました。
「若い頃からの夢だったんです」
「でも、今からって……」
言ってから、しまったと思いました。
「人生100年時代じゃないですか。まだまだこれからですよ」
一点の曇りもない明るい笑顔でした。カフェ巡りが大好きで、ずっと自分の店を持ちたいと思っていて、そのために色々勉強していたのだそうです。子育てが終わってやっと好きな事が出来るとも言っていました。
 
私の母に足りなかったもの。それは1歩踏み出す勇気ではないかと思うのです。毎日同じ事ばかり繰り返していて、それを崩すのが怖くなってしまったのかもしれません。
そして、私も人生の終い方なんて考えている場合ではありません。私もまだまだ夢を追いかけても良いようです。今年の目標は何にしようか。それが決まったら思い切って1歩踏み出してみようと思います。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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