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新年早々のやらかし


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記事:蒲生 厚子(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
ゴ~ン、ゴ~ン
除夜の鐘とともに2021年の幕が下り、2022年が訪れようとしている。
お正月は実家の北九州や、夫の実家の東京に帰省していたが、コロナ禍ということで、ここ2年間はご無沙汰している。
 
今年、私の親は98歳に、東京の両親は、98歳と96歳になる。
なんとびっくり100歳に手が届こうとしているが、ありがたいことに施設ではなく実家で暮らすことができている。
しかし、さすがに耳は遠くなり、普段電話で話すことはない。というのも、聞こえないのに電話で話すことが、結構ストレスになるからだ。
話しているこちらも、知らずしらずのうちに大声を張り上げて、それはそれでストレスを感じてしまう。怒っているような変な気持ちになってしまう。
 
年明けと同時に電話をして「明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」とご挨拶をしていた頃が懐かしい。
 
今年は私の実家にはLINEにした。そうすれば、文字で見ることができるので、お互いに都合が良いときに文字やスタンプで交わすことが出来る。
 
夫の実家からは、同居の義姉から「1日の夕方6時頃に電話ください」とメールが入ってきた。100歳もちかくなれば、寝ていることも多く、時間帯をあわせる必要がでてくる。
 
1日の夕方6時30分頃に
「おお、東京に電話するんだった。忘れるところだった」
と慌てて、電話番号を押した。
 
 
「もしもし、あつこです。あけましておめでとうございます」
「あ~、あけましておめでとうございます」
耳慣れた、ちょっと語尾を飲み込むような特徴のある義母の声が帰ってきた。
「今年もよろしくお願いします」
決まり文句のご挨拶をする。
「今年もよろしくお願いします」
予想通りの言葉が返ってくる。
 
いや、しかし、予想通りではない。
とてもスムーズに返事が返ってくる。
「え~っ」とか「はぁ~っ」とか、耳が遠い人特有の聞き返しがない。
 
お正月の提携挨拶だからか?
いや、しゃべり方の癖は似ている、声が少しちがうような……。
「お正月はどうされていましたか?」とりあえず聞いてみる。
「うちでおせちを食べてのんびりしていたよ」
 
おっと、おかしい。
ちゃんとスムーズに会話が続いているということは、人違いか?
わたしが電話番号を間違えたか?
電話の向こうは年の頃は85歳くらいの声に感じる。
でも、私、最初に自分の名前を名乗ったよね。
頭でいろいろ考えるあいだも、先方は会話を続けようとしているのがわかる。
 
「コロナだから、どこにも出られないし、寒いですもんね。東京も寒いでしょう?」
無難な言葉を並べてみる。
先方は間違い電話とはみじんも思っていない様子。
「毎日寒いよ」
少し若い声と滑舌はまぎれもなく別人だ。
疑いが確信に変わってくるが。会話は続いていく。
 
「みんな集まったの?」と聞かれ、
ちょうど娘家族が来ていたのもあって
「はい。今日娘たちが来ました」
娘の名前をいうと間違いに気づくから、あえて娘と言ってみる。
 
「それはよかった。今てっちゃんは出かけているから」
突然、固有名詞がでてきた。ドキっとした。
てっちゃんって、うちの息子と同じ名前!
うちの息子も今出かけているけど、違うてっちゃんだ。
もし義母なら「てっちゃんはどうしている?」と聞くはずだ。
 
一瞬、てっちゃんという言葉に惑わされたが、いやいや、これは間違い電話なのだ。
 
でも、お正月のことだし、先方は「電話をくれてありがとう」と感謝してくれている。
 
いまさら、「間違い電話でした。すみません」とは言えない。
どなたからの電話と勘違いしているかわからないが、電話があって嬉しい。ありがとうという気持ちのまま新年を迎えた方がよいに決まっている。
 
必死すぎて、何をはなしたかも覚えていないが、数分話して、
「今年もよろしくお願いいたします」
「はい、今年もよろしくお願いします」
 
という言葉が出てきたので
「ではしつれいしま~す」
といって、ドキドキしながら次のことばがでてこないにうちに慌てて電話を切った。
 
ホッとしたと同時に、新年そうそうやっちまったと思うと、笑えてしかたがなかった。
 
電話を聞いていた娘が怪訝そうな顔をするので、わけを話すと
「は~ん、そんなことだろうと思った」と鼻で笑われた。
「その人の親戚から電話があったときに、あれ? 電話もらったよね、ってなるね」
確かに。そのときは「あれれ? あの電話は誰だったの?」となるだろう。
その話題で盛り上げることができたら、それはそれでよいか!
 
 
そのあとに、夫の実家に電話した。
義母にかわる前に、義姉に間違い電話のことを話すと
「あら~。その電話番号ならうちのご近所さんね。この辺もお年寄りばかりになってきたから、どこかのうちにかかったのね」
と落ち着いた対応だった。少しは笑ってほしかったな。
 
実家の姉にも間違い電話の話をすると
「それは、相手にとってはよいお年玉になったかも。良い新年になったね」
との反応だった
なるほど。そういう考え方もある。きっと先方さんはまだ新年のご挨拶を交わしていなくて、はじめての電話で嬉しい気持ちになったかもしれない。だれでも、電話をいただくと嬉しいものだ。
 
同じ間違い電話のエピソードでも、人によって反応が違うのが面白い。
私だったら「めっちゃ笑えるね! うん、あるあるだ」とかいって、大笑いするだろう。
反応のしかたで個性がでるのは、新発見だった。とらえかたはいろいろなんだな。
 
新年早々のやらかしは、2022年のスタートにふさわしく面白い風を吹き込んでくれた。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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