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青い時代のアイテム


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記事:山本三景(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
 
高村光太郎の『道程』の詩の中の一節である。
先日、この詩が好きだという女性に会い、久しぶりにこの詩を思い出した。
有名な詩であるため、教科書や参考書で見た記憶がある人も多いのではないだろうか。
誰も踏み入れたことのない道なき道を進み、自らが道を作っていくことへの苦労や孤独を想像させるこのフレーズは、まだ10代の、青い時代の自分にとってはやたらと格好よく感じた。
 
『孤独』を感じさせるものは、青い時代には惹かれるアイテムの一つなのである。
太宰治はその代表だと私は思う。もちろん私だけでなく、誰もが思うかもしれないが。
文学論を語れるほど、どっぷりとはまったわけではないが、やはり10代の頃、当たり前のように太宰治に軽くはまった。
太宰治の代表作の一つである『人間失格』の「恥の多い人生を送って来ました」の一文の暗さに惹かれたが、私が最初にはまった太宰治の作品は『人間失格』ではなかった。
友人に「人間のいやらしさや汚らしさがすごく出てるから是非読んでみて!」とかなりの熱量で『人間失格』を薦められたので、本屋で太宰治の本をパラパラとめくっていたら、太宰治が川端康成を批判している文章に目がとまった。
文豪であり、いい大人なのに人の悪口をわざわざ文章にして本にするのか、しかも重鎮である川端康成に対してそんなことを書くなんて……と、太宰治のひねくれかたに興味がわき、そのまま本を手に取り、レジに持っていった。
確か、『もの思う葦』だったと思う。
しばらく読んでいないが、もう一度内容を確かめてみたい。
そんなエッセイから太宰作品に入り、『晩年』を買い、あと数冊ぐらい読んでから『人間失格』を読んだ。素直に薦められた『人間失格』を読まない私も結構ひねくれていたと思う。
 
太宰治と並び、私にとっては寺山修司も青い時代のアイテムの一つだった。
 
花に嵐のたとえもあるさ
さよならだけが人生だ
 
この詩は井伏鱒二の詩の一節であるが、私はこの詩を寺山修司から習った。実際は習ったわけではなく、寺山修司の『ポケットに名言を』で紹介されていて、知ったわけなのだが……。自分から何かに別れを告げるとき、この詩を思う。
何かにキリをつけることは大人になった今では躊躇する。しかし、自ら選択して、今までしがみついていたものにさよならするときは、清々しいのだ。
昔、友人が海外へ留学するときに、この詩をメールでくれたのをおぼえている。太宰治を薦めてくれた友人とは違う友人だ。
詩の話なんて一度もしたことがなかったのに、友人が好きな詩が自分が好きな詩と同じであったことに驚き、嬉しかった。
 
雨にも負けず
風にも負けず
 
宮沢賢治の『雨ニモ負ケズ』の詩の一節である。
これも誰もが共通して「きいたことがある!」と思う一節ではないだろうか。
青い時代に出会ったわけではないが、私が初めてこの詩に出会ったのは、小学生の頃だった。
幼なじみのお母さんが小学校の先生で、幼なじみと一緒にこの詩をノートに書かされた記憶がある。(おそらく嫌々書いたと思われる)
まだ子どもだった私はこの詩の良さが理解できず、むしろ嫌いだった。
詩の中の人物は、東に病気の子どもがいると行って看病し、南に死にそうな人がいると行ってこわがらなくてもいいと言う。
とにかく東西南北で善い行いをするのだ。子どもながらに(いやいや、人が良すぎやしないか? そんな人いないよ)と思ったのを憶えている。
特に最後が信じられなかった。
 
みんなにでくのぼーと呼ばれ
褒められもせず
苦にもされず
そういうものに
わたしは
なりたい
 
褒められない!? あんなに東西南北走り回ったのに? それであんなひどい呼ばれ方をされて平気なの? と。
「この詩の中の人物、良い人すぎて私、嫌い」と、純粋さがなかった子どもの頃の私は、そう思いながらこの詩をノートに書き写した。
テストで良い点数を取ったら褒められたいし、嫌なことは言われたくない。
もし嫌なことを言われたら言い返してやりたい。
もしかして、子どもの頃の私は承認欲求の塊のような子どもだったのではないかと思う。
しかし、大人になった今では、私はこの詩の人物に憧れる。
生きづらい現代を生き抜くために必要なスルースキルが完全に備わっている。
褒められるために何かをするのではない。見返りを求めず、ただ、自分がしたいことをしているだけで他の人は関係ないのだ。
大人になった私は「そういうものにわたしはなりたい」と心から思う。
子どもの頃の私よ、大人になった私は決して優しくはないが、目の前に困っている人がいれば、声をかけることができる大人にはなったよ。(道案内ぐらいなら……)
他の誰かが言う言葉にいちいち一喜一憂することもあるけれど、毎日それなりに生きている。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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