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祖父が語りかけているもの


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:牧 奈穂 (ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
息子が10歳の頃、「おじいちゃん」が旅立った。
長く近くで過ごしたから、思い出がたくさんある。
 
私にとっては、義父である「おじいちゃん」は、警察官だった。三人兄弟の末っ子で、リーダーシップがない。だから、義母が倒れて、延命をするかどうかを決める際に、息子である私の元夫に、「お前が決めていいから」と、丸投げするような人だった。
 
警察官としては、取り調べが得意だったと聞いた。罪を犯したかもしれない人に、テレビドラマのように、カツ丼を出し、「お母さんが泣くぞ」と訴えることはなかったが、人情があり話がとても上手く、重宝されたと聞いたことがある。
 
だが、息子である、私の元夫の女性問題が発覚した時は、傷つき泣き崩れる私に向かって、「まぁ、ひとつなかったことに……」と、私をさらに奈落の底に突き落とすような、とんでもない発言をする人でもあった。
 
そして、唯一の孫である息子を、本当にかわいがってくれた。家庭菜園が得意なおじいちゃんは、あまり日が当たらないところでも、上手に野菜を育てることができた。トマト、きゅうり、なす、ピーマン、さらには、スイカもあっただろうか。幼い息子に、採れたてのトマトを食べさせてくれた。新鮮で、とても甘い、あの味は、スーパーの野菜では味わえないものだ。息子は今でも、あのトマトの味を忘れられない、と話す。
 
息子が大きくなるにつれ、おじいちゃんは、少しずつ弱くなって行った。休日に、おじいちゃんと外食をすることは、日課のようになっていた。だが、息子は、段々、面倒に思うようになった。家族との食事より、ゲームをしていたいからだ。
 
ある日、いつものように、面倒だと思いながら回転寿司を食べに行った。おじいちゃんは、きれいな水色のズボンを履いていたが、皿を持つ手がうまく使えず、醤油の入った皿を斜めにしてしまう。何度注意しても、斜めになってしまい、とうとうズボンにこぼしてしまった。ズボンを汚すおじいちゃんを、少し冷めた目で息子は見つめていた。そして、帰り際には、いつものように、「ごちそうさま」とおじいちゃんにお礼を言った。ルーティンをこなすような、心のこもらない、ただの挨拶だ。
 
そして、それが最後の食事となった。次の日、おじいちゃんは、自宅で倒れた。嫌な予感がし、見に行った時は、脳梗塞で倒れた後だった。息子は、あの食事が最後だったのなら、おじいちゃんともう話せなくなるのなら、もっと心から感謝を伝えればよかった……そう思い、深く後悔した。5年経った今でも、息子は決して忘れてはいない。話せなくなってからでは、もう遅いのだ。おじいちゃんは、息子に「今、この瞬間に向き合うことの大切さ」を教えてくれた。
 
そして、最近、おじいちゃんを実感する出来事があった。
息子が2〜3歳の頃、棒つきのアメを嬉しそうになめていたことがある。少し離れた場所で、私も見ていた。すると息子は、隣りに座っていたおじいちゃんにも、あげたくなったのだろう。そのアメを、おじいちゃんの口の中に、パッと入れた。おじいちゃんは、笑顔でなめていた。
 
嫌な予感がして、私がそのアメを取り上げようとした瞬間、「パクッ」と、息子は自分の口の中にアメを戻してしまった。私は、慌てて取り上げたが、もう遅かった。おじいちゃんが、アメをなぜ取り上げなかったのか、と腹が立った。
 
おじいちゃんは若い頃、胃潰瘍で倒れ、手術した経験がある。昔の人だから、ピロリ菌なんて話題にならない頃の人だ。だから、私は、「おじいちゃん、ピロリ菌いませんよね?」と怒って聞いた。その後、何度となく息子に腹痛が起き、気にはなったが、中学校での検査を待つよう医師に言われた。
 
そして、つい最近、ピロリ菌の検査を行った。結果は、なんと「陽性」だった。陽性と聞いて、久しぶりにおじいちゃんに怒りがわいた。二次検査のために、息子を病院に連れて行くと、「幼少期は、胃酸が少ないから、菌が入っても胃の中で殺せない」ということが分かった。10代でピロリ菌がいる子は、10%もいないと言う。やはり、あのアメのせいだ。
 
「おじいちゃん、死んでも存在感ありすぎ」と息子と話をした。「あ〜あの世から呼び戻して、文句を言いたいよ」と私が言う。
 
すると、息子は、「これぞ、負の遺産! 胃酸がないから、遺産をもらっちゃったね。遺産放棄したいよ……」と話すので、笑ってしまった。
 
もう祖父はいないのに、息子の中で、祖父からのピロリ菌は生きている。祖父の話題は、最後には必ず笑い話になるのは、なぜだろう?
 
きっと、それが、私たちが祖父を見てきた眼差しなのかもしれない。「祖父への思い」とも言えるだろうか。祖父が与えてくれたものは、私たちの心の中に残っている。
 
同じ時間を過ごし、同じ景色を見たことは、人の心の中で、ずっと生き続ける。同じ空間に生きたことは、決して消えることはない。今も心の中で生き続ける、おじいちゃんとの思い出は、そんなことを私たちに教えてくれている。
 
祖父があの世に行った今、負の遺産であるピロリ菌以上に、「祖父との時間」は、心の中でずっと生き続けていくことだろう。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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