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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山口ななかまど(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
ほんの1年足らずではあるが、風俗業界で働いたことがある。勤め先は「メンズエステ」などと呼ばれる「本番NG」のお店だったが、つまりいわゆるデリヘル嬢だった。店名には「人妻」が冠されており、その名の通り30歳を超えた女性が集まる熟女専門店が、一方では「業界の不文律だから」ということで、誰もが少しずつ年齢のサバを読んでいた。私もプロフィール上は5歳ほど若返ることとなった。
 
働き始めた理由の半分は経済的な困窮だったが、もう半分は好奇心だった。
また、少しだけ……本当に少しだけではあるけれども、出張して個室で行うサービスだったので、「運が悪かったらおかしな客に刺殺されるかもしれないが、もしそうなったら楽に人生を終えられるのかもしれない」とも考えていた。もう他に人生を好転させる方法を思いつかなかった。乳児をかかえており、当時、十分な生活費の支払い能力が無くなっていた夫は「いってらっしゃい」と力なく見送ってくれていたのだった。
 
鶯谷の事務所の面接では、両腕が入れ墨だらけの男性たちから、何度も「なんでやることにしたのー?」「家の事情? 大変だねぇ」と尋ねられたりねぎらわれたりした。彼らは女性が商品であることをよく心得ており、みんな紳士的な対応だった。
 
その足で、あるラブホテルへ出かけて宣材写真を撮影した。ギラギラとした内装のホテルで、周辺の相場的に少し良いホテルであることを後から知った。きれいなホテルで妖艶な衣装で撮影しているというのに、私はさっぱり芋臭く、どんなに写真を加工してもらってもプロの女性に近付ける様子がまったくなかった。
「他の人に化粧、教えてもらおっか」
撮影してくれた入れ墨のいかつい男性に優しく諭されるような状態だった。
 
続いて、看板娘(といっても熟女なのだけれども)のアンニュイな雰囲気の女性から手ほどきを受けた。お客様の男性といざ二人きりになった時に、どのように立ち居振舞うか。まずはどのような動きを取るのか。
始めは太ももからガチのマッサージ。だんだん、ローションの量を増やし「いかにも!」なムーブへ。
「とにかく自分からセクシーな雰囲気を作ること。そして壊さないこと」
何かを達観したようにつぶやくその女性は、とても優しい人だった。
 
ある女優さんから着想を得て、私の源氏名は「中谷」となった。名字だけ。異様に男前な気持ちになり、「中谷」としての活動が始まった。
 
初めてのお客様は、企業経営者だった。コーヒースタンドでドリンクと、二人では食べきれないほどのスイーツを手に、その男性はやって来て、「とにかく食べながら、僕の話を聞いてほしいんだ」と早口でまくし立てた。仕事の話、家族の話……。とても興味深く、なんども相槌を打ちながら聞いていた。楽しい、けど、時間はどんどん過ぎてゆく。既に約束の120分間の2/3が過ぎようとしていた。
 
……どうやってセクシーな雰囲気を作ればいいの……? 私は混乱した。
その矢先、突然に「いい?」と聞かれ、お客様はあっという間に欲情し、そして軽く手を貸しただけであっという間に果てた。一体今までの流れのどこにセクシャルなスイッチが入る部分があったのか分からず、私は混乱した。ともあれ、お客様はすべての目的を達成されたようで、「一緒にバスタブに浸かろうよー」と言い、そして「僕、かなり恥ずかしがり屋だから、先に上がって帰ってくれるかな。これ、僕の流儀」と目を合わさずに言った。何が何だか分からなかったが、ともかく私は身支度を行い、前金で預かっていた3万円を手に事務所へ戻っていったのだった。
 
一体、今のはなんだったんだろう。と思って帰社したが、事務所のいかついスタッフ陣は「デビューお疲れ様~。いやー、評判よかったよ! あの娘いいねって、電話かかってきたよ!」と盛り上がっていた。何が何だか把握しかねていたが、ともあれ「合格」できたようだ、とほっと一息ついていた。よかった。ここでやっていけそうだ。
 
お店にはいろんなお客様がいて、いろんなニーズがあった。ほとんどのお客様が優しく、紳士的で、それぞれに異なる性癖を持っていた。
 
とにかく一緒にお酒を飲みたいお客様。
向かい合ってきちんとしたお食事から入るお客様。
年輩のお客様。
甘えたいお客様。
出張で上京するたびにリピートしてくれた若いお客様。
 
一人一人と向き合うことは楽しく、興味が尽きることがなかった。
 
夜のタクシーに乗り、深夜ラジオを聞く度に、このお店で働いたちょっと不思議な期間のことを思い出す。後ろ暗いことのなく、風変わりな思い出として、私の心に刻まれた日々のことを。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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