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犯人捜しはもうやめだ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Miyuki(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「え? どういうこと?」
 
同僚は、私の返答を受けて聞いてきた。
 
1ヵ月ほど前、私はその同僚に文章講座を取ろうと思っていると話したのだ。
それで、その文章講座はどんな感じ? と聞いてきたのだ。
 
「う~ん、まだ1回しか授業受けてないから分からないけど、なんか、思ってたのと違う」
 
私の返事は不満と非難がこもっていた。そして続けた。
 
「私がやりたかったのは、翻訳の時の自然な日本語をどう書くか、ということ。
ご存知の通り、私の翻訳文って下手で、読みにくくて、『これ外国語からの翻訳です』ってのが、あからさまだよね。それで、いつも手直しお願いしちゃってるじゃない?」
 
その同僚は文章がとても上手で、私はいつも彼女に文章を直してもらっているのだ。
 
「だから『てにをは』の使い方とか、簡潔で自然に伝わる書き方テクニックを勉強したかったんだけど、その講座ってコンテンツの作り方を学んでいる感じなんだよね」
 
心の中でその不満は続く。まるで犯人の首根っこをつかんだように。
 
私、ライターになりたいわけじゃないし。
自分のことを人様に読んでもらおう、なんて大それたこと全く思ってないし。
仕事でたまにする翻訳がどうにも、しっくりこないから、句読点や「てにをは」の実践的な使い方を学びたかっただけなのに。
毎日、仕事でヘトヘトなのに、毎週テーマを見つけて、課題を提出しなければいけないし。
提出後のフィードバックは「リーダビリティ(読みやすさ)が弱いですね」って、
だから! 私はその自然な読みやすさは、どうやったら手に入るのか具体的な技術を学びたくて受講したのに、そこは自分で考えろ的なのはどういうことか!
 
……課題に四苦八苦している私は、イラっとしている自分に気が付いた。
 
同僚はそんな私のイラっと感には触れず、いいアドバイスをくれた。
 
「そっか、じゃあ、木村榮一先生の本『翻訳に遊ぶ』読んでみたら?
翻訳の時の苦労話や、先生が気づいたことが書いてあって、面白いよ。先生のファンになっちゃうよ」
 
さすが、文章のうまい彼女だ。たくさん本も読んで勉強しているんだな。
 
「へぇ、ありがとう! 読んでみる」
 
私はすぐにその本を通販サイトで購入して、2日後には手元に届いた。
 
木村榮一先生のことを知らない人も多いであろう。
 
木村先生は、神戸市外国語大学の教授、学長を経て、現在は名誉教授で、ノーベル文学賞作家のオクタビオ・パス、ガルシア=マルケス、バルガス=リョサをはじめ、数多くの作家の作品を日本語訳されている大先生だ。私は先生のお名前は前から知っていた。
 
さっそく、著書を読んでみると、私が知りたかったことが書かれている。
例えば、原文に出てくる「人称代名詞」や「指示語」つまり《私》、《彼》や、《これ》、《それ》を全部訳すと、それらがあまり出てこない日本語では、読みづらくなるので、省けるものは省いたり神経を使って訳す、とか、漢字2字の名詞を並べると翻訳文くさいので、動詞構文にすると分かりやすくなる、といったことだ。
 
「そうそう! そういうことを知りたかったのですよ、私は!」と嬉しくなった。
 
こういった翻訳の技術的な内容は本の後半以降に書かれているのだが、その頃にはすでに先生のファンになっているから、余計納得して読めるのだ。
 
というのも、本の構成として、冒頭は、先生と奥様とのちょっと笑ってしまう会話文から始まり、身構えずに本の中に入っていける。
 
その後、先生の子供時代の読書体験、若かりし頃の失敗談、家庭のことなども語られる。
読み進めるうちに、大先生も昔から大先生だったわけではないこと、苦労を重ねてこられたこと、偉ぶることのない謙虚な姿に引き込まれてゆく。そこを経ることで、翻訳をする上での技術的な内容も興味をもって読み進められるのだ。
 
そこで、私は〝はた〟と気がついた。
 
この本は、私の心、つまり読者の心をとらえた。なぜなら
 
「読み手に楽しんでいただくコンテンツ」として成立しているからだ。
 
それは、私が不満と非難を表明した、あの文章講座の初回の授業で学んだことじゃないか。自分のノートをきちんと見返してみれば、その内容が図入りで書いてある。
 
こんな大先生でさえ、謙虚な姿を一般庶民の読者に見せる姿勢をとっている、これは講座の中で学んだ「読み手」と「書き手」の立ち位置、上下関係を踏まえての書き方の良い例じゃないか。また受講ノートを見返すと、そのことが書いてある。
 
文章講座を受講していなければ、そういったことに全く気づかなかっただろう。
 
そうか! 私はちゃんと文章講座で、読みやすさや読者の心をとらえるワザを学んでいたじゃないか!
 
学んだだけでは出来るようにならない、だから毎週課題を提出するんじゃないか。
 
それなのに自分がまだそれを出来ないものだから、イライラして
「あの講座、思っていたのと違う」って不満げに言い放ったんだな、私。
 
人というものは、自分に都合が悪いことが起きると、往々にして外に犯人を見つけたがる生き物だ。
 
「思っていたのと違う」というのも、勝手な言いがかりだ。
もともとこの講座は「自然な翻訳文を書く講座」として宣伝されていたわけではないし、文章講座を探している時に「天狼院書店って何か面白そう」という理由で受講申し込みをしたのは自分だ。
 
未熟な私よ、またやってしまった……。
 
自分が課題を上手に書けないことを棚に上げて、やりたいことが違う、思っていたのと違う、と外に犯人を作りかけた。
 
あぁ、全くもう! 外に犯人なんていないんですよ。
今の状況が好ましくないからといって、人のせいにするものじゃないですよ。
 
と、自分で自分に言い聞かせる。
 
 
 
日常のなかで、今、こうなのは、あの時のあの出来事のせいだ。
あの人の言葉が、態度が、私をこうしてしまった、ということをよく耳にする。
 
現に、私も自分の文章能力が低いことのイライラの原因=犯人を外に作ろうとしてしまった。やばい。
 
出来ないなら、出来ないなりに、上手になるように、淡々と出来るまでやればいい。
 
今の自分がこうなのは、あの事のせい、と非難を続けるより、淡々と今、自分ができること、自分が幸せになる行動をとればいい。
 
こんなシンプルなことが本当に難しい。
 
この1ヵ月ほどを振り返ると、毎週提出しなければならない課題のテーマを見つけるために、以前より自分の身の回りのこと、思考にずいぶんと気づくようになったと思う。
ネタはないかな? とアンテナが立つと、以前より多くのものに気づけている自分がいる。
 
また、同時期に講座を受講している人の課題とそのフィードバックも読むようになり、以前より活字に触れる機会も増えている。
 
それだけでも、講座を受講した価値はあるじゃないか。
 
自分が出来ないことを棚に上げて、出来ないことの不満解消に、無意識にでも講座を犯人に仕立て上げようとしてしまった……。
講座の先生、フィードバックをくださる講師の方、ごめんなさい。
 
普段、たいして本も雑誌も新聞も読みもしない私が1ヵ月で読みやすい文章を書けるようになるわけはない。
 
文章も生きざまも、まだまだ未熟すぎるな。いい年してるのに。
 
この講座を通じて、どちらも成長できたらいい。
出来ることを出来る限り、淡々とやってみよう。
 
人にせいにするのはやめよう。自分で対処するしかない。犯人捜しはもうやめだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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