メディアグランプリ

コロナ禍、保育園が休みになって


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記事:山口ななかまど(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
焦れるほど在宅ワーカーになりたいと願い、そのために「スキルを身につけたい!」と躍起になっていた時期があった。今から7~8年前のことである。単純入力作業をやってみたり、インタビューの書き起こしをやってみたり、作曲をしたり、特許翻訳の勉強をしたりしていた。
それらは多少の稼ぎにはなったが、数日数時間、細か~い作業を積み重ねて得られるギャラは数千円、という非常に厳しい世界だった。
 
当時、私の頭の片隅には、「出産のリミット」という言葉がちらついていた。まだまだ自由に動き回っていたい。でも、子どもを産み育てながら経済的に自立し、安心もしたい。
「何もかも自分の思うようになればいいのに」と願い、そして空回りをしていた。
 
かくして私は、理想のイメージとはまったく程遠い、人間関係も金銭的にもみじめな妊娠・出産・産後を経て目の前の出来事をこなしているうちに、いつの間にか、あれほどまでに強く望んでいた「在宅ワーキングマザー」になっていた。
当時はまったく予想しなかった営業職に就き、希望が叶っていた。こんなふうになるなんて思いもしなかった世の中で、こんなに穏やかな気持ちで。
 
「働く母親」が経済的に独立し、さらには社会とのつながりを感じ続けるために欠かせないものがある。保育園である。
 
あの頃は、「保育園落ちた日本死ね!!!」のムーブメントが最高潮だった。私も焦りの中で、やはりゼロ歳児の保育園を探していた。
特に何の対策を講じずストレートに願書を提出した結果、やはり自治体の保育園には入ることができず、目星をつけていた民間の保育園へ子どもを入園させることになった。
その保育園は繁華街にあり、24時間営業だった。夕刻に子どもを迎えに行くと、美しく良い香りの女性たちが幼い子どもをかわるがわる預けていく、そんな園だった。
 
私と彼女たちはまるで別の人種のようだったが、「働く母親であること」、その一点では結ばれた同士だった。私たちは、自分と子どもが生きていくために保育園を必要としている。
それから5年の時が巡り、コロナ禍の現在である。
「あのねー、ゆずちゃんがー、今日お熱出して帰っちゃったのー」
一週間ほど前、のんびりとした声で子どもが言った。もう嫌な予感しかない。
案の定、2日後の晩、夫と子どもが「大変だ! 明日から保育園がお休みだって!」と、まるで宝くじが当たったかのようにそわそわと帰宅したのだった。
 
一時間ほどして、自治体から複数のメールが届き、事態の深刻さをかみしめることとなる。自治体が民間企業のベビーシッター費用の9割ほどを負担してくれる案内もあった。素直に必要な資料を集め、翌朝から意気揚々と役所へ向かう。
 
「この案内の、ベビーシッターのサービス、申し込みたいでーーーす!」
役所の人は、「あぁ、それね。利用できるまでに時間がかかるんですよね」と、淡々と説明を行った。
私は内心、「もう民間企業にもコンタクト取ってるもんね! あとは役所の書類を提出するだけ! なんて手際がいいんでしょう!」と自画自賛していた。
しかしなんとその時点で、既にこの企業にはまったくベビーシッターがいないという。
 
「同じような境遇で、保育園・小学校が休校になっちゃって困っている親御さんが殺到しているんです。お力になれずにごめんなさい……」
 
何ということだろう。心の支えだった「経済的安定」の文字がぐらつきそうになるのを感じていた。
でも、頭では分かっていた。みんなみーんな困っているのだ。保育園休園で困っていない人は、体調を崩している当事者だったりする。皆とても辛いのだ。
 
とはいえ、保育園の休園確定も通達も、すべて前日19時以降の連絡だったのは心からどうかと思った。そんな夜になってから「子ども預かれんわー」と言われても何も打ち手が見つからんわー。一体どうしてくれますか。
私の心の中の鱗滝さんが、「判断が遅い!」「判断が遅い!」と連呼していた。
 
それから一日中、心行くまでテレビゲームとYouTubeに興じた息子は、17時には眠そうにゆらゆらと揺れていた。
 
優しい先生がいて、楽しいお友達がいて、おもちゃがあって、規則正しくご飯とお昼寝が用意されていて、生活にリズムを正しく保ってくれる保育園。本当にすごい。
私が当たり前のように享受していた我が子の「育ち」は、たくさんの専門性と優しさと愛情の上に成り立っていたことを改めて感じた。
 
保育園の休園で一番つらかったことは、この状況がいつまで続くのかがまったく分からないことだった。役所からは、「早いと3日間、遅いと2週間、保育園再開までにかかることがありますね」といわれていた。
 
「外出していいの?」「でも、濃厚接触者かもしれない」
「お金がもったいないから子どもの習い事に通わせたいな」「でも、もし万一のことが起きたら……やめとこ」
何かをしようとするたび行く手をふさがれるようなことの連続に、息が詰まりそうだった。
 
休園が突然だったように、再開のお知らせも唐突だった。夕方19時を回った頃、「明日から再開します」というメールが届いた。正直、拍子抜けした。そして、それほどまでの大ごとが起こっていないということに心底ほっとしていた。
発熱してしまった子もやがて元気に登園してくれることだろう。
 
いつまで世の中、こんな感じなのだろうか。
誰もが健康で、元気にやりたいことを叶えていける。早くそんなふうになりますように。そして、前線にいらっしゃる保育士さんや医療従事者の方が、心穏やかに過ごせる日々が戻ってきますように。今年は、そんな一年でありますように。
心から、そう願った。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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