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必要なことは、必要な時に起こるのかもしれない


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Seiko(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「お母さーん。私、結婚しなくてもいい?」
長女に聞かれたのは4年前のこと。
 
なにを突然? と思いながら、
「無理してする必要はないんじゃあない?
してもしなくても、あなたが幸せなのが一番大事だよ」
そう答えた。
 
「やったー。良かった、理解のある親で」
一体女子高校生に何があったのか? と思いつつ、
 
「結婚が全てではないしね。
でも、結婚してみたら私の場合、
かわいい娘と生活できるという特典もあったけどね」
そう言って話は終わった。
 
「結婚しなくてもいい?」
どうして長女がそう聞いてきたのかは不明だけれど、
私もそれほど結婚というものに前向きな若者ではなかったので、
気持ちはわからなくもなかった。
 
独身の頃、私には結婚願望というものがなくて、
結婚は憧れたり、夢見たりする対象でもなかった。
友人達が、「早く結婚したいな」「結婚式は軽井沢の教会で挙げるんだ」
「子供が欲しい」と話すのを聞いていても、
「そうなんだー」と言いながら、私自身は全くときめかなかったものだ。
 
それは、結婚したくないよ、という意味でもない。
もし好きな人がいて、お付き合いをしていて、ずっと長く一緒にいられる人かも、
と思ったらその先を考える。
けれど、相手を切り離して、先に結婚のことを考えることはなかった。
 
私は「海外旅行をしたいなぁ」と行き先を探すのではなくて、
「あ、ここ行ってみたいな」と思うところに出会ったら、
その時初めて、「よし、海外に行こう」と動き出すタイプだ。
その感覚に似ていたかもしれない。
だから、「行ってみたい」という出会いがなかったら、
一生海外には出向かなかった可能性もある。
 
そういった若い私の考えが、あるきっかけで変化をした。
それは、祖母の死だった。
大好きだった祖母が亡くなり、
私はそれまで経験をしたことのなかった重い悲しみと喪失感でいっぱいになった。
大切な人を失うというのは、こんなにもつらいのか……
 
そして思った。
今はこんなに悲しいけれど、それでも私はひとりぼっちではない。
そばに両親も弟もいる。家族がいる。
その存在が、悲しみで心が潰れそうな私の支えになってくれているのがわかる。
けれど、この先もし両親に何かがあった時はどうなるのだろう。
弟には家族がいるかもしれない。
その時にひとりだったら、私はその悲しみを乗り越えられるのだろうか……
無理な気がする……自信が無い……辛すぎる……私はそんなに強くない……
想像するだけで怖かった。
 
ずっとひとりでいるのはやめよう。共に生きる家族を持とう。いつかは結婚しよう。
祖母の死をきっかけに、そう思うようになった。
この時に、私が持っていた結婚や家族というものへの考えや認識が
もっと柔軟なものに書き換えられた気がする。
私にとって、何気ない、けれどもとても大きな気づきだった。
ほとんど結婚の方には向いていなかった視点。
それが大きく動かされたのではないかと思う。
 
それからだいぶ月日が経ち、今の夫に出会った。
結婚前、一人暮らしをしていた夫の家に遊びに行ったことがある。
「食事を作るから座っていて」と言われ、
私はリビングルームで待っていた。
「出来たよ、はいどうぞ」
出て来たものを見て驚いた。意外過ぎる。
「ありがとう」と言いながら、テンになる私の両目。
そしてその時に「この人とは、長く一緒に暮らせるかもしれない」
そう思った。
私の前に置かれた、お茶碗にこんもり盛られた炊きたてのご飯。
その上に、スライスされた直径3センチくらいの丸いスモークチーズが、
大きい目玉のように2枚のっていた。
それが夫が作ってくれた初料理だった。
 
「私の他にも、こういう食べ方をする人がいるのか」という驚きと共に、
「彼女をもてなす初料理がチーズのせご飯。と言うことは、
もし私が同じものを出したとしても、この人は不満とか言わないのだろうなぁ」
そう思った。
 
私はチーズが大好きだったので、
まさに、夫が私の為にやってくれたように、
自宅でも、ご飯の上にチーズをのせていただくことがあった。
私の場合は使うのは、◯印のスライスチーズや、ピザ用のシュレッドチーズだった。
 
「さすがアメリカ人。スモークチーズか」
何がさすがなのかはわからないけれど、感心した。
夫の穏やかでまるい、おおらかなその人柄を尊敬していた。
そこへ結婚の話が出た時に、迷うことなく前に進めたのは、
やはりチーズのせご飯のことがあったからだと思う。
それを見た時に私が思った、
「この人とは、長く一緒に暮らせるかもしれない」
あれは一種のビビッときた直感だったのだろうか。
ご飯の上にのった二枚のスモークチーズが衝撃的だったこともあり、
強烈に記憶に残っている。
 
「どうして結婚したの?」と聞かれると、
最初にチ―ズのエピソードを思い出すので、
何気にこれが決め手だったことは、間違いのないような気がする。
 
それにしても、この、私にとっての決め手は大正解だった。
夫は今でも食に関して大変おおらかだ。
オカズが足りないとか、言われたことはない。
もしかしたら思っているのかもしれないけれど、
ここは私にとって案外トリガーだったりするから、
何も言わない夫に感謝している。
人によって、結婚の決め手は違うだろう。
その人にとっての、なんとなくピンとくるものは、
結構大事なことなのかもしれない。
 
大学生になった長女の、結婚についての考えは変わっていないようだ。
「無理してする必要はないんじゃあない?
してもしなくても、あなたが幸せなのが一番大事だよ」
私の考えも変わらない。
 
長女にとって必要なことは、きっと必要な時に起こるのだろう。
 
ただ、私が若かった頃の結婚観と、祖母が亡くなった時に感じたことも、
少し成長した長女に話した。
 
私の父が亡くなった時、長女は小学校三年生だった。
その小さな彼女の存在がどれほど私を慰め、支えてくれたのかということも。
 
 
 
 
***
 
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