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最適解を探すのは誰?


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:内野真紀(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「自己紹介の多い生涯を送ってきました」とでも言おうか。
 
「生涯における自己紹介の平均回数」というものがあるとすれば、私はその10倍くらい自己紹介をする人生なのだろう。
 
決して愉快なことではない。
 
私が言う「自己紹介」は、必ずしも新しい人との出会いを意味するのではないのだから。
 
言い換えると、知人に対しても自己紹介することがたびたびある。
 
何度自己紹介をしたって、会うたびに忘れられてしまうから。
 
これは使い捨ての自己紹介だ。
 
 
実を言うと、ここは全人類が1日にして私の名前を忘れてしまう奇妙な世界なのだ。
 
 
というのは嘘である。
 
単に私が双子なのだ。
 
 
 
「おはよう。えーっと……」
 
あ。まただ。相手がまごついている。
 
そんな時に言わなければならない。
 
「……マキです」
 
こんなにつまらない自己紹介があるだろうか。
誰もこんな自己紹介を望んでないのに。
でも仕方がない。
 
初対面ではないから「大学4年生で、書店で働いていて……」みたいなのは今更不要なのだ。
ただ名前が必要だっただけ。
 
ああ、気まずい。
こんな自己紹介、できればしたくない。
 
 
日常茶飯事とはいえ、傷つかないわけではない。
顔と名前くらい覚えてほしい。けどそれが難しいらしい。
 
 
「待って、また間違えるってことは、私が今までにしてきた話が誰の話だったのか覚えてないんでしょう?」
 
「私が『双子のどっちか』ならそれで事足りると思ってない?」
 
「私が私であることの意味はあなたにとって、ある?」
 
 
……とまで人には言わないが、心のなかで思ったことはある。
 
 
これが双子の現実だ。
自分の存在価値が「双子であること」以外にないんじゃないかと感じさせられる。
 
 
普段は双子であることを忘れて一人の人間として生きているのに、ふと姉に間違われたりすると、ああ、と思うのだ。
 
私は2人なの? 0.5人なの?
私という人間はいてもいなくてもどちらでもいいの?
 
こんなことは考えたくない。
 
どうすればいいのだろう。
 
 
まあ、間違えることは仕方がない。
私と姉の顔が似ているから間違えるのであって、原因は私たちにあるのかもしれない。
でもそれに謝る筋合いはない。
好きで双子になったわけではないのだから。
 
一時期母親を責めようとした。
でももちろん我々を産んだ母親が悪いのでもない。
母親だって好んで双子を産んだのではないのだから。
いつだったか「双子を妊娠したと知った時はショックだった」と漏らしてたな。
母親も苦労したらしい。
でもそれを聞いた私だってショックだった。まあ、それはもういい。
 
じゃあ、みんなが私たちの顔をしっかり見て覚えれば万事解決ではないか。
否、それができなくて困ってるんだ……
 
堂々巡りだ。
 
誰が悪いとかではない。
 
じゃあどうすればいいのだろう。
 
 
人類史は私の人生に比べれば物凄く長く、今生きている人もこんなにたくさんいるのに、双子の悩みを解決するための助言は与えられていない。
 
いや、ちょっと言い過ぎた。
本当は偉人たちも含めて多くの人が助言やライフハックをシェアしてくれていて、ヒントにはなった。
諺もそのうちだ。
「石の上にも三年」
「急がば回れ」
生き急いでしまう私のような若者にはありがたい言葉だ。
 
でもいつかは気づいてしまう。
それは唯一の答えではないのだ。
 
「石の上にも三年」が正しいから「善は急げ」が間違っている、ということはない。
どれも間違っていない。
それぞれの問題にそれぞれの答えがあるのだ。
自分の問題解決に本当に適しているのかどうかは試してみないとわからない。
 
 
ということで私もけっこう試行錯誤してきた。
 
「周りを変えるために自分が変われ」「髪型が人の印象を作る」と言うから、ロングヘアの姉と区別できるようにショートカットにしてみたことがある。
でもどっちがどっちの髪型なのか覚えてもらえなくてダメだった。
 
 
「当たり前を疑え」とか「前提を変えろ」と言うから、「間違えられるのが当たり前」という考えを持ってみることにも挑戦した。
「どっちがどっちかわからな〜い」って笑われても丁寧に教えてあげたし、
「同じ顔じゃん」って言われたら「そうだね」ってケラケラ笑ってあげた。
でもこれは辛くて続けることができなかった。
 
 
「肝心なのは忍耐だ」的な言葉もあるから、名前を間違えられても訂正せずに我慢してそのまま話を聞いてあげたこともある。
でもこれは相手に失礼な気がしてダメだった。
 
 
それでもめげずに試行錯誤してきたと思う。
 
 
でも結局私の双子問題を解決してくれたのは友人からの言葉だった。
 
「双子だから似てるんじゃなくて、兄弟みんなが似てるんだね」
 
たしかに。
私には双子の姉の他に二人の弟がいて、よく見ればみんな似ている。
もっとよく見れば弟と姉の方が似ていると気づいて笑ってしまった。
 
 
あれから姉と間違えられることがあれば、「実は兄弟みんな似てるんですよ」と笑って返せる心の余裕ができた。
 
何が解決してくれるかわからないな。
でも学んだことはある。
 
「これさえすればオッケー」という宣伝文句に騙されないように。
それをしても解決しなかったからといって諦めないように。
複数ある答えから最適解を見つけるのは自分自身だ。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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