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それって、ほんとに「協調性の欠如」なのか?


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記事:飯田裕子(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
「ぼく、人に合わせられないんだよね」
 
と夫。この言葉は、今や、彼のパーソナリティを表しているかの如くに、彼の心の中に君臨している。
 
私は、ライティングの勉強を始めて、周りによく関心を配るようになるまで、彼がこの言葉を発していても、この言葉の意味をよく考えることなく、過ごしてきてしまった。
 
彼は、自分は協調性がない、って言っているのかな。
 
ただ、漠然とそう思ってきた。でも……、協調性って何? 何だっけ?
 
ネット検索によれば、協調性とは、「いろいろな立場の人と協力しながら、同じ目標を達成するための行動がとれる能力」だそうだ。協調性は、特に日本だと、けっこう大切にされている気がするが、それって、社会生活を営んで、誰かと一緒に仕事をしなければいけない状況に置かれているなら、必須な能力なんじゃない? っていうか、誰でも多かれ少なかれ、使っている能力なんじゃないかな?
 
「人に合わせられない」と言っている彼は、はたから見ると、実にしっかりと働いている。家に帰ってきても、仕事のメールのやりとりは続いて、夜遅くまで仕事をしていたりするが、こなさなければいけない役割は、きちんと務めているように見える。つきあいはちょっと苦手のようだけれど、上司や部下との人間関係なんて、だいたいみな、何かしら悩みがあるものだ。よくは分からないが、ごく人並みな感じだ。本人は「人と意見が違うことが結構あってさ」と言うけれど、別に、会議で意見をごり押ししているわけでもなさそうだし、誰かと誰かの間で調整役をやったりもしているようだから、どちらかと言えば、立派に「協調性がある人」の部類なんじゃないか?
 
もっとも、若干の変わり者ではあり、人と価値観が多少ずれているという側面はあるのだが、別にそれを他人に押し付けているわけではないんだから、やっぱり「協調性がない」とまでは言えないのではないか?
 
じゃあ、一体、「人に合わせられない」と彼が言っている、その中身は何なんだろう? すごく不思議に思ったので、結婚20年を機に、思いきって聞いてみた。
 
「え? なんで、自分は『人に合わせられない』って思うの?」
 
すると、
 
「ぼく、行進が苦手なんだ。小学校の行進の練習の時、いつも他の子とずれててさ。ものすごく先生に怒られたんだ。母親は、恥ずかしくて運動会が見に行けない、と言うし、ほんとすごく怒られたんで、トラウマになっちゃって……」
 
学校では、協調性を育むためもあって、よく行進をしたりする。集団行動を指導する時の手引きを作っている所もあって、周りに合わせて、一糸乱れぬ行進が出来るようになることは、結構大切なこととされている。
 
聞くと、行進の指導の時、彼の先生は、
 
「はいっ。いちに。いちに。ほら、そこ! ずれてる! 周りをよく見て、合わせて!」
 
と言って、彼のことばかり、怒っていたそうな。
 
「言われた通りに、よくまわりを見て、合わせようとするんだけどさ。全然合わなくて。ちょっとずつ、ずれちゃうんだよね。あー」
 
嫌な思い出だったようで、がっくりきている。
 
「ん? ちょっと待って! まわりを見て合わせようとしたら、逆に合わなくない? 足や手は、曲やかけ声に合わせて動かして、身体の向きとか足の高さとかを、周りを見て微調整していくもんじゃない?」
 
「え? そうなの?」
 
彼は、きょとんとしている。
 
「周りを見て、動いたのを見てから動いたら、周りに合うわけないじゃん!」
 
思わず声が大きくなってしまった!
 
「えー。そうだったのー。それ、早く言ってよ! 僕、みんなに合わせろって先生がすごく怒るから、一生懸命周りを見て動いてたのに! それでも合わないから、僕は、人に合わせられない性格なんだな、と思ってた!」
 
彼は、この時の経験がひどくトラウマになっていて、時々、夢も見るらしい。でも、私から言わせるに、これは、指導の誤りだったんじゃないかという気もしてくる。彼が掛け声からずれていたのは、「みんなに合わせろ」を、みんなが動いたのを見て動くものと解釈していたからだ。掛け声がかかっているのだから、それに合わせるのだろう、と思わなかった彼も彼かも知れないけれど、彼が何で合わせられなかったのか、対策や理由を考えてあげないで、ただやみくもに「みんなに合わせろ」と言ったから、結局、どのように合わせるのかが分からなくて、合わせられなかったんじゃないだろうか?
 
彼は、行進でこの言葉をかけられるたびに、「自分は、人に合わせられないんだな」と思うようになり、本当に、そのように生きてきたところがある気がする。彼は、人に合わせられないのではなくて、行進で人に「合わせる」とはどういうことかが分からなかっただけだったのに、この言葉が、彼の人生の方向まで変えてきてしまったのだ。
 
私も、教師として、教える立場に立っていることが多いので、恐ろしい話だと思った。
このことからは、いろいろな教訓が得られる気がする。
 
1.やみくもに「やれ」と言うのではなく、なぜ出来ないのかを考えて、適した対応を取る必要がある。
 
2.出来ないのには理由があったのに、それを単に「出来ないんだね」と言ってしまうことで、本当に苦手になってしまい、そのことが、その人の人生まで変えてしまうこともある。だから、むやみに決めつけない。
 
確かに、いろいろな生徒がいて、苦手なことも得意なこともそれぞれに違う。でも、みんな、無限の可能性を秘めているのだから、そんな簡単に、その生徒の特性を決めてはいけないのではないか。「なんで出来ないのかな」と、まず考えてみて、誤解や勘違い、何かのつまずきがないか、よく見てみる。その掛け違いさえ解けば、もしかしたら、出来るようになるのかも知れない。私は、彼の行進の先生と同じようなことをしてはいないだろうか? 出来ない理由をよく考えてあげられているだろうか? 思い込んで物事を見ないようにしたいと、強く思った。
 
これは、大人にも言えることなのだと思う。自分の性格だから、とか言って、出来ないことについて勝手に理由を決めつける前に、簡単にあきらめないで、どうしたら出来るようになるか、前向きに考えていった方がいい。こちらも、自戒を込めて。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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