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それは好きとは似て非なるもの


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記事:今村ゆみ(「超」ライティング・ゼミ)
 
 
「この字、さいおしって読むんだね。最初読めなかったわ」
 
前回、Web天狼院書店に掲載頂いた「宇宙人と最推し」という課題を見た母から、こんなことを言われた。
母いわく、読み方が分かないため辞書を引いたが載っておらず、Googleで調べてようやく意味を理解できたらしい。
 
なるほど、と思った。
最近でこそよく使う言葉だが、たしかに私の学生時代にはこんな言い方は主流ではなかった。
思い出してみれば「推し」という言葉がよく使われ始めたのはAKB48が世間に認知され始めてからだった気がする。
 
「好きっていう意味の言葉なんだよね」
そう問う母に対して、その場ではその通りだと答えた。
だがそれは、私の中の「推し」という言葉の使い方が感覚的で、ちゃんとした説明ができそうになかったからだ。
 
「推し」という気持ちは、実際は「好き」という言葉とはどこかが違う。いや、確かに「推し」とは広い意味での「好き」に含まれる言葉だ。
けれどもそれだけじゃない。
「推し」という言葉には、好きとは何か違う要素が何かあるのだ。
 
「推し」と「好き」。
私の中で何がこの2つを分類しているのか、しばらく考えてみた。
 
例えば、私はL’Arc~en~Cielが好きだ。
正直、気づけば好きだったのでいつからかは分からないが、もう20年以上好きだと感じていることは確実である。
特にボーカルのhydeに対しては殊更愛が強く、学生時代の部屋は一時期、壁、天井、クローゼットの扉から内側に至るまでどこを見てもhydeのポスターが貼ってある状態だった。
 
我ながら、よくあの並外れて美形な顔に部屋を埋め尽くされて過ごせたものだと思う。
今なら直視できない。
 
だが、そんなにL’Arc~en~Cielとhydeが好きでも「推し」だと思ったことは無いのだ。
私は彼らのファンであるが、彼らは私の「推し」ではないのである。
 
対して、私が最近推しているAcademic BANANAというバンドがある。
私は彼らのファンでり、彼らは私の「推し」だ。
特にフロントマンの齋藤知輝さんのお人柄が可愛らしく(男性に使ってもいい言葉か迷うが、彼は普段永遠の17歳と自称されているので問題はないと思いたい)推させて頂いている。
 
元々、私の好きなゲームでシンガーを担当していて歌声は何度も聞いていたが、初めて彼を目にしたのはそのゲームのライブの様子のダイジェストを見た時だ。甘く、少し高めの歌声に対して長身のギャップに驚いたことを覚えている。
数いるシンガーの中でも好きなシンガーさんではあったが自分の音楽の好き嫌いが激しい事もあり、所属するバンドの曲までは聞いた事が無かった。。
 
本格的に興味を持ったのはゲームに関するツアーでMCを聞いたときだ。
なんというか……お世辞を言っても仕方ないので正直に言えば、斎藤さんご本人はちょっとズレたトークのいじられキャラだった。
そのトークで笑い転げた私は、彼の歌をもっと聞いてみたいと思った。
そこからInstagramやツイキャスで彼の配信を聞き、Academic BANANAの楽曲にも興味を持ち、今日に至る。
 
この2つのバンドに向ける「好き」の何が1番違うかと言ってしまえば、応援する方法だと思う。
例えば、私はL’Arc~en~Cielを好きだが、積極的に人に勧めはしない。
対して、Academic BANANAはいけると思った人にはガンガン勧めてしまう。
 
そもそも、人に勧めるということには多少のリスクがある。
人に勧める上では、相手の好みなどを把握し、それに沿ったものを紹介しないとただの押し付けになってしまうからだ。
勧めたけれど相手にとってはなんか違った、なんてこともよくある。
だが、私にとってAcademic BANANAは、その多少のリスクを追ってでも人に勧めたいな、と思うバンドなのだ。
 
それはなぜかと問われれば、おそらくそれは相手をどれだけ身近に感じるか、ということの様な気がする。
 
私は、Academic BANANAというバンドをMCや配信を通した齋藤さんのトークからどんどん好きになった。
きっとそれは、SNSや通信が発展した現代だからこその距離の近さだ。
アーティストの発信の機会がとても気軽なものとなり、テレビ番組のトークやインタビュー以外の場所でも彼らの作品や活動に対する考え、彼ら自身の日常のことなど色々なことが聞けるようになった。
インタビュアーの質問だけではなく、こちらから気軽に質問を投げかけることができるようになった。
 
身近になると、応援しているという実感が持ちやすい。
作品やグッズの購入以外にも、SNSでリプライを送る。周囲に広める。配信を見るなど、気軽にできる様々な応援の仕方が増えるからだ。
私もいちファンとして、ささやかでも「推し」の応援ができている。
そんな実感が持てることは、応援を続ける上での原動力の一つでもあるのだ。
 
ただ、決して「推し」ではないからと言って好きが劣る訳では無いことを分かってもらいたい。
正直、L’Arc~en~CielとAcademic BANANAのどちらがより好きかと聞かれても私は困ってしまう。
それは、好きのベクトルが違うからだ。
Academic BANANAは「推したい」好き。
L’Arc~en~Cielは、例えるなら憧憬だ。遠く高みにいて、決して「推し」ほど身近になりはしない。
けれどもそれは「推し」より劣ることでも、勝ることでもないし、応援の方法が違うだけで、応援していないわけではない。
また、今回の「推し」という言葉の解釈はあくまで私の中の解釈である、ということも付け加えておきたい。
 
初めての掲載は、誰かに文章を読んでもらう事の嬉しさと、自分の言葉の曖昧さを学ぶという、甘くもぴりっと厳しい機会となった。
自分がいかに感覚的に言葉を使っていたかなんて、今回の母の一言がなければ中々気づかないままであったと思う。
何を伝えたいか、そのためにどういった意味をこめて言葉を選ぶのか。
もう一度しっかり考えていきたい。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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