メディアグランプリ

もっとおせっかいでもいいんじゃない?


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記事:栗(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
「あんなこと、するんじゃなかった」
ふとしたきっかけで昔の記憶がよみがえって、悔やんでしまうことってないだろうか。忘れていた思い出に、自分の頭をたたきたいような気持になる。ましてそれが、隣から聞こえてくるどなり声が発端だったとしたら。
 
それはドラマ「となりのチカラ」をテレビで見ているときだった。このドラマは、引っ越してきたばかりのチカラ(松本潤)とその家族が主人公。隣近所におせっかいを焼きながら問題を解決していくという内容だ。
 
ある日、隣の家から子供の泣き声と男のどなり声が聞こえてくる。あせったチカラはいきなり隣人のピンポンを押して、挨拶に来たと言う。それどころか、妻のつくった唐揚げを差し出して「食べませんか」と家に上がり込んでしまうのだ。
 
「いまどきこんな人、いないよ~」
その瞬間、私の苦い記憶がよみがえった。
 
それは夫の転勤で名古屋に引っ越したときの話だ。引っ越しの次の日、お隣に挨拶しにいった。20代の若い女の人(ここではAさんとする)が出てきたので、手みやげのお菓子を渡す。後ろから夫らしき人がぺこりと頭を下げた。
 
今までそれでうまくいっていた。こちらが「昨日引っ越してきた栗です。大阪から来ました」と言うと「ああ、○○です、どうも」ぐらいは返してくれる。慣れた人だと「あら、うちも大阪なんですよ。大阪のどちらからですか?」などとやり取りもできる。
 
でも、そのときそうならなかった。なぜならAさんが一言も口をきかなかったからだ。インターホンを押したときの「はい」という返事以外は無言で笑顔もない。なんとなく違和感が残ったが、あとでそのいやな予感が当たってしまう。
 
Aさんには2歳ぐらいの女の子がいた。夜になって、ベランダ越しにAさんの声が聞こえてきた。
「みかんの次は、はい、何?」
「……。」
「みかんの次はりんごでしょう?」
どうやら女の子にクイズをしているようだった。次々と絵を見せて答えさせるようなものらしい。
 
でも、その子には難しいのか、答えが返ってこない。するとAさんはいきなり
「なんでわからないの! みかんの次はりんご! りんご!!」
「……。」
それが何回も繰り返される。Aさんの声はどんどん高く大きくなっていき、ついに女の子は泣きだしてしまった。
 
聞いているこっちがつらい。もうやめてあげて……。でも止まらない。次々とお題が出されて、結局1時間ぐらい続いた。そして次の日も、また次の日も。幼稚園のお受験でもあるんだろうか。
 
ある晩は、そのクイズに続いて夫さんのどなり声がした。Aさんのやり方に怒っている。なぜか窓が開けっぱなしで声が筒抜けなのだ。
「そんなこと、もうやめろ!」
「〇△×☆〇△×☆!」
2人の言い合いに思わず耳をふさいでしまった。
 
ひょっとして虐待? いやいや、叩いたりしているわけではないし……。当時、虐待110番というしくみを聞いたことがあった。周りの人が虐待を疑ったら、自治体かどこかに電話で通報してねというものだ。
 
もし通報したら誰かがやってきて「あなた、虐待していますね」と言うのか。そんなことをされて「はい、そうです。来てくれてありがとう」となるわけないし、むしろ通報されたことでよけい追い込まれてしまう。どうすればいいんだろう……。
 
そういうことが半年ほど続いたある日曜日、2人の女性がうちの家のピンポンを鳴らした。Aさんの職場の友人で、訪ねてきたが留守だという。Aさんが無断欠勤されて連絡が取れないので、何かご存じないですかと聞く。
 
一瞬迷ったが、お友達ならなんとかしてくれるかもしれない。つい、いつもお子さんともめているのが聞こえてくるんですとしゃべってしまった。2人の驚いた顔。
 
しまった、話すべきではなかった。そしてここから私の後悔が始まる。なぜなら、その後すぐにAさん一家が引っ越してしまったからだ。あの人たちに知られて職場にいづらくなったのかもしれない。
 
「あんなこと、するんじゃなかった」
Aさんを追い詰めてしまった。あの子はどうしているだろう。私、勝手に人のプライバシーをチクるいやなおばさんだよね……。
 
もし主人公チカラだったら、とドラマに戻る。チカラは空気なんか読まずに隣の家に突撃していく。今の世の中、おせっかいもいいところで、ドラマの中でも隣の奥さんに「うちに構わないでください!」と言われていた。
 
でも、それは本当におせっかいなんだろうか。通報したり知り合いにチクられるより、のんきにおかずを持ってくる第三者のほうがほっとするんじゃないだろうか。たとえ何もできなくても「助けになりたいと思う人」もいるんだよということをAさんに伝えられたのに。
 
いまなら私も畑で採れた野菜なんかをAさんに持っていける。市民菜園で余っちゃって~といって。そうしたらAさんもくすっと笑ってくれるだろうか。あんな後悔はもういやだ。次は私、もっとおせっかいでもいいんじゃない? テレビのチカラに向かってつぶやいたら、チカラ役の松潤がにこっと笑ってくれた、気がした。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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