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企業努力を支える謎の職業

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ゆみエール(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
仲良くなると、よく聞かれる質問、「仕事は何をしているの?」
私はこれに「覆面調査員」と答えていました。「覆面調査員って、万引き捕まえるヤツね。似合ってるぅ」とよく言われました。「それは、万引きGメンやし」
20年間、覆面調査員という仕事をしていました。
覆面調査員とは、万引きGメンのことではありません。お客様のふりをして、お店や施設に行って、接客サービスをチェックする仕事です。ミステリーショッパーとも呼ばれています。以前はテレビでもよく紹介されていました。残念ながら、コロナ禍になり、調査を必要とする対象がなくなってしまいました。それにともない私も失業です。
 
ほとんど表に出ることのない謎の職業、覆面調査員ですが、あらゆる接客サービス業で、覆面調査は行われていると言われています。代表的なものは飲食店です。エステや美容院も対象でしよう。珍しいところでは、市役所などの公的機関にも調査が入っていると聞いたことがあります。ルイ・ヴィトンやグッチなどの高級ブランドの調査をしたことがあるという調査員もいました。私は、携帯電話店、ゲームセンター、パチンコ、美容整形、ショッピングセンター、鉄道の調査を行いました。
 
覆面調査では、接客マナー、言葉遣い、施設内や店内の整理整頓、清掃状況など、クライアントが見てほしい項目を、チェックします。
オーソドックスなのは
・「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」の挨拶
・お辞儀の角度
・笑顔
・指し示しや金銭授受の際の所作
・正しい敬語を使っているか
・床やトイレなど清掃がゆき届いているか
・掲示物は見やすく貼りだされているか
・パンフレットやチラシは整理整頓されているか
項目数は100個近くになることもあります。チェック項目に加えて、所感もあります。その所感に、ライティング力が必要になるのです。所感には、「よかった点」「改善アドバイス」の両方を記載します。
 
私は、鉄道の調査に多く携わってきました。運輸業である鉄道は、接客サービス業のイメージがありません。しかし、高齢化社会が進み、通勤通学の人口が減少する現代社会において、鉄道は日常の足より、旅の移動手段としての位置づけが大きくなってきました。観光業の一部として、サービス業の要素が高くなっているのです。ですから、各鉄道会社は、CSと呼ばれている顧客満足度を上げるために、企業努力をされています。その一つが覆面調査なのです。
 
鉄道の覆面調査ってちょっと想像しにくいかも知れませんね。チェック項目を頭に入れた覆面調査員は、お客様のふりをして、しれーっと駅に行ってチェックをします。
駅では、駅員の行動を観察します。大きな駅には、駅員が常駐しています。駅員が、お客様にどのような応対をしているかをチェックするのです。聞こえる声で挨拶をしているか、お問い合わせにわかりやすく答えているか、笑顔で応対をしているか、お辞儀をしているかなどなど。
また、電車内のアナウンスをする車掌も調査の対象になります。
みなさんは、電車内のアナウンスを気にされたことはありますか?
アナウンスは、最後尾に乗車している車掌が行っています。実はアナウンスにも上手い下手があります。アナウンスでは、聞き取りやすさ、タイミング、必要な情報提供がされているかなどを調査します。なんとなく聞き流している車内アナウンスですが、活舌はもちろん、声のトーン、大きさ、スピード、間の取り方など、お客様にしっかりと聞き取ってもらうためのスキルが必要です。そして、意外にもお人柄が出ます。「寒い日が続いています。体調管理にご注意ください」「傘をお忘れないようにご注意ください」など、季節や天候によって、思いやりのある言葉が添えられていることがあります。これらは、マニュアルにはなく、いわゆるアドリブというものです。
 
覆面調査員は、決められた項目をチェックするだけでなく、このようなちょっとした心配り、お人柄が表れるような言動も見逃しません! チェック項目にないような言動は、所感の「よかった点」にしっかりと記載します。
 
覆面調査員という謎の職業について、イメージしていただけたでしょうか。
では、覆面調査員にとって、一番大切なことは何か?
それは、調査対象者に覆面調査員とバレないことす。
覆面調査員だとバレると、調査対象者を必要以上に緊張させてしまったり、普段は行っていないであろうよそ行きの行動をさせていまいます。
しかし、人って面白いもので、バレないようにバレないようにと思うと、不審な言動をとってしまいます。一般のお客様のふりをして、しれーと調査ができるかどうかが、覆面調査員の腕の見せどころなのです。
 
こんなことがありました。
駅の調査を行っていて、駅員の所作や言葉遣いを間近かで確認したいのと、トイレの清掃状況を確認したかったので、改札にいる駅員に声をかけて、改札内に入れてもらうことにしました。
私が「すみません」と駅員に声をかけると、駅員はさわやかな笑顔で「はい」と返事をしました。そして、私が「トイレを貸してください」という前に「もしかして」と続けます。
私は心臓が飛び出しそうになりました。「もしかして、覆面調査員の方ですか?」と聞かれるのかと。
すると駅員は言いました「もしかして、お待ち合わせですか」と。
そう、この駅員は、私がずっとコンコースに立って、改札を見ていたことに気がついていたのです。私は言いました「そうです。でも、何時の電車に乗ってくるのか聞いていなかったので、早めに来て待っているのです」と言い訳をします。そして、改札内のトイレを貸してほしいと申し出ました。もちろん、快く貸してくれます。
 
あぁ、びっくりした!
よくよく考えてみると、私が覆面調査員だと思っていても、駅員が「あなたは覆面調査員ですか」なんて、聞くわけがありませんよね。
駅員だって、確証はありません。
 
この駅員が、私がずっとコンコースにいて、待ち合わせの誰かを待っていることを気づかってくれたことも、「よかった点」の所感に記載しました。
「待ち合わせ」を信じたかどうかはわかりませんけど。
 
どの企業も、日々、顧客満足度の向上を目指して、水面下で努力をしています。そんな企業努力に、覆面調査員という謎の職業が一役買っているのです。電車に乗られたら、ぜひ、車内アナウンスに耳を傾けてみてくださいね。
 
 
 
 
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