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娘の進級論文、パクリます。

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:横井マリ(ライティング・ゼミ 12月コース)
 
 
ペットボトルに、使い捨てカイロ+クエン酸+水を入れて花壇に撒くと海が豊かになる。
「私、天才かもしれん!」
娘が狂喜している。
 
これは娘の進級論文に書かれた方程式だ。この夏、娘は学校の特別授業でSDGsの15番目に該当する『陸の豊かさを守ろう』をテーマに選び、森林のことを調べていた。
SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略。2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標である。
進級論文ではこの内容を発展させ、森の環境を守ることで海の環境を守ることができるという内容に仕上げたらしい。一度読んでくれないかと見せて来た。
 
森と海とのつながりは、こんな感じだ。
 
①森で木の葉や草などが枯れ落ちて堆積する。それを土壌中のバクテリアが分解すると、フミン酸とフルボ酸という有機物質ができる。
②フミン酸は鉄の中にある粒子を溶かし、鉄イオンにする。この鉄イオンとフルボ酸が結びついてフルボ酸鉄になる。このフルボ酸鉄という物質は、植物プランクトンや海藻の細胞膜を通りやすく、窒素やリンなどの栄養素を吸収するのに必要不可欠な物質だ。
③海に流れたフルボ酸鉄を取り入れ、たっぷり栄養を吸い取った海藻はやがて生い茂り、光合成も盛んになって地球温暖化の抑止になる。また、海藻類が育つと漁礁にもなるため、魚や貝が生育しやすい環境になる。
 
フルボ酸鉄が育まれるのは森林だ。森林は樹木の伐採が進んで減っているのかと思っていたが、そうではないらしい。人工林が増え、面積自体は50年間横這いなのだという。問題は、安価な輸入材に押されて人工林の木が使用されず成長し続けていることだ。地面に日が届かないため草が生えず、土がむき出しになる。そうなると、草や葉が堆積する前に雨で流され、フルボ酸鉄自体が作られなくなってしまうのだ。
つまり、葉が朽ちて堆積する時間と、その堆積物を微生物が分解する時間と、それに必要な環境を整えないと、海の植物が栄養を取り込むための要素が足りなくなるわけだ。
 
ところで、堆積物が積もり、海の栄養へと変わっていくまでには、どれくらいの時間が必要なのだろうか? きっと何十年とかかるのだろう。実にゆったりしている。それに比べると人の営みは、せわしい。今日の、明日の、に結論を求めてしまいがちだ。
 
前述の使い捨てカイロの方程式も、人が考えたことらしい即効性を感じる。
 
使い捨てカイロの中身とクエン酸を混ぜて団子状にした「鉄炭団子」というものがあるらしい。これは、フルボ酸鉄の材料の塊のようなもので、磯焼けという現象の解決策として実際に用いられているという。磯焼けとは、海藻が枯れてしまい、ウニやアワビなどの漁獲量が激減するという現象だ。その原因の一つにフルボ酸鉄の不足も挙げられており、海にフルボ酸鉄をカンフル剤のように直接投入して解決を図るわけだ。
 
娘の論文はここで話のまとめに入っていた。オチが物足りない気がする。
 
ふと視線を上げると、ベランダのプランターが目に入った。立春を迎え、春からの野菜作りに向けて土をつくる時期に入っているのだが、手つかずでいた。なぜなら、あまりにも土が痩せてしまっていたから。プランターは水をやるたびに下から養分が流れ出てしまう。流れ出た養分を集めて再度プランターに撒いてみたり、多めに肥料を入れてみたりしたのだが、ことごとく敗北した。どう立て直していくか、考えあぐねていた。
 
その枯れ果てた様子が、今回の論文にあった剥げた森林や海藻の枯れた海の姿と重なった。
 
「ママのプランターにフルボ酸鉄を混ぜたら、どうなるのかな?」
娘に語り掛けるともなく、そうつぶやきながらググると、フルボ酸鉄による土壌改良も研究されているようだ。頭の中に、もしも、が浮かぶ。
 
もしも、町内会や子ども会に使い捨てカイロで作ったフルボ酸鉄をプレゼントして、花を育ててもらったら。雨が降るたびに花壇からフルボ酸鉄が流れ出て、いずれ海にいくはずだ。森で作り切れなかったフルボ酸鉄と同じ量を、日本中のプランターや花壇に撒くことで補うことができたら、海の豊かさを取り戻せるかもしれない。私のプランターは……、
 
私の頭と娘の頭の上にビックリマークがピコン! と立ち上がった。娘が「そのアイデア、いいただき」と書いてある顔で目を合わせてくる。
 
材料の使い捨てカイロは、娘の学校で集めたらいい。クエン酸は100円ショップでも簡単に手に入る。ペットボトルも入手は簡単だ。それを材料にフルボ酸鉄を作って、回していく仕組みを作くれば、環境問題が解決するかもしれない。
 
そして、私はこの夏の我が家のプランターに思いを馳せる。手づくりのフルボ酸鉄による土壌改良に成功したら、我が家のプランター菜園に革命が起きるかもしれない。もしも、大豊作になったら、どうしよう。
 
その時は、論文にまとめて発表しようかな。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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