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ショベルカーと息子と私


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記事:林菜緒(ライディング・ゼミ2月コース)
 
 
うちの息子はショベルカーに反応するセンサーである。街でショベルカーを見かけるとキレの良い声で「ショベルカー!」と教えてくれる。
 
息子がショベルカーにはまったのは2歳の時だった。きっかけは、家の前で始まった上下水道の配管工事である。小さな男の子は電車や車、恐竜などにはまることが多いと思うが、息子はショベルカーをはじめとする重機だった。
 
どうしてそんなにショベルカーが好きなのか聞いてみたが、まだ2歳ということもあり理由を聞くことはできなかった。そこで、息子を観察してみた。
 
砂場では、「ショベルカー」と言いながら、自分の腕をアームに見立てて砂をすくっている。肩、肘、手首の順に動かす様子がなんともリアルでびっくりする。解体工事の現場では、先端がハサミのような道具に付け替えられ、屋根や壁をバリバリ壊していく様子に、大興奮している。
 
ちなみに私は息子とショベルカーを見るようになるまで、ショベルカーの先端を交換できることを知らなかった。先端部分をアタッチメントというが、すくう、こわす、挟む、金属を集めるなど、様々な用途の器具がある。
 
初めは、アームの独特の動きに魅せられたのだと思うが、アタッチメントを取り替えて、色々な仕事を見せてくれるところがおもしろいのだろう。たしかに大人の私も退屈せずに見ていられる。珍しいアタッチメントを見つけると息子に負けないくらい嬉しくなってしまう。だから、通勤途中で工事現場を見つけると、「息子を連れていかなくては!」と気合が入ってしまうのだ。
 
この間、近所で解体工事をしているという情報を入手し、早速見に行った。しばらく見ていると、関係者の方に声をかけられた。「ぼうや、ショベルカーが好きか?」と。モジモジしている息子に代わって、どれだけ好きか話すと、「ショベルカー動かしてみるか?」と言ってくださった。
 
いつもは人見知りで、近所の人に挨拶をするのも恥ずかしがるのに、その時は関係者の方と手をつないで、あっという間にショベルカーに乗せてもらっていた。しかも名前を聞かれて、ちゃんと答えていた。これには、びっくりした。
 
オペレーターの方は、息子を膝に乗せ、一緒に壁を剥がして、写真撮影のためのポーズまでとってくださって、感謝の一言しかない。家に帰ってからも「オレがショベルカー運転したんだぜ!」と親指を立てて、ドヤ顔をしていた。それはそれは嬉しかったに違いない。
 
息子がショベルカーを好きになって、私にも特技ができた。
 
それは、図書館にある膨大な絵本の中からショベルカーが出てくる絵本を探すことである。「なんだ、そんなこと」と思われるかもしれないが、タイトルに「ショベルカー」が入っている絵本は本当に少ない。つまり、検索で探すことができないのである。もし、検索するとしたら「はたらくくるま」だが、ストーリー性のあるものではなく、図鑑のような本ばかり表示される。
 
実際にどうやって探すかというと、棚の端から順番に本のタイトルを眺めるのである。とても地味な方法である。「いえ」「みち」「どうろ」「しごと」に関係のありそうなタイトルや背表紙にわずかに見えるイラストから当たりをつけるのである。ほとんど勘のようなものだが、意外とこの方法で探すことができる。
 
これまでで一番すごかったのは、「ホルンくんとトランくん」という背表紙を見たときに、楽器のホルンとトランペットではなく、「掘る」と「トラック」だと推測できたことだ。私の頭にも息子同様、ショベルカーのセンサーがついているのかもしれない。その証拠に、仕事で外出するなど一人でいる時にも、ショベルカーを見つけることができる。
 
一度だけ、いつもと違う公園に行ったときに、息子と同じようにショベルカーが大好きな男の子とお父さんに出会ったことがある。初めて会ったのに、なぜショベルカー好きと分かったかというと、砂場セットのラインナップが他の子と大きく違ったからだ。普通は、スコップとバケツであるが、ショベルカーとダンプトラックなのである。もちろん息子も後者である。
 
この子も仲間に違いないと思い、話しかけてみるとビンゴだった。おもちゃやショベルカー巡りの話で盛り上がったが、そのお父さんもやはり絵本探しに苦労しているとのことだった。ここぞとばかりに、これまでの知識を総動員し、おすすめの絵本を紹介することができた。ショベルカーの絵本の知識が人様の役に立ったのは、後にも先にもこの時だけである。
 
私には息子のように没頭できるものがないので、息子は心の底から好きなものがあって幸せだと思っていたが、ショベルカーを通じて息子の成長を垣間見たり、ショベルカーについて詳しく知ることができ、私も十分楽しませてもらっていることに気が付いた。
 
息子は先月4歳になった。ショベルカーに魅せられて2年が経とうとしている。このショベルカーブームはちょうどコロナと共にやってきた。密を避けるために制限ばかりの毎日だったが、ショベルカーは息子と私の生活に潤いをもたらしている。こんなに大好きでも、いつかはショベルカーを卒業する日が来るかもしれない。それまで、息子と私のライフワークとしてショベルカー巡りを楽しもうと思っている。
 
 
 
 
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2022-02-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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