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おなかを満たすだけでいいですか?


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河野眞寂(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
作り手の“愛”を感じる食べ物を食べたのは、いつぶりだろう。
最近、そんな食べ物と出会った。
 
夫と二人暮らしの生活。
実家を離れて長く、外食以外で人が作ったものを食べていない。
 
私の家は、典型的な昭和の家で、
父が外で働き、母は専業主婦だった。
子どもの頃の食事といえば、母が作ったものが当たり前だった。
外食は、滅多にしたことがなく、
ど田舎の実家の周りは、田んぼだらけで、
今のようにファストフード店もなかった。
小学校が終わると、一旦、家に帰り、すぐ遊びに出かける。
自転車をとばして、友人たちと田んぼのあぜ道を走り回り、
近くの神社で、鬼ごっこをして遊んだ。
おなかをすかせて帰ると、
家を満たす料理の匂いにワクワクした。
今日は、カレーかな。おでんかな。それとも、肉じゃがかな。
食事が作られているのが当たり前すぎて、
そのありがたさに気が付いたのは、
母が病気になり倒れた時だった。
家から、あのワクワクする匂いがしない。
いや、正確に言うと匂いはしている。
小学生だった私と、四つ離れた兄のために、
父が、総菜を買ってきてくれていたのだ。
冷えた肉じゃがやコロッケから匂いはする。
どれも、私と兄の好物ばかり。なのに、あの胸が躍る感覚がない。
なんとなく、おなかは満たるのに何かが足りない。
それが、何なのか当時はわからなかった。
 
ある日、Facebookのある投稿に目が留まった。
「なんて、きれいなんだろう」
映し出されているのは、虹色に輝くケーキだ。
とても、ケーキだとは思えない。
赤、ピンク、黄、オレンジ、緑、青、紫。
まさに、ナナイロ。
今まで出会ったことのないケーキだった。
ケーキの上には、チョコレートだろうか、クリームだろうか、
ピンクのハートが形作られ、
1円玉ほどの小さな花が、いくつも並んでいた。
私の胸の奥に、何かがぐっとこみあげてきて、涙があふれ出てきた。
自然と流れた涙に、戸惑った。
どうしたんだろう。
なぜ、こんなに感動するんだろう。
本文を読んで、その答えがわかった気がした。
 
「愛する娘の誕生日ために」
「結婚記念日に」
「愛する彼女のために」
 
このケーキの作り手は、注文した人の“想い”を形にしている。
しかも、純粋に、パワフルに、直球で、ケーキという形にして表現している。
 
「愛しています」
 
私が感じたのは、注文した人の“誰かを想う”愛”だ。
だから、見るものの心を動かし、感動させる。
すごいケーキが存在すると思った。そして、
「こんなケーキを、夫と食べたい」
と思った。
乾いた夫婦関係に、水を注いでくれるだろうか。
こんな風に
「あなたを愛しています」
と伝えてくれるだろうか……
迷いながら、近づいている結婚記念日に合わせケーキを注文した。
 
ケーキが届いた。
今日は、結婚記念日。
夫は、結婚記念日など忘れ、いつも通りに帰ってきた。
22時。
いつもと変わらない。
本当に変わらない。
「やっぱりか……」
結婚した日を、忘れているのだ。
何かで読んだ。
男性は、記念日に弱い。そういった記念日という感覚が、死んでる。
にぶい……
夫は、型通りの“男性”なのだ。そう諦めるしかなかった。
何かに期待している自分が、ばかばかしく思えた。
「ケーキを買ったんだよ」
「結婚記念日だよね」
夫の意外な答えに、驚いた。夫は、記念日を覚えていた。
けれど、何かするでもなくいつも通りの夫に、やはり、怒りを感じる。
それでも、何かを期待してケーキを箱から出した。
素晴らしい出来だった。
ピンクをベースに、オレンジ、赤、青……
写真で見たあの輝きそのものだった。
はらはらと、涙がこぼれる。
私だけが……私だけ……
一人、記念日に盛り上がって悲しかった。
「おいしいね。ありがとう」
夫の意外な言葉にハッとする。
涙を、ごまかしながら。
「うん」
と答えた。
私もケーキを口に運んだ。
懐かしい感覚がよみがえる。
「愛しています」
ケーキの作り手から発せられた“愛”が、私の心を揺さぶっている。
懐かしい感覚。これは何だろう。
私は、記憶をたどっていた。
そうだ、思い出した。
小さい頃、母の手作りの食事をした時の感覚だ。
そうか……今、わかった。
 
子どもが、大きくなれるように。
子どもが、病気をしないように。
子どもが、元気でいるように。
子どもが、喜んでくれるように。
そして、子どもが、幸せであるように。
「愛しています」
 
ふと顔を上げると、テレビに熱中している夫がいた。
顔は、楽しそうだ。
ま、いいか。いつも通りで。
何か、夫に対する執着のようなものが、
私からはがれて、落ちた。
「わかってほしい」
そういう感情は、いらないだろう。
“愛”は伝わるものだから。
ケーキから発せられた“愛”のエネルギーは、私を幸せな時間に戻した。
本当に、“愛”のこもった食べ物は、食べた人を幸せにする。
そのことを、このケーキは思い出させてくれた。
なんとなく、夫婦の関係が乾いたものになった原因がわかったような気がする。
食事に“愛”を注いでないかも。
日々の忙しさに、おなかを満たすだけの食事になっていたと
少し反省した記念日だった。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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