メディアグランプリ

桜と雪と、一緒に散った恋の話


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記事:藤崎奏(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
3月31日、季節外れの雪が降った。校門脇の桜の木の下で、花びらと一緒にひらひら落ちてくる雪を見上げながら、私はこの日のことをずっと覚えてるんだろうな……とふと思った。そんな、高校2年の最後の日。
 
 
これは、私の失恋の話だ。私は自分のことを人に話すのがあまり好きではないし、終わった恋のことはあまり思い出さない主義だけど、前に進むために心の底から引っ張り出した恋の話。
 
 
高校2年生のその頃、私には好きな人がいた。色白で背が高い同級生。天然パーマの色素が薄い髪はいつもふわふわしてた。決してイケメンではなく、勉強もスポーツも平均点だったけど、声に色気があってカラオケだけは上手い男の子だった。中性的な雰囲気を持っていて(調理実習で魚を卸す手さばきは、確実に私よりも上だった!)、男女関係なく友達がたくさんいた。教室ではよくみんなにいじられて、「やめろよー」って言いながら何だか嬉しそうにしてた。変に母性をくすぐるところがあって、先輩からよくモテてたな。私は彼の、斜に構えてるふりして、本当は優しいところが好きだった。それから、白くてきれいな手と。
 
私と彼は、1年からクラスも部活も一緒だったのでよく遊んだ。私は、例えば何もない所でコケるような大雑把でそそっかしい所があって、よく彼につっこまれていた。いじりいじられ、みたいな。そうこうしてるうちに好きになってしまったのだ。私はバスケが上手いしゅっとしたイケメンがタイプだったはずなのに! でもこれはもう自然の流れだ。
実際、私たちは仲が良かった。よく2人で馬鹿なことをやってはしゃいだ。もはや毎日何を話していたかは全く覚えていないけど、あの頃を思い出すと、彼の耳触りの良い笑い声が耳に戻ってくる。帰り道、アイスやコロッケを買い食いしたり。放課後、私のメイク道具で彼にメイクをしてみたり(これがまた似合うのだ)。一緒に模試をさぼって先生に怒られたり。2人とも負けず嫌いだったのでよくケンカもしたけど、「ケンカするほど仲がいい」なんて、周りからはほぼカップル認定されてし、なんだか勝手に両想いな気がして浮かれていた。傲慢で純粋だった。
 
でも。これは私の失恋の話だ。
2年生の文化祭後、急に彼からのメールの返信がそっけなくなった。「へえ」「うん」、以上。おかしい。なんで? 不安で仕方なかった。でも、翌日学校で会うと至って普通なのである。なんだこの違和感は……
 
理由はすぐにわかってしまった。この頃彼は私の友達とこっそり付き合い始めたのである。なぜ周囲に隠していたのかはいまだにわからないが、「ほぼカップル認定」なんて私の存在は、完全にカモフラージュだった。
 
相手は、チョコミントアイスが好きだったきれいな彼女。凛とした佇まいで一見近寄りがたいけど、笑うと顔がくしゃってなって一気に人懐っこくなる。彼女と私は1年からクラスが一緒で(つまり彼と彼女もずっとクラスメイトだったわけだけど)、性格は全然違ったのに、好きな本や音楽の趣味が合って仲良くなった。暑い日も寒い日も、昼休みは体育館の倉庫にこっそり持ち込んだMDコンポで音楽を聴きながらお弁当を食べた。本や漫画や音楽の話をたくさんして、たくさん笑った。
部活がテスト休みの時は、彼と、彼女と、3人で帰ることも多かった。3人同じ路線の電車。私がいつも一番先に降りた。
 
2人が付き合ったこと、誰から何を聞いたわけじゃない。でも、何となくピンと来てしまった。こういうことの勘は割といい方だと思う。美人の彼女が彼を選んだ理由は、正直謎である。でも仕方ないよな。彼の優しさが、彼女の孤独に刺さってしまったんだろう。彼女は本当はとても寂しがりやだったから。
 
こういう訳で、私は人知れず失恋をした。でもなかなかそれを受け入れられなかった。だって、表面上の彼の態度は何も変わらなかったから。彼と一緒にいられる時間は嬉しくて、楽しくて。何も変わってないって錯覚してしまいそうになった。でも、バイバイって別れた後、メールを続けた時間はもう返ってこない。教室で、目だけで笑みを交わす2人を見ると「彼が好きなのは私じゃない」と、急に現実を思い知らされた。彼女が部活の差し入れに来るようになった。私はなんだかんだと理由を付けて、3人で帰るのを避けた。
 
彼にも彼女にも、「ほんとは付き合ってるよね?」って聞きたかった。「なんで隠してるの? 私を隠れ蓑にするなんてひどくない?」何度言おうと思ったか。でも言えなかったんだよな。全部聞いてしまったら、きっと彼とも彼女とも話せなくなるから。教室が世界のすべてだったあの頃は、それが死ぬほど怖かった。それなら鈍感なふりをして、馬鹿な子のふりをして笑っていたかった。
 
 
それでも、いい加減疲れ果てて、引退間近の部活帰りに彼と空を見上げた高校2年生最後の日。目の前の景色があまりにきれいで、私は、ようやくこの恋を諦めることを決めたんだ。
 
 
1年後、彼と彼女は都内の同じ大学に進学した。私は一人で地方大学へ。卒業式では3人で一緒に写真を撮った。写真の中の私は、最後まで何も知らないふりして笑ってる。
 
 
別に初恋だったわけじゃない。大失恋って訳でもない。通過儀礼程度に泣いて、その後はまたすぐ別の人を好きになった。吹けば飛ぶような恋ごころ。でもなぜか、なぜだか心に残っている彼。大きな白い手と耳触りの良い声。それはやっぱり、季節外れの雪のせいだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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