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マイ舞ストーリーのはじまり


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:塚本 よしこ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
どうしたら美しく見えるのか?
そんなこと考えたこともなかった。いわゆる髪を振り乱しての育児期間。いや待てよ、今までの人生でもあまりなかったかもしれない。
 
子どもがまだ小さかった頃、託児ありに惹かれ、あるお寺のヨガに行っていた。終わった後に頂く手作りのご飯が楽しみだったのと、1人になれる貴重な時間だった。
そのお寺で、舞のワークショップがあるという。案内の写真を見ると、白い衣装の女性が数人映っていた。巫女舞を連想させる写真だ。学生時代に授業で神楽舞をしたのを思い出す。懐かしい。ちょっと気になるな、行ってみようかな。それが、舞との出会いだった。
 
窓を開け放ったお堂。そこには10人以上の人が集まっていた。
昔授業でやった舞は、とにかく型を覚える感じだったが、この舞はそれとは全く違っていた。舞というよりも、先生のリードで行う呼吸法や瞑想のようだった。
え、みんなやってる? どんな顔してる? こんな感じでいいかな? 周りをさりげなく観察しながら、参加者の中に埋もれて時間が過ぎていった。何だろうこの独特な空気感は。
 
「11月の御奉納によかったら参加しませんか?」
数回のワークショップが終わった後、皆にお誘いがあった。お寺の御奉納の最後に、舞を披露するらしい。どうしよう? 友達と参加を決めている人たちを横目で見ながら、1人参加していた私は、自分に聞いてみた。「やる?」「うん、やってみる」答えはすぐに返ってきた。
 
それからは月に2回のペースでお稽古があった。毎回お稽古に行くと、慌ただしい日常を忘れることが出来た。舞うというよりは、体をほぐしたり、呼吸を整えることに時間の大半が使われていた。
先生の言葉に合わせてイメージを膨らますと、宇宙と自分が繋がったり、大地と自分が繋がったりした。内側に意識が向くと、自然と心が落ち着いていく。そこには娘に怒ってしまう自分も、イライラしてしまう自分もいない。
お稽古が終わると毎回心が洗われるような感覚があった。それは神社に行って感じる清々しさのようなものだった。
 
数か月が過ぎ、本番が近づいてきた。
「腕はこうした方が美しく見えるよ」「目線はあの方向に」先生の言葉に、はっと気づく。どうしたら美しく見えるか? そういったことを今まで意識したことがなかった。
小学生の時、隣のクラスの先生に、「〇〇(名前)、頭に水をつけて押さえとけ!」そう言われてしまうような子供だった。髪がはねていても気にしなかった。外見をあまり気にしてはいけない、そんな風にも思っていた。
それに一番長くやってきたスポーツはバスケットボール。賑やかで激しい世界だ。もちろん客観的に自分がどう見えるかなんて関係ない。しかし、この舞は言うなれば静。そして微細さや繊細さが求められる。荒削りの私には経験したことのない世界だった。
 
お寺での御奉納の日がやってきた。
とにかく動いてないと落ち着かない。大人になってこんなに緊張したことがあっただろうか。今まで受験や試合、仕事など、あらゆる緊張する場面を経験してきたはずなのに全く活かされない。何度もお腹の調子が気になる。普段のお稽古でこんなことはないのに、どうしてしまったのだろう私は。
「初めてというのは今回しか経験できないから、この瞬間を味わってね」
「とにかく笑顔でね」
遠くに聞こえる。ぎこちない笑顔しかできない。
いつもと違う白い衣装、冷えたお堂。そして大勢の人の気配がする。より緊張が高まった。
いよいよ袖に並ぶ時間だ。目をつぶり、心を静める。無だ、無になろう。
先輩の演目が終わり、仲間の後について最後に歩み出る。表に出ると不思議と緊張はしなかった。
両手で扉を作り、それが左右に開いて扉が開く。最後の所作。気づくと舞は終わっていた。
新たな扉が開いた。ふー。大きなため息が出る。
 
舞が終わり控室に戻ると、みんなで握手をしたり、抱き合ったりしてお互いをたたえ合った。30代から70代の仲間が、まるで女子高生のように喜んだ。何だろうこの感覚は? 部活? 久しぶりの高揚感だった。みんなとてもいい顔をしていた。
 
しかし、終わってから写真を見ても動画を見ても、そこには目を伏せたくなる自分がいた。間違いなく舞の出来栄えはよろしくなかった。笑顔だって全然ない。真面目な顔の自分がいた。
「うまい下手は関係ない」「間違えてもいい」「意をのせることが大事」そう教わっていたけれど、全く納得のいくものではなかった。
もう少しちゃんと舞いたい! 美しく舞いたい!
 
こうして舞は、気づくと私の生活の中で色濃くなっていた。それは例えるなら、異彩を放つ転校生のようだった。他にはない雰囲気を醸し出していて、ちょっと近づいてみたが、まだどんなものかは分からない。でも明らかに惹かれている。もっと知りたい、もっと仲良くなりたい。
マイ舞ストーリーはまだまだ始まったばかり、ここから幾つもの出会いや挑戦が待っていた。
 
 
 
 
***
 
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2022-02-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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