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メディアグランプリ

別世界への入り口

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:飯田裕子(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
「あれ?」
 
ランドセルを背負って登校途中だった私は、ふと、足を止めた。
 
校門から入ってちょっと行ったところに、わりと大きな水たまりが出来ていた。直径は1メートルほどだったろうか。
 
その日は、とても天気が良くて、空は真っ青。見上げると、雲一つなかった。水たまりがあったのは、昨日の夜に降った雨のせいだ。
 
水たまりは他にもあったのに、なぜ、その水たまりだけが気になったのか? それは、その水たまりだけ、他とは別の雰囲気を漂わせていたからである。
 
その水たまりは、波立つこともなく、青くて何もない空を映していたが、その一方で、とても濁っていて、中が全く分からなかった。底が見えなかったのだ。
 
普通、水たまりの水がにごるのは、誰かがバシャバシャと入ってかきまわして、底の方の泥を巻き上げた時だ。そういう時にのぞいてみると、かき混ぜられた泥がゆるゆるもくもくと動いていたりするものだ。しかし、そんな感じはなかった。
 
その水たまりは、中が全く見えない状態で、鏡のようにそこにあった。
 
 
不思議な感じがしたので、近くへ行って、のぞき込んでみた。鏡のような水面に、自分の顔が映る。もう少しよくのぞき込むと、道の脇の木々も映り込んでいるのが見えた。水は透明ではないのに、なんだかきれいだった。
 
じーっとのぞき込んでいると、そのうち、さざ波もない鏡のような水面に、吸い込まれるのではないか、という錯覚を覚えた。
 
 
この水たまりを通ったら、違う世界に行けるんじゃないか。
 
本当にそう思った。
 
もし水たまりを通った向こう側に行けたら、一体何があるんだろう? こちらの世界とはあべこべの世界でもあったりするんだろうか?
 
テレビのSFドラマで、特定の時間だけ、とある部屋に別世界との入口が開いて、その世界に冒険に行けるという話を見たことがあった。『鏡の国のアリス』は、暖炉の上の鏡を抜けて、別の世界へ遊びに行った。だったら、もしかして、私だって……。
 
もちろん、アリスやSFドラマが物語だということは知ってはいた。でも、そういう不思議なことが起こらないと、誰が言える?
 
入ってみようかな……。入ってみれば、どこか別の世界への入り口なのかどうか、はっきり分かるじゃない? それに、冒険が出来るかもよ。
 
すごく冒険もしてみたかった。でも……。同時に、怖い気持ちもあった。もしかしたら、何の変哲もない、ただの水たまりかも知れない。だけど、もしそうでなかったら? もし本当に別世界に行けて、そうしたら、向こう側が変な世界で、変な生き物に追いかけられたりしたら? それに、戻ってきたくなった時に、無事に戻ってこられるかな。二度とこの世界に戻れなくなったりしたらどうしよう。お父さんお母さんは、きっと心配して探すだろう。水たまりに飛び込んでいなくなった、なんて、誰が気が付く? お父さんお母さんにもう二度と会えなくなるかも知れないなんてイヤだ!
 
ただただ沼底に沈んでしまうかも知れない。そんな情景も思い浮かんできて、ますます怖くなった。
 
本当に、水たまりに飛び込んでみようと、ずいぶん長いこと悩んだのだったが、水たまりの向こうの世界について、楽しい想像よりも、怖い想像や、戻って来られなくなる恐怖が勝ってしまい、結局、足を踏み入れることなく、校舎に入ってしまった。
 
数時間経って、帰りに同じところを通った時には、もう水たまりはなくなっていた。
 
 
思いきって入ってみればよかったな。あの時だったら、別の世界へ行けたんじゃないかな。そうしたら、何か面白いことが起きたかも知れないのにな……。
 
 
家に帰ってから、このことを高校生の兄に話すと、兄は真顔で、
 
「なに、水たまりに入ってみればよかったじゃない! 別の世界へ行けたかも知れないのに!」
 
と言った。
 
「そうだね。入ってみればよかった。あんな気持ちになること、他にはないんだから、ほんとに別の世界への入り口だったかも知れないのにね」
 
後悔先に立たず! 二度と戻って来られなくなるんじゃないか、なんて心配しないで、とにかく試してみればよかった。
 
この後悔はずうっと残った。その後、どんなに水たまりをのぞいても、別の世界へ行けるんじゃないかと思われる水たまりにはお目にかかっていない。
 
でも、問題はそのことだけではない。この文をここまで読んでくださっているみなさんだったら、こんな時どうしただろう。私のように、水たまりに飛び込まない選択をした人もいると思うけれど、冒険心や楽しい気持ちが勝って、水たまりに飛び込み、良くも悪くも、別世界を思いっきり楽しんで、いろいろなことを学んで、無事生還した人もいるのではないだろうか。
 
私は、水たまりの裏に別の世界があったと信じたいし(実際かなり信じている)、大人になった今でも、どこかに何か未知なものが転がっているかも知れない、と信じる気持ちを失わないでいたいと思っている。が、それより何より、今度似たようなことがあったら、迷わずに飛び込んでみる「冒険心」を持ちたい。
 
これは、何もファンタジーの話だけにとどまらない。子ども心を持った大人でありたいと思うし、未知のものに、ワクワクしながら果敢に挑戦していける人でありたい。
 
だから、天狼院にも足を踏み入れてみたのだけれど、これから先、どんな未知の世界が待っているのか、不安もあるが、ワクワクしている。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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