メディアグランプリ

プレゼンはたった1枚の紙だけでよかった


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記事:深谷百合子(ライティング・ゼミ名古屋会場)
 
 
中国で仕事をしていた時のことだ。朝、席についてメールをチェックしていると、中国人の担当者がやってきた。
 
「今日の午後、流量計の会議があります。設計会社の責任者も来るので、出席してもらえますか?」
「流量計? あぁ、今度改造する設備に新しく取り付けるやつ?」
「そうです。日本からメーカーが来ます。そのメーカーを購入先リストに載せる必要があるので、設計会社と一緒に話を聞いて下さい」
 
私の勤めていた中国国有企業では、工事を発注する時、図面などの設計資料の他に、「材料購入先リスト」というものを必ず添付していた。工事を行う業者が「安かろう悪かろう」な材料を使わないよう、過去の実績や材料の品質、技術レベルなどを考慮して、設計会社が予め購入先候補のリストを作っているのだ。要するに、「このリストにある業者の中から材料を買うように」と指定をするのである。
 
今回日本から打合せに来るメーカーは、そのリストの中に入っていなかった。けれども、今回の改造工事で取り付ける流量計は、どうしてもその日本メーカーの流量計を使う必要があった。私たちは、そのメーカーが購入先リストに入っていないと発注ができない。そこで、手続き上の話とはいえ、その日本メーカーを中国に呼んだ。そのメーカーを購入先リストに加えても問題無いことを、設計会社も交えて確認し合ったという証拠を残すためだ。
 
呼ばれた日本メーカーは、初めての商談だから気合いが入っていた。会議室に通されると、40ページ近くある分厚い資料を出してきて出席者に配り、プレゼン資料を投影して、会社概要を説明し始めた。
 
会社の沿革や組織体制、商品の構成、近年の経営状況等々、スライドに沿って説明が続く。
 
しばらくすると、私の上司である国有企業の中国人部長がちょっとイライラした表情を顔に浮かべた。設計会社の中国人は、「この辺の話は自分とは関係の無い話」と言わんばかりに、スマホを見ているばかりで、話を聞いている様子がない。
 
発表している側は一生懸命なのに、空回り感が満載である。
 
「もっと要点だけ説明してくれたらいいのに」
私がそう思った矢先、さっきからイライラしていた中国人部長が一言放った。
 
「私が知りたいのはお宅の会社の実績です。うちと同じ業界への納入実績を説明して下さい」
 
説明していた日本人営業マンは慌ててスライドを先送りし、納入実績のページを映し出す。そこには、日本の工場への納入実績が書かれていた。
 
するとまた中国人部長が
「中国の工場への実績を見せて!」
と言う。
 
日本人営業マンは、また慌てて次のページを映し、中国の工場への実績一覧を見せた。
 
中国人部長や設計会社の責任者はそのページを見ながら、いくつか質問を始めた。15分位の問答があった後、「OK、分かりました。問題ないので、リストへの追加と発注の手続きを進めます。以上」
 
そこで会議は終わったのだ。結局、分厚い資料の中で使ったのは、中国工場への納入実績の1枚だけだった。
 
「配付資料のコピーとか準備するのも大変だったろうに……」
私はそう思いながら日本人営業マンを見ると、彼も拍子抜けしたような様子で、ちょっと苦笑いをしていた。
 
もともと打合せの趣旨や目的は、中国人担当者から相手側の代理店経由で日本メーカーに伝えられているので、意図が正確には伝わっていなかったのかもしれない。けれども、私はこのシーンを目の前にして、相手が本当に欲しい情報は何かをつかみ、それをズバッと提供することって大事だなと思った。
 
私自身もついやってしまうのだが、何かを提案したり、セールスしたりする時、ついつい自分の方に意識が向いてしまう。それがどれほどいい提案なのか、オススメしているものがどれほどよいものなのか、そもそも自分は何者なのか、自分のことを何とか相手に分かってもらおうと必死になり、説明する。でも、本当に大事なのは相手の欲しい結果を手渡すことだ。意識を向ける対象は「相手」であって、「自分」ではない。
 
だから、ついつい沢山の資料を作りそうになる時、私はこの「15分で終わってしまった会議」のことを思い出す。
 
あの時、40ページ近くある資料のうち、相手の欲しいものはたった1ページだった。資料のほとんどは、相手の欲しいものではなく、そのメーカーの伝えたいことだった。その資料をつくるのに、一体どれほどの時間をかけたのだろう。その資料を作るために残業した人もいるかもしれない。あの会議だって、中国人部長が我慢強く全部話を聞いていたら、多分1時間以上かかったかもしれない。すると、そこに参加した中国人の担当者や私だって、他の仕事が片付かず、残業することになったかもしれない。
 
「相手が欲しい1メッセージは何か?」に意識を向け、それに答えるための情報を「1メッセージ」に集約していく。そうすれば、膨大なプレゼン資料なんて必要なくなって、残業時間なんて案外簡単に減らせるんじゃないかと思う。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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