メディアグランプリ

ウイスキー始めました


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記事:久田 一彰(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「あ、こんばんは。お会いするのは久々ですね」
そういうKさんに私は軽く会釈して、カウンターの隣の席に座った。
Kさんの前には、今日もウイスキーが入った小さなグラスが置いてある。
 
夜24時には秋葉原にあるコンセプトバーに、私は夜な夜な通っていた。
仕事は順調とはとてもいえない中で、唯一の楽しみがここに来ることになっていた。
 
睡眠時間を確保するため、週末の仕事が終わって一旦漫画喫茶に行き、仮眠してからそのお店に行く。朝までお酒を飲んで始発で帰るという、昼夜逆転の生活を送っていた。
 
社会人としては決して見習われない生活で、会社の嫌なこと全てから逃げるように生きている。お店の方や常連さんに会うためだけに生きている様なものだ。
 
そこのコンセプトバーでの楽しみは、接客してくれる女性に会いに行き楽しくおしゃべりすること。そして、常連さんと話すことが目的だった。
 
お酒を飲むのは話すきっかけにするための潤滑油であり、あくまでおまけみたいなものだった。
 
「じゃあ、いつものオリカクお願い」
その女性が作ってくれるオリカク、つまりオリジナルカクテルを注文すると、とても喜んで張り切って作ってくれる。作っている顔を横目で見ながら、出されるのを静かに待っている。
 
慣れた手順でグラスに氷を入れる。マドラーで氷をグルグル回してグラスを冷やす。
そこへ甘いブルーキュラソーと呼ばれる青いカクテルを作る液体を入れ、ジンやウォッカを適量で入れる。炭酸水も少し混ぜて、シュワシュワ感を演出してくれる。
 
「どうぞ、勝浦です。海が綺麗だし、お酒の色にもあうからそう名付けました」
そう言って目の前に出してくれたオリジナルカクテルは、青く透き通っていて本当に海を思わせるものだった。
 
一口飲むと炭酸やジンの爽快感が広がり、とても気持ちよく飲めた。
「いいね、だけど今日はちょっと濃いめなのかな、もう少しウォッカを少なめにすると、さらに飲みやすくなるかも」と専門家のようなことを言いながら、思ったことを口にした。
でも本当は何がそうなって味が作られるのかは分かっていなかった。その女性に気に入られたくて出てきた言葉達なのだ。
 
ふと隣のKさんが、
「なら、俺にもそのオリカクちょうだい、ウイスキー飲んでいたらキツくなってきた」
「え? Kさん何のウイスキー飲んでいるんですか? いつもそれ飲んでいるから、何の銘柄なのか不思議に思っていたんですよ」
「これはハーパーって言うんだよ、アメリカのウイスキーで入門用のバーボンとして飲まれているやつなんだ。バニラの高い香りがあり、トウモロコシもしっとり香ってくるよ。味わいも、軽やかな口当たりで、その中でアルコールの刺激と酸味が味わえるんだ。好きだからいつも頼むんだ」
 
確かにKさんは、いつも小さなグラスに注がれた琥珀色の液体を、カウンターの前に置いていた。
私より一回りくらい上の年齢だと思われるKさんは、その佇まいやウイスキーを飲んでいる様子からやはり大人なのだ。と29歳の私はそう思った。
 
ウイスキーなんてアルコール度数が高くて口当たりがきついし、横文字が沢山で銘柄は読めないし、何だかとっつきにくそうと思いながらも、どこかしら飲める人に憧れを持っていた。
 
かすかな照明が頬を照らすカウンターでグラスを傾けながら、目線はどこか一点を見つめる時がある様子は大人の男だ。私も負けじと「じゃあ、次はウイスキーにする。Kさんと同じハーパーちょうだい」と注文する。
 
「飲み方はどうします? ストレート? 水割り? シングルにしますか? それともダブルにしときます?」そう聞かれて困った。
ストレートや水割りはまだわかるが、ダブルとシングルとはなんだろうか。濃さなのか割り方なのか全くわからなかった。
「じゃあ、とりあえずシングルで」そう答えるのが精一杯だった。
 
大人のふりして注文したものの、返された言葉には反応できなかった。
出されたウイスキーの飲んだ感想を「うん、うまい。飲みやすい」としか言えなく、気が利いた言葉ひとつも出てこないし、味のこともどう表現したらいいのか、さっぱりわからない。
 
ウイスキーの飲み方や用語がわからない私にとって、その世界は海のようだった。
「知ったかぶり」という名前の小舟で出航してしまった私は、そのウイスキーの海で溺れてしまったのだ。
 
後から調べると、シングルとは指一本分の量で、ダブルは指二本分の量のことだった。
 
他にもソーダ割や牛乳割りなんかの飲み方もあるし、見た目や香りを楽しんだり、どんな料理と合うのか、おつまみは何がいいのか等飲みながら楽しむことができる。
 
さらにウイスキーが作られる蒸溜所の歴史を調べてみて知識を増やすこともできる。
興味が湧けば実際にその蒸留所に足を運んで見学することもできる。
 
味について語れば語るほど、そしてウイスキーを知れば知るほど、その海に潜っていくことになる。その深みに自分が到達した時に、その深さでしか見えない景色がある。
 
今はまだウイスキーの浅瀬でチャプチャプしているが、ウイスキーのことを紹介する仕事を通じて自分もさらに潜って行ってみようと思う。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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