メディアグランプリ

JKのタイムカプセル


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記事:みっこ(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「今日は良い天気だね~」
 
……は!? これがJKの会話か!?
もっと、他にあるだろう。思い出せ!
 
 
30歳も過ぎた頃。
高校時代の友人と電話をしながら、
私は焦っていた。
青春時代が、どんどん色あせていくようで……。
 
 
 
その電話は、突然かかってきた。
 
彼女からの久しぶりの電話に、私達の会話は
弾みに弾んだ。あの頃、制服に身を包み、人生で
一番輝いていた彼女も私も、今では主婦になって
いた。10年以上、連絡が近況報告程度だった
溝を数時間で埋めてしまう程の濃い内容だった。
結婚生活や家族の悩み、健康や仕事の相談まで、
色々なことを共有し、相談し合う。
そんな楽しい会話が続く中、
 
「あの頃は、毎日みんなでお昼ご飯食べてた
よね~。その時、どんな内容の話して
たっけ?」
彼女の、そんな一言がきっかけだった。
 
当時、どんな話をしていたのか……。
私は無性に、それが気になった。少しずつ思い
を巡らせると、記憶の中の私は……
 
天気の話をしていた。
 
 
……は!? これがJKの会話か!?
もっと、他にあるだろう。思い出せ!
 
 
記憶の中の私は、彼女を含めた6人ほどの
女友達と、和やかに微笑みながらお弁当を
食べている。頭の中に映し出された光景は、
楽しそうな高校生そのものだ。
それなのに、会話の内容が似つかわしくない。
公園のおばあさんも、もっと中身のある会話を
しているだろう。
 
たしかに、天気のことも話したかもしれない。
でも、天気の話だけってことはないはずだ。
思い出せ、他にもあるはずだ。
私の青春の1ページは、天気の話ですべて
埋まってしまった気がして、急に過去の
思い出がモノクロになったように感じた。
 
ドラマのワンシーンなんかだと、
甘酸っぱい恋の話とか、学校行事の話とか、
部活や勉強や、流行りのテレビ番組の
話とか……。少し考えただけでも、たくさん
思い浮かぶ。それなのに、思い出せるのが
天気の話だけって……。
どうしても、天気の話以外には思いつかず、
逆に電話口の彼女に聞いてみた。
 
「何を話してたか、全然思い出せない。
どんな話をしてたっけ?」
 
彼女は、すかさず答えた。
「天気の話……かな」
 
やっぱり……そうか。私の記憶違いという訳では
ないのか。その瞬間、私のモノクロの世界は、
ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
 
今、彼女とこんなにも仲良く話せるのに、
どうして高校時代に、いろんな気持ちを共有
しなかったんだろう。
 
後悔の2文字で胸がいっぱいになり、思わず
私は口走った。
「もっと、いろんな話をすれば良かったね」と。
 
もしあの時、もっと踏み込んで話をして
いたら……。
出来もしないことだと分かっていても、
つい考えてしまう。
 
でも、ふと思った。
当時の私も天気の話がしたかった訳じゃ
ないはずだ。だとすれば、あの時、踏み込め
なかったのは……一体なぜなのか?
 
高校時代の私にとって、学校は唯一の居場所
だった。学校というコミュニティから排除
されれば生きていけないのではないか、
そう思うくらいに、いつも何かに支配され、
怯えていた。
だから私は、それに気付かないフリをしながら、
天気の話をし続けたのではないか。
もし、本当の悩みを相談してしまったら、
居場所を失ってしまうかもしれないから。
 
でも、その恐怖を乗り越えて心の内を明かして
いたなら、もっと深い友情を育めたのかも
しれない。
 
もし……。かも……。だったなら……。
 
私がそんな葛藤と戦っているとも知らず、
友人はこう言った。
 
「いや、むしろ……大した話をしてなかった
から、今が面白いんじゃない?」
 
友人はこう続けた。
「高校時代の悩みって、すべて学校での悩み
だった気がする。学校での人間関係、勉強、
部活、恋愛。それを同じコミュニティの友達に
相談するなんて、やっぱり怖いよね。
だから、私も当たり障りのない天気の話を
してたんだと思う」
 
なんと! ほとんど、私と同じ考えじゃないか!
でも、それがなんで面白いんだろう?
 
友人の話はこうだった。
「でも、そのおかげで今、すっごくワクワク
してる! あの時解けなかった問題の
答え合わせをしているようで、面白くない?」
 
 
学校という小さなコミュニティから飛び出し、
今まで出来なかった話を打ち明けるように
なった私達。
 
 
彼女に、初めて恋の話をした時。
もっと早く話せば良かったと後悔した。
彼女に、初めて家族の相談をした時。
もっと早く相談すれば良かったと後悔した。
 
彼女が同じような悩みを抱えているのだと
知った時も、彼女が私とは全く違う考え方を
教えてくれる時も、いつも、話をして良かったと
思えるのはなぜだろうか。
 
それは、○と×が明確な学校という小さな世界
から脱却した私が、答えのない世界で
生きているからかもしれない。
 
もし、今の私が、高校時代にタイムスリップ
したら……。天気の話はしないで、無理にでも
別の話をするだろうか……?
いや、答え合わせの面白さを知った私は、
やっぱりまた、天気の話をし続けるだろう。
 
 
だって、天気の話をし続けた先にも、親友を
見つけられるという、こんなにもステキな
未来があるのだから。
 
 
私が話せなかった青春時代の悩みは、ずっと封印
され続ける予定だった。
しかし、そうでもないようだ。
大人になった今、その当時を知る友と、その頃
話せなかった思い出を語り合うのも
いいじゃないか。
心の中に、ずっと秘めていたタイムカプセルを
掘り起こすように、当時の話をしながら笑い合う。
 
「明日も、良い天気になるといいね」
 
 
 
 
***
 
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2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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