メディアグランプリ

子ども達はサバイバー


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記事:石川良美(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
私の子ども達は皆、帰国子女だ。未就学児期をアメリカで過ごした。
そういうと皆「子どもさんは英語がペラペラ話せていいわねー-」とか「カッコイイ」とか「うらやましい」とか言ってくださるのだが、皆さんが思っているほどかっこいいことでも、うらやましいことでもない。むしろしんどかったんじゃないかなぁと思うことが多い。彼らはほんとによく頑張った、サバイバーだと思ったことが何度もある。
 
長女が幼稚園に通っていた時のことだ。彼女はアメリカに来て2年が経ち、4歳になっていた。おうちでは上手に日本語でおはなしできるようになり、近所に住む日本人ハーフのお友達と週に1回遊ぶのが楽しみだった。そして平日はアメリカ人の通う現地の幼稚園に通い、週末は日本語補習校の幼稚園に通っていた。
ある日彼女は私にそっと話してくれた。平日に通う幼稚園で、自由遊びの時、おままごとになったら私は猫の役しかさせてもらえないと。友達は交代でお母さんになったり、子ども役になったりするのだが、私は猫にしかならせてくれないと。
彼女も、そしてアメリカ人である彼女の友達も、彼女が思うように英語を話せないことを知っている。知っているからこそ「英語を話さなくていい」猫の役を彼女に与え、彼女もそれに甘んじていた。
だが彼女は、言葉が話せないのではない。ただ英語が思うように話せないだけだ。日本語だったらどれだけ流暢に話せて、どれだけ上手にままごとごっこができるだろう。きっと彼女は、毎日歯がゆい思いをして、猫を演じていたのだろう。私はこの話を打ち明けられた時に、思わず涙がこぼれた。
 
彼女の2歳年下の息子も、日本語が強い子どもだった。しかし生後6か月のときからアメリカに住んでいるからか、きちんと英語を理解しているかどうかはさておき、アメリカ人とコミュニケーションをとる術は長女よりも長けている子だった。
そんな彼が、年中の時に幼稚園に通っていた時のことだ。そのクラスには、大きな体格の男の子がいて、その子が何かと息子に突っかかっているようだった。あの子が意地悪する、ということを息子から何度も聞いていた。でも送り迎えの時間の中でその様子を見ることはなかったし、先生からもみんなと仲良くしていると報告を受けていたので、私はそんなに気にしていなかった。
 
ある日、少し早く幼稚園にお迎えに行った時のことだ。子ども達は園庭で遊んでいた。寒い冬だったので、みんな帽子にマフラー、手袋、スノーパンツをはいて外で遊んでいた。
息子がブランコの一つに乗ろうとした。そのすぐそばに、その男の子がいた。そして息子のブランコを引っ張って乗らせないようにした。
それを周りで見ていた数人の男の子や女の子が、面白がって一緒になって意地悪を始めた。
息子がブランコを取りに行く。
近くまで寄ってきたら、男の子がふっとそのブランコを手放す。
何度もそんなことが起こった。
 
息子は言い返せない。なんて英語で言ったらいいかわからないのだ。
くやしそうな表情を浮かべて、必死にブランコを取り返そうとするが、なかなか取り返せない。
その様子を面白がる子ども達。にやにやしながら、翻弄される息子を眺めつつ、次々にブランコをパスしていく。
 
ふと、息子が私の姿をとらえた。
息子はわっと泣き出し、私のもとに走ってきてこうわめいた。
 
「ほら! こんなことをするんだよ! いっつも! いじわるなんだよこの子たち! みたでしょ!」
 
気がつくと、私は泣いていた。
こんなところ、見たくなかった、と思った。
そして泣きながら車に乗り、気を鎮めるためにいったん家に帰った。
震える手で先生に手紙を書いた。そのあと改めて息子を迎えに行き、手紙を渡した。
 
手紙には、息子がいじめにあっていると前から訴えていたこと、そして今日目の前でその現場を見て非常にショックを受けたこと、いじめた子ども達の保護者にこの事実を伝えてほしいことを書いた。
後日、夫が付き添ってくれて先生との個人面談に赴き、いじめた子ども達にきちんと話してほしいことを再度伝えた。そして息子にも、今回のようなことがまたあったら、きちんと親に伝えるようにと話をした。幸いなことにそれ以降は息子が泣いて帰ってくることはなかった。
 
私は、これらの事実をもって、「人種差別」と言いたいつもりではない。第一、年少程度の子ども達に、人種差別という概念はそれほどないと思われるからだ。
けれども彼らには、言葉が思うように話せない、肌の色が違うアジアの子どもに対する違和感に敏感なのだ。そしてそれが、人種差別にも似た行動に容易に発展しうるということは、しっかりと肌で感じた。
そんな中で長女も、そして息子も、必死で幼い日々を生きてきたのだ。
 
私自身は、アメリカに住んでいるといっても、夫のように会社に勤めているわけでもなく、子ども達のように学校に通わなければならないわけでもなかった。つまりどうしても英語でコミュニケーションをとらなければならない環境に置かれたわけではなかった。だから英語のレベルや自分のタイプに合った、コミュニティを探して交流すればよかった。
けれども彼らはそうではなかった。当時私が考えられる中でも良いといえる幼稚園環境を与えられたとは思っている。けれどもその中で、馴染みのない英語を話す環境に慣れなければならなかった。同時に彼らは一般的なアメリカ人とは違う、ということにも対応していかなければいけなかった。その過酷さに幼いながらも晒されていたのだと思うと、今でも心が辛くなる。だからこそ、そんな時期を潜り抜けて、それぞれのアイデンティティをしっかりと形成し、成長してくれた子ども達は、本当に強い、と思うのだ。
 
 
 
 
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2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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